7話
「これはダメ、ダメ、ダメ、ダメ、これは良いヤツ、ダメ、」
早速、薬草を袋いっぱい採取した新人二人。そこから少し遅れてベテラン二人が採取終了。
そうして今、採取した薬草の選別作業を行っている最中である。
ギンシはベテラン二人の分、マリーは新人二人の分だ。
数分後、マリーの選別作業が終わる。
「うん、良いのは全体の一割位かな。それじゃあ、こっちの質の良いのは緑色の袋に、こっちの悪いのは黒い袋に入れて」
高品質の薬草は主にポーション作製に使われる。新人達が採取した中でポーションに使えるのは、ほんの五、六束だけだった。
「ふざけんなよ! ちゃんと採っただろうが! 正しいやり方で!」
「採り方だけじゃ駄目でしょ。薬草にも色々あるんだから」
「我々の何がいけなかったのか。当然、教えてもらえるのだろう?」
グルゥだけではない、フォールも頭にきている。二人はマリーによる新人いびりだと思っているだろう。
だが違う。
「先ず、二人供雑草が混じってる。これは薬草の株元に紛れて生えてたりするから、気をつけて。次にこれ」
マリーが持ち上げた薬草、その先端が黄色に変色していた。
「先端の色が変色しちゃってる、これも駄目」
「そんなん千切っちゃえばいいだろ!」
「千切ったところで薬効が抜けてるのは変わらないよ」
正論であるが故に二人は反論できない。
次に持ち上げたのは茶色の斑点が浮いていた。
「これは病気ね、赤錆病。これはうつるから同じ株のは全滅。出来れば採った時点で黒い袋に入れちゃって」
次のものは根元の辺りが潰れていた。
「これは力の入れすぎね、鎌に慣れないうちはよくやっちゃうから、気をつけて」
二人供いびりではないと気付き、落ち込んでしまった。
たかが薬草採取だと侮り、調子よく袋をいっぱいにした二人。ベテラン二人に先んじて袋をいっぱいにした二人。少しは見返したつもりの二人。勝ち誇った気分の二人。
惨めだ。
二人は顔をあげる事ができなかった。
「大丈夫。どれもちょっと気をつけたり丁寧にやれば良いだけの話よ」
普段の言動から私の言葉では慰めにならないかも知れない、そう考えたマリー。
マリーが助けを求めギンシを見ると、ギンシも同じ考えに至っており、軽く頷き助けに入った。
「初めてならそんなもんだ、お前らも毎日やりゃあすぐ馴れる。とりあえず今日のところはこれで良い」
「お疲れさん」
「お疲れサマっす」
「お疲れ様です」
だてに二人の配属直後から教育係だった訳ではない。マリーとは違い、ギンシ、グルゥ、フォールの間で絆が出来つつあった。
「マリーもお疲れさん」
「お疲れ~、ありがと~。そっちの分はどうだった?」
「いつも通りよ」
ギンシが二つの薬草の山をそれぞれ、緑色の袋と黒色の袋に詰めていく。
いつも通り半分ずつだ。
それを見たグルゥは、また、沸々と反抗心が沸いてきた。
「偉そうにしやがって。お前らだって半分しか良いの採れてねぇじゃねぇか!」
ため息が出そうになるのを我慢するマリー。ここでため息をついては駄目だ。煽りすぎは良くないと、先程ギンシに釘を刺されたばかりなのだ。
「…………私達は選んで五割ずつ採ってるのよ。良いのも悪いのもどっちも使いみちが有るからね」
「ハッ! 言い訳かよ! それとも負け惜しみか?」
「あのね、質が良いのはポーションになるの。これは知ってるでしょ?」
「フン! なら残りは? ポーションに使えねぇ薬草採る意味ってなんだよ!!」
「その質の悪い物。これは堆肥や殺虫剤、殺菌剤になって近隣の農村に売られるの」
「!?」
グルゥはまた何も言えなくなってしまった。農村育ち故、薬師組合が殺虫剤を安く売っている事を知っていたのだ。幼さ故に原料は知らなかったが、その殺虫剤が良く効くのは、彼は両親の会話から知っていたのだ。
黙りこむグルゥに代わり、フォールが口を開く。
「つまり私達の仕事は無駄にならないと?」
「勿論! むしろ優秀なほうよ? 冒険者のはポーションに使えた例がないもの」
「そうか、それなら良かった。しかしそれならば、最初から教えてくれても良かったのでは?」
フォールの疑問も尤もだ。
確かに、もっと丁寧に手取り足取り指導すれば、彼等もベテラン二人のような結果になっただろう。
「私達にも納品ノルマがあるの。そこまで丁寧に教えてる暇はないわ」
話は終わりだとばかりに、マリーは荷物をポーチに収め、帰り仕度を整えた。
「さっ、帰るよ~」
フライヤーを出し、フォールと供に跨がる。
「ほれ、グルゥ。帰んぞ」
ギンシもグルゥと供に跨がる。
「それでは薬師組合へ出発~」
フライヤーが舞い上がり、五分程で薬師組合へ到着した。
本日分の薬草を納品。
予め新人が作業に加わる事を伝えていた為、黒い袋が多くても問題にはならなかった。
その後ギルドへ帰還。
事務服に着替えて集合する。
「二人供慣れない作業で疲れたでしょ。お昼も近いし、ちょっと早いけど、お昼休み入っちゃって良いよ~」
フォールとグルゥはギルド内の食堂へ向かう。
今、ベテラン二人と一緒に行くのは気不味いだろう。マリーとギンシは少し時間をおいてから向かう事にする。
「ああ言うの『とぼとぼ』って言うのかしらね」
「言ってやるな。初日はみんなあぁだ。簡単な仕事だって舐めて掛かっててんで駄目。落ち込まん訳ねぇ」
皆通る道である。
因みにマリーの薬草採取初日も、人並みに失敗だらけだった。が、一切堪えず昼食のメニューにスキップする姿が見られている。面の皮の厚い新人だと皆が思った。今も、当時を知る職員達のマリーに対する印象は変わっていない。
「ところでよ、何であいつらにもっと丁寧に教えてやらなんだ? 失敗すんの分かってたろ?」
「何でって言われても。私の時もそうだったじゃない」
「お前ん時は特別だよ、屁理屈ばっかこきやがって。みんな呆れてたの知ってただろ?」
「えぇ~⁉ そうだったの!?」
楽しそうにクスクス笑うマリー。
「そう言うとこだ。真面目によ。で?」
おふざけを引っ込め、珍しく真剣に考えるマリー。
唸り、悩んだ末に思いつき、指を鳴らす。
「う~ん。 !!! 『失敗は成功の母』って言うじゃない」
ギンシは口を挟まず、先を促す。
「私らが課題を出して、彼らが試行錯誤する。行き詰まったらちょっとだけ助言してあげる、それで充分じゃない?」
顔を上げ瞑目し、ギンシはマリーの言葉の真意を探る。
「まぁ、それも一つの答か。一応おめぇもちゃんと考えてんだな」
ガシガシガシっと頭を撫でられるマリー。
「そぉ? そんな風に見えた? やったね♪」
真面目な雰囲気を壊すようにふざけるマリー。
そんなマリーが可笑しく、ギンシは笑った。
「ハハハハハ。なにも茶化さんでもいいだろ」
「素面でする話じゃないもの、茶化さんとやってらんないわ~」
二人でひとしきり笑う。
そろそろ食堂へ向かっても良い頃だ。
「んじゃ昼飯行くか、もう大分いい頃合いだろ」
「よ~し、今日はギンシにお昼たかったろ」