#12 The Final Trial/最後の闘い
魔王城で密かに侵入してきた王様がマトリクスの力と自身のイレギュラーエネルギーによる、別世界に手を出してしまうほどの魔神へと変貌した。この世界、レベッカの暮らす世界にとって脅威なイレギュラーモンスターにどう立ち向かうのか、作戦を練る必要があった。
「私のマトリクスはしばらくの間、解放できない。君たちのアイデアがあれば助かる。」
「わしにはどうすることもできん。」
「異次元に封印する魔法はダメか。封印したとしても、王様の持つマトリクスで扉が開かれてしまうだろうし。魔王はどう思う?」
「我にはどうすることもできぬ。」
「同じか。魔王の力をもってしても、敵わないということか。じゃあ、ネメシスはどう動く?」
「私にはマトリクスがないから。貴様とは違う。」
「目の前の脅威にそこまで気弱とは、君らしくないな。」
レベッカは前回の話に説明した通り、シリアスモードだ。事が終わるまで、柔らかな口調や笑顔を見せることはないだろう。
「ミント彩香なら、前向きな言動で皆を立ち上がらせたのだろう。...一肌脱ぐとするか。」
そうしようと考えたその時、ずっとだんまりでいたパメラが皆を奮い立たせるような言動をとったのだ。
「諦めないで!!レベッカがみんなのために頑張っているのに、どうして何もできないの!!」
「パメラよ...目の前の絶望に屈した、わしらに何ができるというのだ...。」
「うぬの力をもってしても止められぬというのに。」
「...そうだな。気弱になってもしょうがないし、腹をくくって頑張るしかないか。恥ずかしいところを見せて悪いな。」
ネメシスは立ち上がったようだが。
「ところでマーシーはどこかな?」
王様の護衛として働かされたので、彼は既にこの近くにいた。
「君のチート技で、魔神を止めよ。2の時、演劇の時によく使っていたので簡単なはず。」
「任せよう。王様を止める。」
マーシーは久々にあのチート技を披露した。
「うるせぇぇぇぇぇぇばっかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
だが、魔神は彼のチート技で終わるはずはなかった。
「しぶといといえど、相当な深手を負ったはず。その調子でガンガン攻めよう。皆よ、私に続け!!」
ありったけのプラズマ弾でお見舞いするレベッカ。ネメシスも負けてられないと黒き剣を手に持ち、立ち向かった。一方カイルとモンキングは奮闘している二人のレベッカに申し訳なく思っていた。
「...わしらも見ているだけでは、奮闘している二人に申し訳ないな。加勢するぞ、魔王。」
「言われなくともそうするぞ。」
二人は立ち上がり、すぐに加勢した。
「君たち、共に戦ってくれるのはありがたい。だが、今じゃ一筋縄ではいきそうにないな。」
「何をいっている、わしらも頑張ると決めたのだ。彼女の為なら、敵う相手じゃなくとも、全力を尽くす。これがわしの覚悟ということだ。」
「我は魔物の王。それぐらい活躍せねば、魔王の名折れだ。うぬらの力になろう。」
長期戦になるだろう、相手がなかなかしぶとい魔神なら、なおさらだ。ここで粘るしかない。
「なかなか倒れない大木の王様...とはいえ、厄災ほどではないな。」
彼女の経験してきた厄災戦に比較して、それほどではないと感じた。
「君たち、一気に畳み掛けるよ。」
マトリクスが使えなくても、仲間の力なら倒せると。RPGのように技を駆使して戦い、互いにカバーしあい、そこまで魔神を追い詰めた。モンキングの雷魔法を喰らい、マーシーのチート技でとどめだ。魔神は崩れ倒れた。
「...勝ったのか?」
しかし、魔神はしつこいほど起き上がった。
「塵芥へと...成り果てやがれ......。」
「どれほどしつこいんだ王様は...。」
魔神はまだだと言わんばかりに、飛びかかってきた。「もう諦めなよ。君は厄災ほどではないし、足元には及ばない。」
レベッカはそう思ってきた。2014年、2019年に起きたイレギュラーによる事件のうち、前者はアイドルグループ握手会傷害事件、後者はアニメーション制作現場放火殺人事件の事を指す。その犯人はいずれも厄災と同じ男性で、他県からの侵略者であった。複数のアイドルに危害を加えた心のない男、道を踏み外し自暴自棄になり火を放った哀れな男だが、彼らの持つイレギュラーエネルギーは厄災ほどではなかった。レベッカの見解であった。彼女は冷たい目で王様を見ていた。
「君のような外道には決して許されるものではない。何をしていようが、法や警察が黙視していても、私は君を許さない。」
外道や悪党に対して容赦しないレベッカはプラズマパンチで魔神を貫いた。その一撃で魔神は死んだ。この光景を見た一同は驚いていた。
「...いつものレベッカじゃない。どうしたの...。」
不安を隠せないパメラに彼女はそう答えた。
「私のやり方で悪党を...いや、私の正義を全うしたまでだ。」
「これで世界は平和になったのか...?」
「厄災なら性懲りもなく繰り返してきたはず。だが、この悪党には何もしてこない。終わったな。」
王様による事件は全て終結した。この場にいた皆は王都の人々に知られぬよう、その骸をモンキングが管理するようにした。王都に戻り、カイルの彼女を解放してあげ、感動の再会を果たした。民衆の前に「王様は魔王にやられた。その仇討ちとして魔王を打ち倒した。」と説明した。
マトリクスは全て揃えたことだし、元の世界に帰るとするレベッカとネメシス。改めて異世界の扉が開き、異世界の仲間達に別れの挨拶をしていた。
「君たちとお別れするのはさみしいな。でも、いつかまた会えるさ。」
「レベッカよ、わしの彼女を救ってくれたことを、心より感謝する。」
「こちらのレベッカはいつか戻ってくる。きっと。」
「ほら、おっさんも。元々この世界の住民じゃないだろ?」
「...カイルとパメラ、君たちと旅ができてよかった。このことを忘れないよ。」
「俺たちを忘れちゃっては困るぜ。」
ここに来たのは不人気ギルドのメンバーと、出会ってきた仲間たちであった。
「それどころか、君たちまで...。大丈夫、もちろん君たちを忘れないよ。」
「別れの挨拶は済んだか?そろそろいくぞ。」
ネメシスが待っているので、そろそろ異世界の扉に足を踏み入れた。
「さよなら、また会う日まで。」
ネメシスはマーシーの腕を掴んで引っ張りながら。
「ほら、おっさんもこちら側の住民だろ。こっち。」
あっけなく終わってしまった、実感がないマーシー、旅ができて楽しかったレベッカ、早く帰りたがりなネメシスは元の世界に帰っていった。お別れを見届けたカイルはこう呟いた。
「いつかまた会える...か。」
ここは異世界と元の世界に繋がるトンネル。周囲には何もなし、異空間のような風景だ。帰路についていたレベッカだが、この先には最後の試練が待ち受けていた。
「誰!?」
「我々は異世界の番人。多数の異世界をを司る存在。おまえは異世界で生じたイレギュラーの存在を見事討ち取った。」
「イレギュラーの存在って...王様の事か?せっかく平和になったのに...。」
「だが、おまえには過ちを犯した。」
「何の事?」
「数日前、おまえがイレギュラーの存在をこの場所に放り込んだ。」
「あのグリズリーの事?あの時は手には負えなくて、仕方なく...。」
異世界の番人はギガグリズリーを連れ込んだ。
「おまえには、このイレギュラーの存在を片付けてもらう。」
「私の傍にネメシスとマーシーがいる。今の私なら簡単に片付くことができる。いいだろう。ささっと片付けよう。」
異世界冒険における終点、最後の試練が始まった。番人の掲示するクエスト「イレギュラーことギガグリズリーの処理」を引き受けたレベッカ達は、ギガグリズリーと戦うことにした。ギガグリズリーはなかなか倒れない、しぶとい怪物であるのは承知の上だ。マーシーのチート技なら楽して倒せるという、そんな簡単なことをいつでも思い付く。したがって、レベッカはマーシーに全力を出すよう指示した。マーシーはそれを応じるかのように、全力でチート技を連発した。ギガグリズリーの持つイレギュラーエネルギーを分離させることに成功し、吹き飛ばした。禍々しく、その変貌はまさに悪魔だった怪物はすっかり元通りになった。しかし、これだけでは試練は終わらなかった。分離されたばかりのイレギュラーエネルギーをどう対処するのか。
「イレギュラーエネルギーは何かに取り憑かないと真価を発揮しない。そうだったよね。」
「だが放っておいては、危険なだけだ。」
イレギュラーには、宿主が死ぬと消えるらしいが、宿主から放出しても消えることはない。宿主の非道かつ愚行を繰り返すと同時に、体内にあるイレギュラーエネルギーを増大する。この方法で肥えたエネルギーが消えるのは難しい。だが、ほんの小さいイレギュラーエネルギーなら可能だ。その可能性を信じるネメシスは、イレギュラーエネルギーを細切れになるよう切り刻み、その欠片はこの場の3人と、異世界の彼方の人々に乗り移った。結果、心正しき者によるイレギュラーの力を発揮することはなく、消滅していった。
「終わった...。」
「おまえたちの試練は終わっていない。」
「まだあるの?」
「おまえにとって真の最後の試練、もう一人のおまえを元の世界に送り出せ。」
「そういや、もう一人の私って、王様に放り出されたっけ?居場所はわからないのに...。」
そこで、番人が用意したと思われる異世界レベッカが出てきた。
「ねえ、元の世界に戻れるというのは本当?」
「もう一人の私!?どうして?」
「いやぁー、長らく未知の空間を彷徨っている最中、番人と名乗る謎の存在に保護されてね、元の世界に戻る方法を考えて、まさにそう。」
「まさにそうって何よ?」
「君なら異世界に出入りする方法を知っているはず。」
「何を言っているのよ。知るわけな...そういや、異次元封印の時、私とネメシスはこの空間を彷徨っていたな。その後、謎の光に包まれて、気がついたらカイルに再び召喚されたって事くらいかな。」
謎の光。レベッカが最初に転移された時にそうだったという。
「だが、いますぐとは限らない。誰かが召喚してくれるには何日もかかる。運が悪ければ、何日何年たっても戻れないということも。」
「そっか。もう私の世界に戻れないのね。」
「もし、よければ私の世界に来てくれるかな?といっても、最後の試練だから、課せられた試練を曲げることもできないな。」
元の世界に戻れない運命にあった異世界レベッカだが突然、謎の光に包まれた。
「これは、あの時の光!!よかったね、もう一人の私。」
光が小さくなり、異世界レベッカは無事、元の世界に転移されたようだ。
「それにしても...カイル、私をもう一度召喚しようと...本当...。」
召喚魔法を発動したカイルに疑問を抱いていたところ、番人の反応は。
「おまえは見事、全試練を達成した。おまえたちの元の世界へ案内しよう。」
レベッカの世界へと導いてくれるようだ。そう、本当の仲間の元へ。本来いるべきの世界へ。光り指す先にある終点へ。
「やっと、元の世界に帰れる。兄貴とマデリーンに会える。......色々あったな。」
光の中へ終結するレベッカの異世界物語。
―――――――――――――――――――――――――――――To be continued
*ログブック更新*
〇現在のパーティー
1.レベッカ
2.ネメシス
3.マーシー
〇マトリクス
赤:GET
緑:GET
青:GET
黄:GET
シアン:GET
パープル:GET
白:GET
いずれも手放している。