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 プロローグな過去話


「突然なんすけど、課長ってデミゴブ目の敵にしてるじゃないですか? あれってなんか理由でもあるんすか?」


 薬草採取の休憩中、ほんの気晴らしに発した一つの質問。この一言から、マリーとデミゴブリンの因縁が語られる事になった。


「・・・・ そうね、あの日はたしか、友達の弟の誕生日だったのよ」


 それは25年前の初夏、マリーが10歳の頃のことである。




「お願いマリー! このとおり!」

「駄目よ! ゴブリンがうろついてるから子供は外出ちゃダメって言われてるでしょ!」


 幼馴染のリザがマリーに手を合わせ頼んでいる。


 現在マリー達の村はゴブリンの脅威に晒されている。と言っても、数匹のゴブリンが外を彷徨いているだけである。だが村長が大事をとり、ギルドへと依頼を出した。

 依頼が達成されるまで、子供だけで村の外に出ることは許されていない。


「今日はジーンの誕生日でしょ? どうしてもあの子の好きな桃を食べさせてあげたいの! お願いマリー!」

「ダメだったら!」

「でもマリーの魔法は村一番じゃない。マリーがいっしょなら安全でしょ? まさかゴブリンに負ける程度なの?」

「ゴブリンくらいラクショウよ! 行ったろうじゃない!」


 いくら前世の記憶があろうと、身体はまだ10歳。身体の幼さに引きずられ、マリーは年相応に挑発に弱かった。そして前世の記憶があるが故に色仕掛けにも弱く、


「ありがとうマリー!」

「まったく、しょうがないわねぇ」


 10歳の女の子にハグされただけでデレデレになっていた。



 こうして二人は村近くの森にやって来た。


「なんだ、ゴブリンなんて全然いないじゃない」

「油断しちゃダメよ。昔から、そうゆう事言うと出てくるって決まってるんだから」

「マリーって時々ババくさいよね」

「あ! ほら! 桃あったよ!」


 露骨に話題を逸らすマリー。この頃の彼女は、誰にも前世の記憶の事を話していなかった。


「よし! これだけあれば充分ね、帰るか!」


 二人とも、捲ったスカートに桃を入れ村へと戻る。

 桃を傷つけないように気を付けていた二人は注意力が散漫になっており、村の異変に気づいたのは帰ってきてからだった。


「何これ? 何の臭い? なんか錆っぽいような、」

「血の臭いだ」

「え!?」


 前世で散々経験した戦いの気配。マリーの記憶に刻まれたそれは、彼女の意識を瞬時に戦闘へと切り換えた。


「リザ、私から離れないで!」

「ね、ねぇ、これ何? 何が起きてるの?」


 全ての魔導技術を前世から引き継いだとは言え、油断は出来ない。子供の身体で前世と同じように戦えるとは思えない。

 リザの質問に答える余裕が、今のマリーには無かった。


 そこへ見慣れた服装の男の子が駆け寄って来た。


「ジーン!」


 リザの弟のジーンだ。リザも彼に駆け寄って行く。

 だがマリーは彼に違和感を覚えた。


(あのニット帽、ロロばぁのだよね? ・・・・ !!!)


「ダメ!リザ! そいつから離れて!!」

「え!?」


 振り向いたリザの頭をジーン擬きが殴りつけた。一撃で昏倒するリザ。

 その首を踏み潰そうとするジーン擬きを、マリーは身体能力を魔力強化し、一瞬で近づき蹴り飛ばす。


「リザ! ・・・・ 良かった、気絶してるだけみたい」


 マリーがリザの確認と結界を張っている間に、ジーン擬きが戻ってくる。

 奴は正体を隠すのをやめ、ニット帽を脱ぎさった。


「な!?」


 その時のマリーの衝撃たるや。

 彼女は頭が真っ白になり、口をパカリと開けたまま動きを止めた。


 ジーン擬きはその隙を見逃さない。今度は奴がマリーに肉薄し蹴りを見舞う。

 防御も受け身も取れずにいるマリーに、馬乗りになり、首を絞めるジーン擬き。


「な、何でお前らが、」


 首を絞められる事で、意識が散らかり魔力を上手く練れないマリー。

 なんとか腕を引き剥がそうと抵抗するが、馬乗りされては分が悪い。マリーの首が、確実に、少しずつ絞まっていく。

 だが、もがく中で一つ思い出した。奴らの急所は人間の男と同じだと。


「ギャア!!」


 間一髪の金的を加え、マリーはジーン擬きの下から脱け出し、荒い息も気にせず、吐き出すように叫んだ。


「なんでお前らが!! デミゴブリンが生きている!!」


(ありえない! 奴らは1000年前、前世で滅ぼした筈だ! ただの一匹も残さず、絶滅させた筈なんだ!)


(そうか! 新しく生まれてきたのか! たしかゴブリンの雌はどんな生き物とでも子供作れたはず! それに混血は子孫を残せない! ならここでこいつを殺せば!)


「クヒヒ。なんで生きてる! か。

 そりゃあ、生きてるさ。オレらも生き物だからな。

 1000年前はちょっと危なかったらしいが、地下深く潜って難を逃れたらしいぜぇ。今や大帝国だ。

 これから地上を蹂躙して、オレら以外の全てを奴隷に変えてやるのさ!

 この村はその為の前線基地になるのだ!

 クヒヒヒヒ、クヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」


 高笑いするデミゴブリン。おしゃべりな質らしく、或いは、これから死ぬマリーへの嘲りか。奴は聞いてもいない事をベラベラとこぼした。


 だが、それらの殆どがマリーには届いていなかった。彼女の脳内では、「1000年前」「地下」「大帝国」この三つが反芻されていた。


「しくじった? 私が? でも地下も探ったのに。深度が足りなかった?」


 ブツブツと思考が漏れている。そうして彼女の出した答えは、


「嘘だ! お前は嘘をついている! デミゴブリンが生きている訳がない!」


 都合のいい、妄想じみた答えだった。


「クヒャヒャヒャヒャ!! なら村を見てみろよぉ! オレらがいっぱいだあ!」


 マリーは即座に探知魔法を展開。結果はデミゴブリンの言うとおりであった。


「あ、あ、あああああ」

「ああああああああああ!!!!!

 絶滅し損ねたぁああああああああ!!!!!」


 村人は全員死んでいた。


「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! さあ!! お前も死「アアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 マリーは自身の全ての魔力を以て、村中のデミゴブリンを焼き尽くした。それは暴走に近く、マリー自身も軽くない火傷を負うほどであった。




「あん時の事は今も覚えてるぜ。トールと現場に向かってたらよ、いきなり巨大な火柱が立ち上がってな。あの日はちょっと曇ってたんだがな、雲まで焼けて晴れになっちまった」

「私!私! それやったの私! しかもそれ10歳の頃だからね。すごいでしょ!」


 自慢げに語るマリーと、引き気味のフォールとグルゥ。


「で、急いで村に向かうと、女の子が二人倒れてんだ。一人は火傷、一人は無傷。村んなかは溶けるほど熱くてな、急いで二人を担ぎ逃げ帰ったって訳だ」

「結局生き残りは、私とリザと、炭焼き小屋に遊びに行ってたショーンと、炭焼きしてたコネリーじいさんの四人だけよ」


 薬草採取の休憩中、何の気なしにふった話題がここまで重い話しになるとはフォールとグルゥの二人も思わなかった。


「さあ、休憩はおしまい! 残りの作業も頑張ろう!」


 こんな事を言ってはいるが、マリー本人にそんな気は無い。


「マリー、お前も頑張るんだぞ」


 うへぇ、と不満を表し、とぼとぼ作業に掛かるマリー。


「お前らもだ。本人が吹っ切れてんだから気にすんな!」

「お~! 気にすんな~!」

「黙って手ぇ動かせ!」


 悪のりするマリーに叱りとばすギンシと、普段通りの姿を見せる上司二人。


「なんか、気にしてんのホントにバカみてぇ」

「だな」


 こうして、フォールとグルゥも普段に通り振る舞い、新人班は今日も変わらず、薬草を採取するのであった。



 これで完結となります。ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。


「私はこんな小説が読みたいんだ!」ただそれだけで書き始めた話でした。おかげですっかりあらすじ詐欺な話になってしまいましたが。

 当初の予定では、もう少し戦闘もある筈だったのです。

 ですが気が変わり、普通の日常を書きたくなったのです。

 チート級の凄い技術をもった人が、無双もハーレムもせず、ごく普通の一般人として生活している、そんな話が。

 現実にも居ますよね、神業級の技術を持った職人さん達。そんな職人さんを追ったドキュメンタリー風味な番組、みたいな話が書きたかったんです。

 全然できてないですけどね。

 私の技術が足りないのもありますが、主人公がマリーっていうのも原因の一つだと今更ながら思います。

 大好きなキャラなんですけど、ドキュメンタリー向けではなかったですね。


 後書きまで読んで頂き、本当にありがとうございました。

 それではまたの機会に 


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