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 3話

 早速デミゴブ狩りに勤しもうと、村の中心にやって来たマリー。

「先ずは、探知魔法っと」

 村中に探知魔法を放射する。

 通常は極弱い魔力の放射のみだが、マリーの探知魔法は彼女のオリジナルだ。

 魔力に加え、電波や音波、赤外線まで放射する。その効果は通常のものとは比べるまでもない。

「うへぇ~、三匹もいやがる。」

 民家の中に一匹、その家近くの茂みに一匹、村外れに一匹の、計、三匹。

「三匹目は結界で切り殺すとして、二匹目はどうしよっかな」

 村にこれ以上デミゴブが入り込まないように、結界を張る必用があるのだが、その結界を使い一匹狩る。

 先ず、結界の始点をデミゴブの直ぐ側に置く、次に始点から結界を円周上に、コンパスで円を書くように、張ってゆく。

 そうする事で、張られてゆく結界と、始点の結界とで、デミゴブを挟み、切り殺す事ができる。

 ついでに、この結界は光の速度で張るように設定されているので、気付いたところで回避は不可能だ。

「次は、なるべく音が出ないやつ」

 一匹目と二匹目の距離はとても近いのだ。うっかり手間取ると、悲鳴や断末魔で一匹目に気づかれる恐れがある。

「…………石化牢にするか、あれなら音立たないし」

 石化牢とは、対象の皮膚を石に変えてしまう、恐ろしい術である。

 筋肉とは、ある程度の余裕がないと動く事が出来ない。

 故に、全身をぴったりと石に包まれては、如何な力自慢もその剛力を発揮出来ないのだ。ちなみに、鼻の中を通り肺まで石化する為、対象は窒息死する。

「最後のは直接乗り込む。よし、じゃこんな感じで」

 方針を決めると、マリーは結界と石化牢、二つの魔法の発動準備を終えた。

 次に、村の中心から移動し、デミゴブが潜む民家のドアに張りつく。

 そして、腰の警棒に魔力を纏わせ、刃を象り、短剣状に。それを逆手に構える。

 最後に、屋内に向け極弱い探知魔法を放ち、デミゴブの位置を最終確認。

 デミゴブは家主とその妻相手に、にこやかに談笑していた。

 ………………準備完了。

 ………………

 ………………

 突撃!!

 ドアを静かに小さく開け、その隙間から素早く入る、まだ気づかれていない。

 今のうちに一気にデミゴブのもとへ。

 家族が気づき、眼を向けた時にはもう遅い。

 椅子ごとデミゴブを引き倒し心臓に警棒を突き立てる。更に捻る。

 奴の眼から生気が消え失せ息絶える。

 一息ついて、マリーが警棒を引き抜くと、悲鳴があがった。

「キャーーーーー!! だ、誰かーーーーー!!」

「何やってんだ!! あんた!!」

 悲鳴は無視し、床が汚れないようにデミゴブの表面を凍らせるマリー。

「さて、落ち着いてください」

 彼らは死んだデミゴブを人間だと思っていた。言葉一つで収まる訳がない。

「私は依頼を受けギルドから来ました、ハンター課のマリーと申します」

「ふざ! ふざけるな!! 何でギルドが人殺しを!!」

「お二人はこれを人間だと思ってますね? 」

 爪先で死体を小突きながら、尋ねるマリー。

「人間じゃないですよ、これ」

「蹴るのを止めろ!!」

「どうぞご確認ください。眼を見れば一発で判りますから」

 マリーが蹴るのを止めると、家主が死体に近づいてゆく。

 しかしそれは、マリーの言う確認の為ではない。開いたままの眼を閉ざす為であった。

 目深に被ったフードを上げ、瞼をおろそうとした瞬間、彼は異変に気付いた。

「何だこれは!!」

「黒目が横長になってるのが分かりますか? ゴブリンの特長の一つなんですが」

 今度はしっかり確認をする家主。自分だけでは信じられないのか、妻を呼び確認させる。

「こ、こいつはゴブリンなのか?」

「そんな嘘よ! だってずっとおしゃべりしてたのよ?」

「これはデミゴブリンです。人語を操り、見た目の違いは瞳孔だけ、ですが決して人間とは相容れないモンスターです」

 妻が膝から崩れ落ち、家主がそれを支える。

「わ、わたしたちは騙されてたの?」

「ええ。それでは私は次に掛かりますので、これで失礼します」

 夫妻が落ち着けるように、死体を引摺りドアに向かうマリー。

「デミゴブリンについての詳しくは依頼人の彼に、多分村長の所に居ると思いますので」

 夫妻の家を出て、二匹目のデミゴブの場所へ。

 石化牢で肺まで石になり、完全に死んでいる二匹目。これも引摺り、三匹目へ。

 三匹目は跡形もなく消えている。

 誰かが片付けた訳でも、結界を察知して逃げた訳でも無い。

 この結界は悪しき物を浄化する効力があるのだ。

 結界に切られ、そのまま結界に触れ続けた三匹目は、結界の浄化作用で消えた、と言うわけだ。

 引き摺ってきた二匹も結界に押し付け浄化する。

「次は村の外っと」

 マリーが空を見ると、まだ陽は充分高い。

「さくさく終わらせよう」

 再び探知魔法を放つ。ただし今度は、全周囲に向けた放射ではなく、右手から直線的に放射するかたちになる。こうする事でより長距離の探知が可能だ。しかし、探知範囲自体は狭くなるので、細かく右手を動かす必用がある。

 これを村の外、マリーの前方に広がる森全体に掛けてゆく。

 その結果、襲撃前に集まった百匹以上のデミゴブと、三つの巣を発見。巣の中にはそれぞれ二百以上のデミゴブが蠢いている。

「巣が三つ。これ森の奥にもっとでかい巣があるんじゃ?」

 頭を抱えるマリー。

「はぁ。私の不手際とはいえ、毎度毎度嫌になるわぁ。あの時ちゃんと絶滅させてたらなぁ。はぁ、絶滅したと思ったのになぁ」

 嘆いていても始まらない。

「はぁ、やるか」

 先ずは巣の外で群れている、百匹以上のデミゴブを狩る。正面から仕掛け、逃げられると面倒だ。ここは先程の結界を浄化に特化させた、浄化結界を用いる。

 数が多く散らばっている為、大きな結界を張るのは大変だ。マリーならば出来なくはないが、無駄が多すぎる。故にデミゴブサイズの小さな結界で、後ろからこっそり、一匹ずつ狩っていこう。

 …………

 …………

「あれが最後尾か」

 デミゴブ一匹を結界で覆う。

 結界を狭めてデミゴブを浄化。

 他の個体は気づいていない。

「よし、どんどんいこう」

 粛々と何の問題もなくデミゴブは減っていき、百匹以上のデミゴブが十分程で全滅、残すは巣のみ。

「後は厄介な巣が三つ」

 マリーは森の奥へ踏み入る。

 デミゴブの行軍の跡が見え比較的歩きやすい。

 暫し後、巣を発見。

 風下から巣に近づき探知魔法を放つ。

「うわ~、さっきの村くらいある。ゴミどもがはりきりやがって」

 松木村と同規模の巣の中には、デミゴブがうじゃうじゃと群れている。

「この巣は人間居ないから~、ら~くち~ん」

 言いつつ魔法を展開、

 先ずは巣全体を結界で覆う。

 次に巣の中心で魔法を展開。この魔法は範囲内の熱を奪う。言わば、『奪熱魔法』である。

 最後に、絶対零度まで冷えた巣を崩落、埋め潰して終了。

 仕上げに探知魔法で生命の有無を確認、存在せず。

「次もこうだといいな」


 二つめの巣も特に問題なく全滅確認。

 問題は三つめの巣にあった。

「生存者一人を確認。…………これは、エルフ?」

 巣の内部に放った探知魔法。其れによると、女エルフが一人捕らわれている。動きは無いが命に危険を感じない、寝ているだけのようだ。

「さて、そうなると、どの術がいいかなっと」

 人質に影響がでない術を選ばねばならない。

「銀風、は目立ちすぎる」

 『銀風』とは、浄化作用をのある銀色の風でモンスターの内外から殺す術だ。欠点は、効果が出るまで少し時間が掛かる事と、目立ちすぎる事。

「火系は酸素無くなっちゃうし」

 悩ましい。

 使える術が多いと言うのも考え物かもしれない。

 …………

 …………

 …………

 …………

「あぁ、そっか」

 ポン、と手を打つ。

「先に彼女を回収しちゃえば良いのか」

 マリーが言い終わると同時に、全裸のエルフが足下に現れた。

 彼女はデミゴブの体液にまみれ、酷い悪臭を放っている。

 すかさずマリーが浄化魔法をかける。

 デミゴブ由来の汚れが消えてゆく。それは身体の内側も例外ではなく、彼女の身体からデミゴブの痕跡を一つ残らず消してゆく。

 浄化魔法の副次的な効果で、土汚れや皮脂等も消え去ると、彼女はすっかり元の美しさを取り戻した。

 美しい全裸のエルフ。

 …………

「…………たしかブランケットがあったはず」

 ポーチから取り出しエルフに掛ける。

「これでよし。さて、殺、…………」

 …………

 …………

 …………

 …………

「…………この子が壊れてた時用に、一応生かしておくか」

 マリーは巣全体を結界で覆った。

 この術の名は『停止結界』その効果は、結界内の物質とエネルギーの動きを停止させる。

 ただし、魔力はその範疇ではなく、結界の強度自体も低い為、外からには滅法弱い術である。

「結界はこれでよし。起きて~」

 エルフの顔の前で指を鳴らす。指先に一瞬、紫の雷光が走り、エルフの身体を駆け巡る。

 雷光に身体を震わせエルフが目を覚ました。

「おはよう、此処がどこか分かる?」

 …………

 …………

「■■■■■■■■■■■■■■」

「は!?」

「■■■■■■■■■■■」

「ちょっ、ちょっと落ち着いて!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■」

 マリーの問い掛けは無駄に終わった。

 デミゴブに仕込まれたのだろう、卑猥な言葉と体液を垂れ流し、誘うように腰を振るだけの生き物、それが今の彼女。

 美しいエルフは既に壊れていた。

「眠れ」

 もう一度指を鳴らす。

 それで彼女はスイッチが切れたように眠りについた。

 眠った彼女の身体を整え、浄化とブランケットをかける。

「はぁ、壊れちゃってたか」

 …………

「それとも壊れたふりか」

 …………

「こうゆう時一人だとねぇ」

 …………

 …………

「ふぅ、先に潜りますか」

 停止結界の中に消臭魔法を念入りに掛け、巣穴へ潜る。

「お邪魔しますよ~」

 …………

 …………

「これでいっか」

 適当に目についたデミゴブの停止結界を解除。

 この群れがどこから流れてきたのか聞きだす必用がある。

 勿論エルフについても聞きだす。

「さて、人の言葉が分かるかな?」

 声に反応したデミゴブは、マリーを見つけると一も二もなく飛び掛かる。

 当然、マリーには予測の範疇だった。

 デミゴブの首がとぶ。

「次いってみよう」

 二匹目も同様、首をはねる。

「もう一回、次いってみよう」

 三匹目、同様。

「あれ? 分かると思ったんだけどなぁ」

 四匹目の首をはねる。

「これは方針転換だわ」

 …………

「これが脅しになればいいけど」

 転がった四つの首を魔力で操る。

 ふわふわと浮かぶ生首は人間的には恐ろしいが、デミゴブ的にはどうだろうか。

 五匹目を解除。

「う~ら~め~し~や~」

「ギョワァアア!!」

 逃げだしたデミゴブの手足に生首を噛み付かせる。そして大の字に拘束し中に浮かべた。

「さぁ、人の言葉が分かるかな?」

 首を横に振るデミゴブ。

「ふぅん、じゃあ分かるやつは?」

 首を縦に振るデミゴブ。

「そっかそっか、充分理解してるね」

 デミゴブは涙を流し許しを請うが、ゴミ共への情に流されるマリーではない。

「一番偉い奴の所へ案内しろ」

 地面に下ろされたデミゴブは、痛みに手足を引摺りながら歩く。

 案内された先に居たのは、通常のデミゴブより一回り大きいデミゴブであった。

「ホブのなりかけかぁ」

 用済みの五匹目の首をはねて、なりかけの停止結界を解除する。

「言葉が分かるかな?」

「…………何のようだ人間」

 浮かぶ五つの生首効果、だろうか。

「何処の巣から此処へ来た、答えろ」

「答えるぎ理などないな人間」

 五つの生首で左手を肘から食い千切る。

 悲鳴を上げるかと思いきや、必至に堪えている。なかなか気合の入ったモンスターだ。

 だったらなんだ、それがどうした、とはマリーの言。

「答えろ」

 話す様子は無い。もう少し強い脅しが必用だ。



 魔法によるかりそめの命と自由意思。



 生首が口内に溜まった血反吐を吐く。



 生気の無い眼がなりかけと合う。



「おさ、おさ」

「おさ、おさ」

「はらへった」

「はらへった、はらへった」

「おさ、はらへった」

 …………

 …………

「うでだ、うでだ」

「うで、うで」

「おちてる、おちてる」

「うで、おちてる」

「はらへった、はらへった」

 …………

 …………

「くおう、くおう」

「くおう、くおう」

 餓えた生首達は瞬く間に落ちた腕をたいらげた。骨も残っていない。

「くった、くった」

「くった、くった」

「たりない、たりない」

「まだへってる」

 首から下が無い生首は、どれだけ喰おうと満たされない。

「なかまいっぱい、うごかない」

「くおう、くいたい」

「おさ、おさ、なかまくいたい」

「なかまいっぱい」

「ちょっとならへいき」

「おさ、おさ。おさうごかない」

「おさうごかない」

「おさうごかない」

 …………

 …………

「おさもくいたい」

 …………

 …………

「おさくっておさになる」

「おさくっておさになる」

「おさくっておさになる」

「おさくっておさになる」

「おさくっておさになる」

「ひっ」

 なりかけが小さな悲鳴を漏らした。

「さぁ答えろ、何処から来た」

「こ、こいつら、どけてくれ、そそ、そしたらはな話す」

 生首はいっそうなりかけの周囲を飛び回る。

 カチリカチリと耳元で歯が鳴る。

 指先に熱い吐息を感じ避けると、ガチンと歯が閉じる音がする。

「ヒイィィ!!」

「答えろ」

「西だ!西だぁぁあ!!」

「看破」

 なりかけの身体が黒く染まる。

「この術は嘘を見破る」

 ガチン ガチン ガチン ガチン ガチン

「ギャアアア!!」

「おさのゆびうまい」

「うまい、うまい」

「もっと、もっと」

「たりない、たりない」

「おさになる、おさになる」

 なりかけの右手から指が無くなっている。

「さぁもう一度、答えろ」

「東だ、東のみずうみの北のたきうらのどうくつから来た」

「看破」

 今度は嘘はついていない。

「その洞窟の規模は? 中にどれ位居る?」

「五千、五千くらいいる」

 三度看破、嘘はついていない。

 其にしても五千のデミゴブ、面倒な事だ。

「じゃあ、もう一つ。あのエルフはどうした」

「つれて来た」

 ガチン

 ヒイィィィ

「みっみずうみでみずあびしてた。おそってさらった」

「服は?」

 ガチン

「みみみみずうみにしずめた」

「それは何時の話?」

 ガチン

「はんとしまへ」

「他には?」

 ガチン

「あひ、ありまひぇん」

 ガチン

「あっそ。聴くだけ聞いたし、限界みたいだし…………」

 …………

「食べていいよ」

 そうしてこの不愉快な巣穴を後にする。

「おさくっておさになる」

「おさくっておさになる」

「おさくっておさになる」

「おさくっておさになる」

「おさくっておさになる」

「たすけるって言った!! たすけるって言ったァアアア!!」

 言っていない。


 巣穴から出ると、流石に空気が新鮮だ。

 マリーは自らに浄化魔法をかけると、おもいっきり深呼吸をした。

「あ~あ、面倒な事になったなぁ」

 なりかけの言っていた湖は国境の向こう側、他国なのだ。いくらギルドが世界各国に籍を置くと言っても、許可なしには国境は越えられない。

「はぁ、一度帰ろ、っとその前に」

 停止結界を解除し、浄化結界を張り直す。後は他の巣同様、奪熱魔法と崩落で巣ごと一掃。

「はいおしまい」

 マリーはエルフをポーチとは別の、自前のアイテムボックスに回収すると松木村へ報告に向かった。


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