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八咫烏3

「姫様に救助を求めた。これでいいんだな?」

「ああ。下準備をしなきゃヴァルキュリアと勝負になんざならんからな」

「それなら翔太を返せ。弟は巻き込まれただけだ」

「冗談だろ。本物の魔法使いを自由にするほど俺らは馬鹿だと思うのか?」


 せせら笑う八咫烏の人間を冬木は何も考えずに燃やし尽くしてやりたい気分だった。

 魔法を使える特別な人間になれたとのぼせ上がって弟を危険な事件に巻き込むばかりか、仲間を裏切り窮地に陥らせようとしている。これがネトゲで副リーダーとして振る舞っている人間の正体だ。自分の事ながら反吐が出る。そう内心で冬木は毒づいた。


 形の上では霊能力者の前田拓巳から頼まれて協力した事になっているが、明らかに拓巳は小学生の弟を巻き込むのを躊躇していた。やんわりと置いていくべきだと言って来たのを覚えている。それを大丈夫だと笑って拒否したのは冬木自身だった。中学生の拓巳を無意識に侮って忠告を軽んじたのだ。

 いや、思えば妖精を見に佐藤江利香の自己領域を訪れた時も同じような意見を言われている。危険だと。もっと用心すべきだと。

 忠告してきた鈴原天音は翻訳家のギフト保持者だ。つまり、言葉を覚えるのが少し早いだけの普通の人間である。内心で馬鹿にしてたのかと冬木は思い返して、違うと気が付いた。


 一番最初に忠告をしてきたのはアリス姫だった。まだ幼い弟を見て、本当に良いのかと聞いてきたのだ。

 その時、冬木は自信満々に良いと答えた。弟にツマラナイ大人になんてなって欲しくなかったからだ。子供の頃の憧れを捨てて常識という枠に嵌まって未来を狭めて欲しくなかった。

 だが、今になって手遅れになって冬木は思う。実はそれは自分本意な願望の押し付けに過ぎないんじゃなかったのだろうかと。

 弟は翔太は魔法使いになりたいと本当に言ってきただろうか。周りがいさめてくるからムキになって頑なになっていたのは自分の方ではなかったのか。

 そう、最初に翔太に言われた言葉は。


『兄ちゃん、凄いね。僕も兄ちゃんみたいになりたい!』


 そうだ。僕みたいになりたいと弟は言ったのだ。


「っ」


 泣くな。自棄になるな。後悔するのは全部終わった後だ。考えろ。情報を集めろ。打開策を探すんだ。

 見た限り八咫烏の構成員は多くない。このボロボロの廃墟にいるのが下っ端だけだとしても7人は少なすぎる。実働部隊がこの少人数なら組織の規模もたかがしれている。十分に出し抜くことは可能なはずだ。


「お前らの目的は何だ。拓巳君を浚おうとしたのは有望な若者の勧誘と技術の獲得で納得できる。でも姫様の話が出て明らかに態度が変わったな?」

「どうする?」

「あー、最悪の場合は八咫烏が壊滅するし教えても良いかもな」


 考え込んだ八咫烏の構成員の一人が話し出す。それは拓巳と実際に矛を交えたらしいリーダー格だった。

 他のメンバーにセイと呼ばれている青年だ。


「フリーメイソンが意図的にオカルト文化を衰退させたっつーのは話したな。日本最大のオカルト組織が素人の集団にまで落ちぶれた原因だ。オカゲで俺らは餌か人柱かなんて人生を強要されてる」

「聞いた。でもそれが僕達と何の関係がある。単なる八つ当たりとしか思えない」

「お前ら兄弟が無関係だっつーのは俺らも理解してるよ。だから痛めつけたりもせず、お客さん扱いしてるだろうが」


 誘拐犯に大切にしてやってるから感謝しろと言われて怒り狂いそうな中、冬木は自分を抑え付けた。

 無駄に騒いでも事態は好転しない。


「だが、お前らのリーダーは明らかに巨大組織の関係者だ。じゃなきゃ現代で大手を振るって異能組織の結成なんざ出来るか。しかもこの日本でだ」

「フリーメイソンに睨まれるからか」

「そうだ。で、上に聞いたら、そんな動きは確認してないんだと。フリーメイソン以外はな」

「だから姫様はフリーメイソンの関係者だと? 短絡的過ぎないか?」


 ハッと笑ってセキは言う。驚愕の事実を。


「政府も警察もメディアもフリーメイソンの影響下なのに他国の組織の影が見えなきゃ決まりだっつの。他の可能性なんざねえ。日本に俺ら以外のオカルト組織はパチモンしかねえしな」


 言われたことを冬木はしばらく理解できなかった。まるでそれはフリーメイソンが日本を支配していると言ってるように聞こえたからだ。


「言ってんだよ。フリーメイソンが日本を支配してるって」

「何でだ。どうしてそうなった」

「第二次世界大戦で負けたからだよ」

「ますます分からない。日本は少なくとも名分上は独立国だ」


 日本は経済大国として大きな影響力を持つ。GDP世界三位だ。

 アメリカの実質的な植民地だと揶揄されることはあるが本気でそう思っている国はないだろう。影響力が大きすぎる。


「日本には象徴だとしても王様がいるだろ。その王様が人質に取られちゃ公的機関は逆らえねえ。民間企業は金でどうにでもなる」

「まるで天皇陛下がフリーメイソンの支配下にあるかのような」

「支配下じゃねーな」


 セイは顔をしかめて言う。


「日本のフリーメイソン支部トップが天皇だ。天皇が日本の象徴だっつーのはフリーメイソンの植民地だって宣言するに等しい」



 第二次世界大戦終了後、日本は敗戦国としてGHQに一時占拠された。

 そのGHQメンバーはフリーメイソンで構成されており、昭和天皇と会談して写真を撮ったマッカーサーもフリーメイソンの一員だった。

 また都市伝説ではなく歴とした事実として天皇をフリーメイソンに加入させようとした記録が残っている。

 その計画はGHQの将校であった人物の不祥事によって頓挫したと伝えられているが、事実は少し違う。


「ブルーブラッドだ」

「アメリカの貴族階級の事ですよね。彼らが関係してくると」

「違う。ブルーブラッドは始まりの蛇に連なる祭祀の一族で……面倒くせえ。特別な血を引くフリーメイソンの支配階級だと覚えとけ」

「は、はぁ」


 何が言いたいのか分からずに冬木は困惑した。ブルーブラッドによる復興支援の約束と引き換えに利権を渡したくらいしか彼には思い付けない。

 だが、現実は時にフィクションを上回る事がある。


「奴ら始まりの蛇から血を授かりやがったんだ。フリーメイソンにとっても貴重な、国宝級の宝石みたいなもんだろうに。ソレをよりにもよって」


 八咫烏のメンバーの一人が涙をこぼした。天皇を組織結成から守護してきた八咫烏にとって、その事実は絶望を意味した。

 たとえ一般市民だろうと受け入れられたかは疑問だ。この事実が明るみになれば日本は巨大なテロ組織と化して戦争は終わらなかったかもしれない。


「天皇に投与しやがった」


 日本はフリーメイソンである天皇を象徴に掲げた法治国家だ。

 GHQの作成したマッカーサー草案、日本国憲法の草案は新世界秩序の法律のテストケースとして作成された。


 日本国とはつまり、フリーメイソンによって運営される実験場なのである。

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