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八咫烏1

 八咫烏。初代天皇が日本の支配者となる以前から協力した導きの神である。

 その名を組織名に抱く彼らもまた天皇家に仕える秘密結社であり、日本の霊的防護を担う国の柱であった。

 オカルト文化が迷信だと蔑まれ、時の政権に冷遇され、他国の軍隊に弾圧されようと彼らは生き延びて役割を果たそうとした。文献が散逸し技術が途絶え、絶えず襲いかかってくる霊に人員を減らしながらも尚。

 年々、減っていく人員は有望な子供を市井から浚う事で補完し、弱体化した力は邪法を利用することで補う。

 そうすることで致命的なまでに衰退した日本の対魔組織を維持していた。


「それで行き着いた結論が蠱毒ですか。悪霊を喰らう悪霊。本末転倒だ。制御できるわけがない」


 前田拓巳は浚われた少女を救うために八咫烏の構成員と睨み合っていた。

 ABEと名乗る正体不明の人物の忠告通り、マヤちゃんの父親は拓巳を誘き出す事と引き換えに娘を返してやると持ちかけられ八咫烏に加担していたのだった。

 幽霊に浚われかけたという少女の噂を聞きつけ、八咫烏は何時ものように強力な魂を秘めた少女を誘拐しようとして、拓巳の渡した御守りの異常さに気付いたのだ。

 歴史ある過去の遺物ならばともかく、現代ではあり得ない程に高度な守護の御守りに拓巳は八咫烏に目を付けられていた。一緒に来たはずの仲間達も濃霧の中ではぐれて孤立している。おそらくは悪霊の仕業であると思われた。八咫烏は悪霊を使役しているのだ。


「そうだろうな。お前みたいな超越者から見たら俺達のような素人の足掻きはさぞみっともなく映るだろう」

「違います。危険過ぎると言ってるんです。何の呪術も使用された形跡はない。これでは普通の悪霊との違いなんてありはしないでしょう」

「ああ、その通りだ」


 拓巳の前にいる八咫烏の人間は霊感が強いだけの普通の人間であった。拓巳の目には自分の教え子の方が余程、強い力を持っているように見える。

 そんな彼が拓巳ですら危うい悪霊を使役している。その理屈が分からなくて拓巳は困惑していた。あり得ないのだ、そんなことは。まるで悪霊が自らの意思で八咫烏に協力しているかのようであった。


「八咫烏の人間ならば霊視は出来るからな。霊と会話を通じて協力してもらっているのさ」

「不可能だ。悪霊がそんな理性的な存在なわけが」

「悪霊じゃない。ただの地縛霊だ」

「本気で言ってるんですか! それは正気のままカニバリズムを強要したようなものだ!」


 拓巳には契約以後、霊の姿が鮮明に見えるようになり言葉もハッキリと聞き取れるようになった。

 だから知っている。未練を残してこの世に残っている霊は自分が死んだ事にすら気付いていないのだと。

 倫理感は生前と同じ。だから人を食べよう等という思考はしない。悪意でたがが外れ狂った悪霊と一緒にしてはいけない。


 いや、それ以前に不自然な点に拓巳は気付いた。悪霊にも言える事だが、霊に霊の姿は見えない。

 故に悪霊も人を襲って魂を喰らおうとするのであって、悪霊を喰わせようとするからには生前から霊視が出来なくてはいけないのだ。


「まさか。その地縛霊とは……」

「気付いたか。八咫烏のメンバーだよ。お前が悪霊だと貶したのは俺の弟だ」


 男もまた八咫烏の浚った子供達の一人であり、彼の使役する悪霊もまた元はそうであった。

 八咫烏とは日本の為に集められた人柱の組織なのだ。

 そうやって、日本は辛うじて維持されてきた。とうの昔に霊的防護など破綻しているのだ。被害を極一部に偏らせることしか出来てはいない。


「何故」

「他に生きる方法なんざねえ。お前も経験はないか。霊に群がられた事が」

「……何度か」

「八咫烏が浚わなきゃ、どっちにしろ死ぬんだ。これはどう死ぬかの話だ。単なる被害者として悪霊を肥えさせるか、それとも」


 男は苦悩を吐き出すように叫ぶ。


「仲間を生きながらえさせる礎になるかだ!」


 そうやって彼らは生きてきた。

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