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(8)解放

 藤原は、黒田が出て行った後、取調室から小さな会議室に移されていた。藤原は折りたたみ椅子に座り、ドアの横には警官が立っている。

 警官はにらみ付けるように藤原を見張っていた。取り調べが終わったからといって、藤原が被疑者から外されていないのが警官の態度から明らかだった。

(この部屋に入ってから三十分か……どうなったかな?)

 藤原が壁に掛かっている時計を見ながら考えていると、ドアが開いた。黒田だった。

「良子が吐きました」と言いながら、黒田が藤原の向かいに座った。

「タッチペンからは不鮮明な指紋しか検出できなかったのですが、良子に『犯行現場に落ちていたタッチペンだ。お前の物だな』と言ったら、泣きながら認め、自分から喋り出しました」

「そうですか。蜂須賀さんの死を知ったとき、良子さんはひどく動揺していましたからね。張りつめたものが切れたのでしょう」

 藤原は自分の容疑が晴れたと思い、安堵した声で言った。

「良子が言うには、朝香は良子の恋人だそうです。城郭巡りのユーザーだった良子が蜂須賀さんの宝探しの話をしたところ、金に困っていた朝香が興味を示し、二人でオフ会に参加することになったそうです。朝香は宝を横取りするつもりだったと言ってました。横取りする機会を狙っていた朝香は、良子に蜂須賀さんをメモリアルパークに呼び出すように頼み、アリバイのためにスマートフォンを交換したと白状しました。藤原さんが推理した通りでした。さすがは名探偵ですね」

 黒田は藤原を持ち上げた。

 急に態度を変えた黒田の言葉に、藤原は尻がこそばゆくなるのを感じながらも、肝心なことを訊くのを忘れなかった。

「朝香さんも自供したのですか?」

「今、朝香の取り調べをしているのですが、ダンマリを決め込んでいます。でも、直に落ちるでしょう」

「凶器は見つかったのですか?」

「それはまだ……まさか凶器のありかの見当もついているのですか?」

 藤原は黙って頷く。

「それはどこに、凶器はどこにあるのですか?」

 黒田は身を乗り出して尋ねた。

 藤原は黒田の耳元に小声で何やら語る。黒田は聞き終わると、「わかりました。言う通りにしましょう」と言って部屋を出て行った。


 午後十時、警察署の玄関ロビーの長椅子に、藤原が腰掛けていると、疲れた顔の滝川が歩いて来た。

「あっ、藤原さんも解放されたんですね」

 声を掛けられた藤原が立ちあがる。

「ええ、少し前に。お互い大変な目に遭いましたね」

「まさか、浅見が……浅見ではなく朝香でしたね。朝香が蜂須賀さん殺しの犯人だったなんて思ってもいませんでした。それに、リサも共犯だったなんて」

「でも、朝香さんは黙秘していて、まだ犯行を認めていないようですよ。だから明日、『大人数で凶器の捜索をする』と刑事が言っていました」

「日曜日に駆り出されるなんて警察官も大変ですね。同じ公務員でも、僕とは大違いだ」

 滝川は藤原と会話を交わしたことで、緊張がほぐれたようだ。口調が軽くなっていた。

「どこを捜索するか聞いていますか?」

「聞いていません。藤原さんは聞いていますか?」

「上楯城だそうですよ」

 滝川の表情が変わった。

「犯行場所のメモリアルパークとは反対方向じゃないですか。何でそんな所を?」

「理由はわかりませんが、上楯城全体を虱潰しに捜索するのは確かなようです。百人体制で、金属探知機の反応があった所は片っ端から掘ると言ってましたから」

「……」

「私達が発掘しようとしていた場所を、警察が掘ることになるなんて、皮肉な偶然ですね。そうは思いませんか?」

 滝川は返答せず、長椅子に座った。藤原も隣に座り、心配そうに訊く。

「どうかしましたか?」

「色々あったので、疲れました」

「そうですね。色々あり過ぎました。それに夕食を取り損ねました。お腹が空いたでしょう。何か食べに行きませんか?」

「止めておきます。疲れたので帰って寝ます」

 滝川はそう言って立ちあがり、警察署から出て行った。

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