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 5話

「おう! マリー! 二日酔いはもう良いのか?」

「おはようギンシ。昨日は速めに寝たからもう平気」

 デミゴブ狩りから二日経った。今日辺りギルマスから、例のエルフについて何か連絡が有るのではなかろうか。

「就業時間までまだあるしコーヒーでも飲む?」

「俺ぁ緑茶にしてくれぃ」

 事務室の隣の給湯室へ行き、手慣れた様子でお茶を淹れる。

 マグカップをギンシに渡し、マリーも一口啜る。


「相変わらす濃いのが好きねぇ。苦いし渋いし全然美味しくない」

「俺の朝ぁこの濃さじゃねぇとな。つかよ、別に付き合わんでもよ」

「変えるの面倒」

 グッと呷るギンシにつられ、マリーも一息に飲み干す。

「苦っ」と呟きマグカップを片付けに給湯室へ。

 そんなマリーをギンシが笑って見送った。

 そこへ新人二人がやって来た。

「おはようございます」

「はよっス」

「おう! 来たなひよっこ共!」

 礼儀正しいのが、近衛騎士団出身で、厄介な新人その一、フォール。

 気軽な方が、高ランク冒険者出身で、厄介な新人その二、グルゥ。

 自分達の実力に絶対の自信を持つ二人は、地道な訓練なんて大嫌いだった。

 「早く実戦に出せ」と「華々しく活躍させろ」とギンシに詰め寄る。

「教官、今日こそは実戦できるんですよね?」

「やってらんねーよな、体調不良でオアズケなんてよ!」

「大丈夫だ、なあマリー」

「!?」

「!?」

 ギンシの身体を盾にこっそり近づいていたマリー。

「私が驚かそうと思ったのに。それにしても二人はまだまだだね~」

 マリーの気配に気付けなかった二人は唇を噛む。が、それも一瞬。グッと飲込み一番の杞憂を質問する。

「課長、体調はもう良いんですね?」

「今日こそは実戦だよな?」

 始業の鐘が鳴る。

「ちょうどいいから朝礼で話すわ。ほら、並んで並んで」


 ハンター課、総勢二十名が班ごとにマリーの前に並ぶ。


「おはようございます」

『おはようございます』

「新人がうるさいから先にそっちからね。

 新人二人は今日から暫く東街道沿いの林で薬草採取。ギンシともう一人着いてあげて」

 薬草採取と聞いて抗議しようとする新人達をギンシが押さえる。

「課長の二日酔いで延びたんだから課長が良いんじゃね?」

 皆が賛同し、なんだかそうゆう事になった。

「じゃあ私とギンシが監督します。

 次に、北西の渓谷で火熊が増えてますが、冒険者は動かないようなのでハンター課で間引きします。どこが行きますか?」

 それぞれ顔を見合せ頷き合う。

「一班行きます」

「三班も行きます!」

 物理に強い一班と、魔法に強い三班が行くことになった。

 因みにギンシは一班所属で、マリーは三班所属だ。二人の抜けた穴は臨時に二班から増員する。

「じゃあ二班は留守番お願い。ギルマスから連絡有ったら教えて」

「他に何か連絡事項は…………私からは無いけど有る人は?」

 一同の顔を見回す。特に無さそうだ。

「それでは今日も気を引き締めて、怪我や事故が無いように。よろしくお願いします」

『よろしくお願いします』


 朝礼が終わりそれぞれの仕事に掛かる。そんな中、マリーとギンシ、フォールとグルゥの四人だけがその場に残っていた。

「薬草採取だと? 馬鹿にすんなよ! 俺はランク8の冒険者だぞ!」

「確か、冒険者の中でも下っ端の仕事だったね、薬草採取は。近衛騎士団の中でも、団長に次ぐ実力だった私としても納得しかねるな」

 冒険者ランクは全部で十段階、ランク8は上から三つ目、グルゥはかなりの実力者と言う事になる。

 近衛騎士団は、国中の騎士から精鋭ばかりを集めた集団で、フォールはそこの二番目の実力者だった。

 つまり、新人二人は自身の力に、相当な自信があるのだ。

「ハンター課の仕事は、冒険者がやらない、もしくは、やりたがらない仕事、を引き受ける事だからね。今の時期は新人冒険者達がランクを上げちゃって、薬草採取をする人がいないし、初めての実地訓練にはちょうどいいかなってね」

「なら火熊の方でも良いじゃねえか!」

「つまり先輩方に、薬草採取やれって事?」

「!?」

「そうは言っていないが」

「まぁ、それでも良いんだけどね。ただ、来年よ」

「来年?」

「来年新しく新人取って、最初の実地訓練。あなた達新人の代わりに薬草採取できるの?」

 言葉に詰まるフォールとグルゥ。

「華々しい活躍を夢見てるなら、さっさとギルド辞めた方がいいよ。うちの仕事は表に出ない事の方が多いから」

 二人ともギルドからのスカウトを、栄転とは考えてなどいなかった。だが、ここまで惨めな想いをするとも考えていなかった。

「ほれ、辞めねぇならとっとと着替えろ! 準備準備!」

 ギンシに尻を叩かれながら更衣室に追いやられるフォールとグルゥ。


 討伐服に着替え、事務室前に集まる面々。

 フォールは、表面上は不満を飲込み切り替えたかのように見えた。

 しかし、グルゥは依然不貞腐れたままだった。組織の中に居たフォールと違い、自由業たる冒険者の、悪い部分が出てしまっている。

「はぁ、地味だ。圧倒的に地味だ」

「これも制服の一種なら地味で当然では?」

「でも全員同じ装備だろ? 一目でオレだって分かんねーじゃん」

「俺ぁ分かるぞ!」

 余人より一回りも二回りも大きな筋肉を誇るギンシ。彼だからこその発言だ。

 グルゥから小さな舌打ちが聞こえたが、そんな些末な事で怒るギンシではない。

 不穏な空気の中、マリーが事務室から登場。二班と連絡方法の確認をしていたのだ。


「全員居るね。じゃあ出発~」


「課長ちょっといいすか?」

 グルゥが手を上げて質問の許可をとる。

「どうぞ?」

「この討伐服すげぇ地味なんで改造してもいいすか?」

 思わずため息が出るマリー。

 初日に討伐服を渡した時、一緒に説明をしたはずなのだが。

「はぁ、駄目に決まってるでしょう。前にも言ったよ? 討伐服はギルドからの支給品、任務以外での破損の修理費は自己負担だって。」

「じゃあ自分で払えば改造してもいいんすね!」

「それ一着白金貨一枚だからね」

 白金貨一枚は、日本円で1000万円。

「あるの? 貯金、白金貨」

「…………ねぇけど、でも表面の塗装くらいなら」

「経年劣化による破損ならギルドが負担するけどね、下手な塗装による意図的な経年劣化は自己負担だと思うよ? 最初に言ったよ? 日々の手入れを欠かさないようにって」

 もはや、ぐうの音も出まい。

「けり、ついたんならさっさと行こうぜ! 時間が勿体ねぇ」

 ギンシも大変である。マリーと新人二人がぶつかり過ぎないようにうまく緩衝材になってやらねば。ギンシも大変なのである。


「それじゃあ、出発~」と、歩き出す直前、良からぬ事を思いついたマリー。

「そんなに目立ちたいならさ、ヘルムも被る?」

 既に、充分目立つ格好をしているのだが。

「ポーチに入ってるから試してみたら?」

 すぐさま取り出すグルゥ。フォールも腰のポーチを探っている。

「これがヘルム? 全然地味じゃん。なあ、これのどこが「被ってみたら分かるよ」

 グルゥの言葉を遮るマリー。その顔は、部下を見守る優しい笑顔だった。

 ギンシはマリーの腹の中が読めたが、教えてやる事はしない。彼もグルゥの派手好きには手を焼いているからだ。だがため息が出た。

 ヘルムを被るグルゥ。

「どうすか?」

「凄く目立ってるよ~」

「ヤった! じゃあオレこのまま行くわ!」

 マリーの言葉が皮肉とも分からずはしゃぐグルゥ。

「課長、このヘルムって何製ですか? 金属のような違うような」

 討伐服とセットになったヘルム。それは、伸縮性に柔軟性、光沢を併せ持った錬金皮膜とは違う、マットな質感。軽く硬く、つるりとしているのに、手触りはさらさら、不思議な防具だった。

「ヘルムも討伐服と一緒で、錬金術で色々混ざってるんだけど、そこに金属とか炭なんかも入ってるらしいよ。詳しくは知らないけどね」

「それで少し金属っぽいんですね」

「うん。あとは幾つか魔法を付与して完成。因みにヘルムだけで白金貨一枚だよ、大事にしてね」

 慌ててしっかり抱え直すフォール。

「マリー、そろそろ行かねぇとよ」

「遊んでる場合じゃ無かったね」

「じゃあ私達はもう行くけど、グルゥは走って来なね?」

「は!? なんでオレだけ」

「目立ちたいんでしょ。目立つよ~、王都内をその格好で全力疾走。良かったね」

「そうゆうんじゃ無くて! あー!もー!クソ!」

「一緒に行くんならヘルム脱いでね」

 マリーがニヤニヤ笑っているのを背中で感じながら、グルゥは、腹立たしげにヘルムをポーチへしまった。

「ほら! これで良いだろ!」

 嘲笑を引っ込めたマリーは、フライヤーを取り出しフォールを乗せ飛び立った。同じくギンシはグルゥを乗せ飛び立った。

 目的地は東街道沿いの林、薬草の群生地だ。


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