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 21話


 マリーが勇者召喚を知った日から滞りなく時は流れ、遂に勇者が召喚された。


「ん? なんか外光ってね?」

「あの光はもしや、」

「ええ、勇者召喚でしょうね。私達の時も光の柱が立ったらしいし」


 マリーの言葉にグルゥとフォール、新人班の二人が一瞬で盛り上がる。


「マジ!? ちょっ! 見に行って良いっすか?」

「駄目だ!グルゥ! 我々では王宮に入れん! だが課長の伝があれば!」


 勇者や転生者嫌いのマリーは冷めたままだ。


「そのうち嫌でも見れるわよぉ。お披露目パレードするんですって。だから大人しくしてて」


 フォールとグルゥは互いを確認すると叫んだ。


「うぉおお!! マジか!! いつっすか? そのパレードいつっすか?」

「課長!! その日に合わせ有給を申請します!!」

「あ!! 俺も俺も!!」


 興奮するグルゥとフォールを対称的に、意気消沈のマリー。


「パレードなんて、遅けりゃ遅い程良いよ。何ならやらなくても良いと思うし。

 …………

 …………

 でも無理だろうなぁ」

 ため息を付き、胃薬を飲むマリー。




 次の日、新人班とマリーの四人が書類仕事をしていると、

「号外! ごうが~い!」

 外から威勢のいい声が聞こえてきた。


「お! 号外! あれたぶん勇者関連だよな? 課長! ちょっともらって来ます!」

「休憩中にしてね」

「もぉ遅えよ、行っちまった、フォールも一緒にな。

 奴らのはええ事はええ事」


 ギンシは苦笑しながら、マリーを含む三人を眺めていた。


「何が良いんだか、」

「あの年頃なら普通だ。それに先代の話もろくに知らんだろ? あいつら」


 ある程度長くハンター課にいる職員は、マリー越しに先代勇者のあれやこれやを聞いている。その為、勇者や転生者にあまり良い印象を持っていない。

 寧ろ、マリーのように、警戒心を持っている職員も少なくない。


「やだなぁ。先に医務室行って胃薬出して貰おっかなぁ」

「もう無くなったか。


 医務室は報告書終わってからにしろ。あとちょっとだ、頑張れ」


 意外と胃弱なマリーである。




「号外貰って来たぜ! お披露目パレードの日程知りたいひとは?」

 …………

 …………

「………… は~い」


 本音を言えば知りたくもないが、いきなりパレードを眼にするのも胃に悪い。

 マリーは渋々手を挙げた。


「なんと三日後の昼から! はい拍手!」


「………… 医務室行って来まぁす」

 腹痛に堪えかね、マリーは腹をおさえて立ち去った。


「教官、あの人どしたんすか?」

「あいつはああ見えて胃袋繊細なんだ」




 三日後。


「あの、課長。今日の昼から勇者のお披露目パレードじゃないっすか? それで俺ら、勇者見てみたいな~なんて。

 あの、行っても良いっすか?」


 常ならば、マリーに媚びる事など絶対に無いグルゥだが、この日だけは別だった。

 因みに有給の申請には失敗している。ギルドでは通常、希望する日時の一週間前までに申請の必要がある。忌引きは別だが。


「ギンシぃ、新人班の午後の予定ってどうなってるぅ?」


 全身から、気だるさとやる気のなさが滲み出ているマリー。


「シャッキリせい! 恥ずかしい。

 

 午後は戦闘訓練だ。まぁ、こいつらなら、一回サボるくらいどってことねぇ」


「そぉ。………… じゃあ、午後から休みとる? 病欠で良ければぁ、」

「………… こう言っては何だが、たかがパレード。本当に良いのかい?」

「良いに決まってんだろ!! 行こうぜ!!

 お疲れ様でした!!」


 後ろ向きな発言をしたフォールも、グルゥと共に全力で駆けて行った。


「お前は行かんのか? 一度くらい見といたほうが良いだろう」

「どうせそのうちギルドに来るわよぉ。勉強嫌いって情報が流れてきたもん。

 ………… 一方で、戦闘訓練はたいそうお好みらしいよぉ」

「………… そいつぁ、………… 勇者として頼もしいんじゃないか?」


 言葉を選ぶギンシ。



「自分より弱い騎士を相手取って、稽古つけてやってるって。

 太刀筋も安定しないくせに、基礎訓練サボってひたすら掛かり稽古」


 勇者への憤りを話しているうちに、マリーの総身に活力がみなぎってきた。


「身体能力の高さで連戦連勝。

 これ以上無いってくらいに鼻伸びてんじゃない?」

「レギュは? 使わねぇのか?」


 『レギュ』『レギュレーション』と呼ばれる、魔道具がある。

 主に、訓練や武闘大会で使われ、使用者達の身体能力を揃わせる効果がある。

 これにより、純粋な技量を競う事ができると言うわけだ。


「実戦派なんだって。自称ね」


 珍しいギンシのため息。


「………… そんな奴が興味本位で冒険者の真似事ってか。暫くは尻拭いだな。

 新人班はどうする?」

「ヒールグラスの時期も終わったし、ラースベリーの採取は早朝。

 …………

 …………

 午前中ならそっちに混ざってもいいんじゃない? あの子らも夢が覚めるだろうし。

 ギンシの判断に任せるよ」




 昼休みが終わり暫く経った頃、外が騒がしくなってきた。

 パレードが近づいてきたのだろう。

 パレードの進行に合わせて、マリーの機嫌もどんどん悪くなっている。


「マリー。お前ちょっと出てこい」

「はあ!? 誰がこんな時に外出るっての! 絶対に嫌!」

「そうじゃなくてな、どっか気晴らしにでも行ってこいってんだ。今のままじゃ仕事にならんだろ」


 サボり魔のマリーにとって夢のような提案である。


「良いの? ホントに? 私行っちゃうよ? ホントに良いの?」

「おう! そんな多くねぇし、俺一人で十分だ。

 行ってこい!」

「ありがとう! 明後日には帰るから!」

「朝には帰れ、不良娘」

「………… さすがに、娘って年頃じゃ、」

「早く行け」


 ギンシにとってマリーとは、未だに手が掛かり、眼を離せない娘のような存在であった。


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