6話
フライヤーの速度は凄まじく、五分もせずに目的地の東街道に到着したマリー一行。此処から林の中へ進んで行く。
「到着~。気分や具合が悪い人は?」
新人二人は一応初めてのフライヤーではない。だが前の一度は訓練場の中をゆっくり一周しただけ、実質初めてである。
しかしそこは元戦闘職、二人供問題無いようだ。
「はい、採取用の袋と薬草辞書」
マリーがポーチから取り出し新人二人に差し出す。
人の頭程の袋と、ペラペラの辞書。ノート表紙に大きくと辞書かれた、自称『辞書』である。
「は? 辞書? 要らんし!」
「私は頂こう。薬草がどんな物か知らないからね」
「グルゥも持っとけぃ。ポーチん入れりゃ荷物にゃならんだろ」
マリーが酷いお陰で、ギンシの言うことは素直に聞くグルゥ。
「さて、二人は薬草の群生地の場所知ってる?」
グルゥは忘れ去り、フォールはそもそも知らない。
「次からは二人が先頭だからしっかり覚えてね」
今日はギンシが先導する。特別に迷いやすい場所では無いが、判りやすい目印を教えながら進んで行く。
因みに、群生地は他に十三ヶ所。
つまり、次にこの場所に来るのは二週間後だ。
「よぉし、この辺りだ」
「? こんなとこだったか? オレが下っ端だった頃はもっと開けたとこだったような?」
「その手の判りやすい場所は、ギルドが用意した新人冒険者用の群生地よ。地図貰ったの覚えてない?」
冒険者が薬草採取の依頼受けると、採取用の袋と群生地迄の簡単な地図が貰える。
しかし、薬草採取を受けるのは新人冒険者ばかり。彼等は素人のうえ大人数であり、大切な薬草群生地を荒らされてしまう。故に管理された、偽の群生地が必用なのだ。
「序でにそこの管理もハンター課のお仕事だからね」
荒らされる為に一年掛かりで世話をする、虚しい仕事だ。
「しかしどれが薬草でどれが雑草なのかさっぱりだね」
「その為の辞書よ。今の時期はヒールグラスね」
辞書の該当項目を調べるフォール。
「ヒールグラス。なるほど、ネギの仲間で細長い葉が特徴。ネギとの違いは、細長く三角錐状の暗い緑色の葉」
薬草と言っても、時期により種類が違う。ヒールグラスは三月から七月末まで採れる薬草である。
冒険者にとって薬草と言えばこのヒールグラスであり、むしろ他の種類は知らないだろう。
「今日から五月だから、後三ヶ月はヒールグラスの時期か。旬が長いのだね、ヒールグラスとは」
しゃがみこみヒールグラスを観察していたフォールは、草抜きの要領で薬草を採ろうとした。
「違ぇよフォール。抜くんじゃ無くて刈るんだよ」
そう言うとグルゥは警棒に魔力を纏わせ魔剣にし、薬草を刈り取りにかかる。
これも間違い、マリーが指摘する。
「それも違うんだなぁ」
「はあ!? じゃどうやって刈れってよ? あ?」
朝からフラストレーションを溜めまくりのグルゥ。うっかり、上司に対しガラが悪くなってしまった。
がしかし、気にするマリーではない。
「ヒィッ! 先生! 先生! 出番ですよ! ギンシ先生!」
相手がムキになればなるほど余計にからかう、そう言った底意地の悪い人間、それがマリーだ。
「どしたぃ。ああ、正しい採取方法か」
流石ギンシ。ハンター課一の古株は状況を正しく理解した。
「いいか? 大概の薬草ってぇのは魔力に弱くてな、少しでも魔力に触れたり、強い魔力を感じると効能が無くなっちまう」
グルゥは即座に魔剣を引っ込める。だがもう遅い。
「だから普通の刃物を使う。俺らならポーチに鎌が入ってるからよ。こいつだな」
ギンシが後ろ手に鎌を取り出す。よくある普通の草刈り鎌だ。
「薬草を優しく束ねて、地面から指三本ぶん位の高さに鎌を当てて、手前に引く。これで一丁上がりよ」
採取袋へ入れて、袋がヒールグラスでいっぱいになれば完了だ。
「あと、ありがちなミスとして、薬草の詰め方ね」
「おお、そうだ。ほれ、ちょっと見ろ。こんな風に向きを揃えて、寝かせて袋に入れろ。立てて入れると切口から汁出て効能抜けっからよ」
フォールが感心している横で、グルゥはばつが悪そうにしている。恐らく冒険者時代のミスに気づいたのだろう。
「それじゃあ各々採取開始!」
散らばって行く新人二人を見守るマリーとギンシ。
正確には、サボろうと様子見しているマリーと、サボり魔を監視しているギンシだ。
そんなギンシがぽつりぽつりと語りかけた。
「あのよマリー。あんまり苛めてやんなよ。あいつらなりに、折合いつけようとしてんだから」
「…………」
「…………私も一応ね、自制してるつもりなのよ。でもついうっかりねぇ。ああ言うのも『打てば響く』って言うのかしら?」
「言わんと思うぞ。ほれ、お前も早く行け」
「は~い」
やる気が感じられない返事だ。
「サボるなよ」
「分かってま~す」
マリーが真面目に採取に取り組むのを見届けてから、ギンシも採取に取り掛かる。
新人二人もそうだが、ギンシにとっては、マリーもまだまだ問題児なのだった。