表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/38

 8話

「おはようございます」

『おはようございます』

 マリーの挨拶で毎朝恒例の朝礼が始まる。

「今日もやることは昨日と一緒かな~。火熊の間引きと薬草採取。今日は一班が公休だから代わりに、四班と三班でお願いします。ああ、そうだ、新人二人は午後の戦闘訓練お休みね」

「おっマジか! やったぜ!」

 素直に喜ぶグルゥと

「何をさせるつもりだい?」

 疑うフォール。

「昨日話した、冒険者用薬草群生地の管理業務です。あそこの管理も私達の仕事だからね。今日からは戦闘訓練と日替わりだからそのつもりで」

 元戦闘職の二人にとって、多少きつくても戦闘訓練は薬草採取の憂さ晴らし、或いは癒しであった。

 だが今日はその癒しがない。

 返事も出来ないほどにやる気が削がれてしまった。

「私からはこれでおしまい。他に何かある人は?」

 特に無さそうだ。

「それでは今日も気を引き締めて、怪我や事故が無いように。よろしくお願いします」

『よろしくお願いします』

 今日もハンター課の一日が始まる。




 新人二人は昨日と同じ面子で薬草採取に来ていた。

 マリー曰く

「今日は気分を変えて違う群生地だよ~」

 しかしやる事は変わらない。

「はぁ。………… 気分転換なんてなりゃしねえ」

「はぁ。………… そもそも本当に気分転換なのだろうか。教官、この群生地、他に何ヵ所あるのだろう」

「フォールは鋭いな、全部で十四だ。つまりは毎日日替わりって事よ」

 グルゥとフォールから、揃ってため息が出る。

『はぁ』

「オレ、農作業しに、ギルドの誘いに乗ったんじゃあ無ぇんだけどな」

「奇遇だね、私もさ。………… 騎士団では救えない、弱い人々を守る為に加わったと云うのに」

『はぁ』

 再びのため息。

 マリーが転生したこの世界に、五月病の概念は無い。だが彼らのそれは、まさしく五月病であった。

 こんな時、彼らを慰めたり励ましたりするのは、マリーではない。

「まぁ、なんだ、どこでも一緒よ。外から見える仕事と中でやってる仕事が違うってのはよ。冒険者だの騎士団だのもそうだろ?」

 二人供思い当たる節があるのだろう、遠い空を眺めるような眼をしていた。勿論、林の中では満足に空は見えない。

 …………

 …………

「少し早いがよ、休憩にすっか?」

「私お菓子持って来ました~」

 四人で車座になりクッキーをつまむ。

「旨いなこれ」

「このクッキーは何処から?」

「まさかババアの手作りじゃ、」

 グルゥが戻しそうな顔をしている。

「ロザリーがくれたのよ、『あなた達に』って」

「え? 誰?」

 グルゥとフォールは接点がなく、名前を聞いたのも初めてだった。

「受付課の課長で私の同期。『私の下は大変だろうから』ってお見舞いにくれた。

 あんたらちゃんとお礼しときなさいよ?」

 二人が頷く。

「しかしよぉ、こればっかじゃあ喉が詰まっちまうな。マリー、何かねぇか?」

「お茶で良い?」

 マリーの発言に、ギンシが一瞬、しまった、と顔を歪めた。

 そんなことはお構い無しに、マリーはポーチから大きな水筒とマグカップを出し、四人分のお茶を淹れる。

 マグカップには薄い緑茶らしき物が注がれている。

「それでは、かんぱ~い」

 マリーの音頭で一斉にお茶を飲む三人。マリーは口を着けない。

 新人二人の顔が歪んだ。

「うえっ、何コレ」

「少なくとも緑茶ではないね」

 正解はハーブティー。それも、ただのハーブティーではない。ヒールグラスのハーブティーだ。

「マズッ!こんなん好き好んで飲むとか、趣味悪!」

 勿論、マリーも美味しいとは思っていない。故に口を着けなかったのだ。

「いつからかは忘れちまったけどな。初めて採った薬草をお茶にして飲ませる、って伝統が有ってな」

 ギンシが遠い眼をする。勿論彼も美味しいとは思っていない。

「私の頃にも有ったよ」

 少なくとも二十年は続く儀式のようだ。

「止めりゃいいのに、バカじゃねぇ?」

 グルゥの意見は尤もではある。だが、別段身体に悪い訳ではないこの儀式。

 彼は果して、来年、止める側に回れるだろうか。

「だが、言うほど不味くはないだろう」

 ストレスでフォールの味覚がおかしくなったのだろうか。

「別段、苦味や青臭さがあるわけではなし、こう云った個性のハーブティーだと思えばそこまで悪い物ではないだろう」

 ヒールグラスは葱の仲間だ。葱風味のハーブティーを想像してみてほしい。

 …………

 …………

「あ! じゃあ私の分もお願い。へーきへーき、口着けて無いから」

「序でにオレの分も! へーきへーき男同士だから」

「俺のも頼まぁ」

 押しつけられる三人前の葱茶。

 …………

 …………

 少し長めの休憩になったが、その分疲労も回復していた。葱茶の効果もあるだろう。

 ぐぅっと伸びをし、ギンシが立ち上がる。

「そろそろやるか。昼までに終らせんとな」

 皆が立ち上がる中、

 『ちゃぽちゃぽ』

 フォールの腹から水音が聞こえる。

「君達、覚えていたまえ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ