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ハードバレンタイン

作者: 睡みんと

えと、ラスト以外、バレンタインあんま関係ないお話かもしれません。

そのラストのためだけに書きました。


少し特殊な組織に属しているらしい、青年と少女のお話です。


最後までお読みいただければ幸いです。

楽しんでいただけたなら、これに勝る喜びはありません。

『さあ、次にお送りしますのも、バレンタインにぴったりのナンバーです。恋人たちの甘い恋のささやき……』


寒風吹き込む廃ビルにこだまする、携帯ラジオから流れるラブソング。浮かれる世間の様子を助長するよう。

ため息をつき、スイッチオフ。


「…何をしとるんやろね、俺は」


放り出したPDAに写る映像を確認する。・・・異常なし。

強いて言えば、ついでに移ってるカップルどもがすさまじくうざったい。


“そろそろよ、準備はできてる?”


前触れもなく、頭に声が響いた。脳が感じたのは、澄んだ少女の声。彼をこの場所に縛り付けていた、いまいましい相棒(というか上役)のもの。


「へーへー、準備は万端よ。こちとら朝の6時から、いつでも動けるよう待機してましたからね」


“やる気が感じられないわね?仕方がないでしょう、雪のせいではっきりと時間がいつだったかわからなかったんだから”


「もう少しはっきりと視てくれると、俺は今日という日を有意義に使えたんやけどね」


これまでの付き合いから、無駄とはわかりつつ一応抗議。


“今日ヒマだったとしても、どうせ一緒に過ごす相手もいないし、チョコももらえないんだからいいじゃない”


やはり無駄だった。しかも、もてない男に対しては鋭すぎる切り返し。


「んな!俺にだってなあ…」


“俺にだって?”


「……なんでもない、気にせんといてくれ」


ふかくふかぁく、ため息。頭の中に馬鹿にしたようなクスクス笑いが響いた。


“!…そんなことより、来たわよ”


「ん、見えとるよ」


PDAの画面の中では、事件が起こっていた。

有名な宝石店に突っ込むトラック、しばらくすると走り出てくる覆面の男が二人。手に持ったバッグからは、宝石がこぼれる。

野次馬を蹴散らすように走ってくる一台のバン。男たちが乗り込み、急発進。


「うわ、ずいぶん手際がええね。行きがけの駄賃に、別のもんまでパクッてくあたりは、三流やけど」


“…今見たんだけど、彼ら軍隊経験者みたいね”


「…マジか、って、銃もっとるぞ!?」


映像を巻き戻していやなことに気づいてしまった。


“…みたいね。意外と、準備いいわね”


「このへぼテレパス!んな話、聞いてへんぞ!」


“予知では銃は視えなかったんだもの、言ってるわけないわ”


いかにも、自分の責任ではない、と言いたげな少女の声だった。


「ざけんな!」


“まあ、言い合っていても仕方ないわね。いまさら防弾チョッキの準備なんか間に合わないんだから、あきらめて予定の地点に向かってちょうだい”


「……こんのアマ、覚えとれよ」


せめてもの負け惜しみを言う。


“心配しなくても、あなたはこの程度じゃ死なないわ”


相棒の少女はいつもどおりに無常だった。




「…ハァ…ハァ……ハァ……準備………完了っ」


そこは廃ビルのすぐそばの道路。街の中心部から続く道がカーブして、目の前を通っていた。

ビルから駆け下りざま、あらかじめピッキングしておいた自動車のサイドブレーキをはずして無理やり手押しし、道路と直角に止めて道をふさぐ。

かなりの重労働に、彼の息が切れる。


“よくできました。…ギリギリだったけど。30秒後、来るわよ”


「…ハァ……くそぅ、ちょっとぐらい休憩させろよ」


愚痴りながらも、車の陰で戦闘準備。片手に特殊警棒、もう片方の手にはパチンコだまをジャラジャラ握る。

近づいてくるエンジン音。カーブを曲がったところで急ブレーキのいやな音がする。

もう少し近ければぶつかってしまっていたぐらいの距離。予知とテレパスの指導による完璧な位置取りだった。


「なんだ!?」


不用意に顔を出した運転席の男の眉間にパチンコ玉の指弾をお見舞いする。


“左、出てくるわよ!”


相棒の声にしたがって、車の屋根を三段跳び。ドンぴしゃりのタイミングでワーキングブーツのつま先が出てきた男の頭部を打ち抜いた。


「(ずいぶん勘がにぶっとるな、元軍人。これならいけるか!?)」


そう甘くはいかないようだ。


キュン!……チュイン!


三人目は、車外にでるという愚を犯さずにいきなり発砲する。

銃弾は運良く顔を掠めて通りすぎた。

代わりに、運の無い標識が犠牲になったらしい。


「ッだぁっ!」


手を車内に向けて思いきり振るい、握り込んでいたパチンコ玉をばらまく。


「グ、ガッ」


キュン!バスッ!


確率論を裏切らず数発命中。

暴発した銃弾もバンの天井にいってくれた。斜めに切り上げるような警棒の一閃で、だめ押し。


「ふぅ、なんとか無事終わっ」


“てないわ、もう一人いる!"


その瞬間の反応は、自慢してもいい、と彼は後に思った。

とっさに車内に飛び込んで、助手席から突き出された銃身の射線から逃れられたのだから。

その代わりに、たった今倒した男と熱烈な抱擁を交わす羽目になったが。


銃弾が車外に飛び出す。

最後の男が銃の向きを調整。

発砲。


ガチン


撃鉄は下りるが、銃は不発。

それがわかっていたかのように、男に身を寄せていた彼は、銃身を外に捻った。


ゴキリ




「うぁー、マシで死ぬかと思た」


数分後、宝石強盗全員が拘束され、道路に転がされていた。


“ご苦労様、宝石は無事?"


先ほどまでの立ち回りの余韻も感じさせない少女の声。


「…俺の状況は無視かい」


“あなたが無事なのは感じてるからいいの。それより宝石は?"


「へーへーわかりました……これやな」


車内を漁ることしばらく、目的のモノを発見した。

丸々とした貴石が、黒く艶やかな輝きを放った。


「時価ウン億の宝石ねぇ?このチョコの親玉みたいなんが?こんなもん、宝石屋に置くなよな」


“……世界有数の宝石を手にとった感想がそれ?どれだけ不粋なのよ。視るだけの私は羨ましいのに。

まあ、あんな所に置くな、というのは同感だけど"


「これさえなけりゃ、俺は楽しいバレンタインを過ごせたんでね」


相手の有無については、とりあえず無視らしい。

人間だれしも、あったかもしれない可能性は、良いものだったと思いたがるものだ。


“それが展示されてた理由ってバレンタインだからよ?あなたの言う通り、チョコみたいだから"


「…バレンタインなんか、くそくらえや」


ウンザリとして言った。


「で、宝石とこいつらの回収は、いつになったら来るん?」


この上は一刻も早く引き揚げようと、相棒に問いかける。


“今回は警察に引き渡すから、もう二時間ほど待って"


「はぁ!?タレコミの電話でもすれば、三十分もかからんやろ?」


“上からのお願いで、警察のメンツを立ててやってくれって。

だから、証拠隠滅して、後は、警察が来るまでビルで見張ってて"


返ってきた少女の言葉は無慈悲だった。


「この寒空の中、さらに二時間、か」


“風邪引かないようにね"


にこやかな声が伝わってきた。


「……暖房効いた部屋にいるやつには言われたないわ。

はぁ、今日中に帰れるとしても…最悪のバレンタインやな」


“帰ったらポストでも調べてみたら?

もしかしたら、物好きな女の子から、チョコが届いてるかもしれないわよ?"


「そんなもんがないことは、お前が視て確認済みやろ?

誰が調べるか」


“……バカ"


何故か不機嫌そうな少女の声を最後に、交信が途切れた。



彼が、自宅のポストに入れられたチョコレートに気付くのは、それから三日後のことであった。

いかがでしたか?

お楽しみいただけましたでしょうか?


なんだか、ノリとイキオイだけでやってしまいました。


前書きにも書いたように、ラストのためだけに書いたお話です。


登場人物の名前が一切出てこないのは、一発限りの短いお話ならないほうがいいかな、と思ったからです。

同じキャラを使ったお話をまた書けば、こんどは名前を出そうと思います。一応、決まってはいるんですよ。

…まあ、また書くのかは不明ですが。



この短編をお読みくださった全ての方に、感謝を。



最後に、このお話を読んでいないであろう、大切な友人へ。

何年もかかりましたが、約束は守りました。

バレンタインなのに甘くないお話ですけれど。



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