いただきます
「食わないでー!」
「俺の身体を食うのを止めろー!」
「何故だ! 何故?
俺は食われなければならないのだ!」
表皮を鹿に食われている木々の一本が天に向けて叫ぶ。
すると天から返事が返ってきた。
「お前も食っていたではないか」
「え?」
「心を無にして前世を思い出せ」
木が心を無にすると、心の中に何処か懐かしい光景が浮かんできた。
小学校の教室で給食の用意が整えられている。
子供達の顔を見渡していた先生が声をあげる。
「いただきます」
先生の「いただきます」に続いて子供達が一斉に「いただきます」と言い食事が始まった。
だが1人だけ「いただきます」と言わずに先生の「いただきます」の声で食事を始めた子がいた。
隣に座っていた女の子が「いただきます」と言わずに食べ始めた男の子に注意する。
「駄目なんだよ、いただきますって言ってから食べなくちゃ」
「何で?
ちゃんとお金を払っているんだからいいじゃないか。
お金を払っているのに、何で言わなくちゃなんないんだよ?」
「お母さんに教えてもらった事だけど。
農家の人や漁師さんとか牛や豚を育ててくれた人たち、それに給食を作ってくれた人たちに感謝して言う事と。
魚やお肉になる牛や豚それに野菜や果物にも命があって、それらの命を頂くからいただきますって言うんだって」
「お前の母ちゃん馬鹿じゃないの?
野菜や果物に命? そんなもんある訳ないじゃないか。
ハハハハハ」
「お母さん馬鹿じゃないもん」
女の子は目に涙を浮かべソッポ向く。
「思い出したか?
お前を食っている鹿も周りで他の物を食している物達も、他の物の命を食しているとは思っていない。
自身が生き残る為に他の物の命を頂いていると考えて食っている物は皆無だろう。
お前と同じように。
だからお前が望んだ、いただきますと言われない物にしてやったのだ」
「そんな、それじゃ、もう人間には戻れないのですか?」
「お前が人間であった頃に食した命の数だけ、人間以外の物に輪廻転生を繰り返したあとに人間に戻れるかも知れん。
そう信じて、感謝されること無く食われ続ける事だ」
その後は何度天に向けて叫んでも返事が返ってくる事は無かった。




