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 20話


「ちょっと! 勇者召喚ってどぉゆぅ事!?」


 荒ぶるマリーに対しフォールはいたって冷静である。


「去年から言われていただろう。今年は魔王討伐から千年の節目、魔王復活や勇者召喚があるのでは? と」

「ただの噂でしょう!? 「勇者召喚が無意味」ってつまり、それを計画してる奴が居るって事!?」

「第二王子が動いているらしい。父が王宮で調べたところ、予算も編成され、確実に計画として存在しているようだよ。恐らく陛下も御存知なのでは?」

「最低! 最悪! 

 はぁ

 午後一に王宮で聞いてくる」


 一介のギルド職員に過ぎないマリーに、王宮へ入る術などある筈がない。


「なんか伝あるんすか?」

「グリフォンの案件がまだ終わってないから」

「あれまだ続いてたんかよ」

「第三王子の謹慎処分を、奴の夏休みに合わせるために、今時間稼ぎしてるの。

 話し合いって言っても、実際は小一時間ほど役人とのお茶会よ」


「へぇー。ところで王宮のお茶会ってどんなお菓子でるんすか? つか、おみやげ希望!」

「あまってたらね」

(グルゥは意外と甘党ね)




 王宮の一室に招かれたマリー。今日もふんだんにお菓子が用意されている。


「それではマリーさん、今日も茶番にお付き合いください」

「私もおいしい思いができますので、どうかお気になさらず。ところで今日は折り入ってお話が、」


「かくかくしかじか」

「まるまるうまうま」


「なるほど、噂は真実ですか」

 噂の裏が取れてしまった。

(もぉやだ、お酒呑みたい)


「重ねて言いますが、私から聞いたと言わないでくださいよ? とにかくこれで、遅延工作の借りは返しましたからね」

「はい、ありがとうございます。決して口外致しません。

 今日はすみませんでした、無理を言ってしまって。一勇者ファンとしてどうしても気になったものですから」


(これでまた、勇者関連の情報を流してくれるかしら)




 ところ変わって、王宮の近衛魔導師団の詰所にやって来たマリー。


「ジラン先輩ちーっす!」


 若い男性の声まねで呼び掛けるマリー。


「おーう。ってマリー!?」

「何度この手に引っ掛かるんですか」

「………… それで? 今日は何の用だ」


「実はかくかくしかじか、で」

「まるまるうまうま、ってか」


「なんでこんな事できたんです? 勇者召喚なんて魔導師いくら居ても足りないでしょ」

「それがな、古い文献で竜脈術ってのを見つけたらしい」


「あ~、クソ!」(まさか千年前の資料? 竜脈術なんて記述残さないでよ!)


「??? とにかく、竜脈に流れるばかでかい魔力を使えば、星の位置に関係なく召喚できるんだとさ」

「誰がそれを見つけて、誰が主導してるの?」

「どっちも第二王子だ」


(また王子! 馬鹿しか居ないの!? 王子って)


「今すぐ止めて。じゃないとその馬鹿王子殺すかも知れない」

「おい! 王宮内だぞ! 冗談でも「その竜脈に流れる魔力って、五年掛けて私が溜め込んでたんだよね~。

 それをこんな無意味な事に使われたらさ、ぶっ殺したくもなるでしょう?」


「俺の立場を考えて言え。

 それにな、無理だ。もう、俺が何を言っても止まらねぇ、その段階は過ぎちまってる。諦めろマリー」


 マリーから特大のため息が出る。


「はぁ

 ならせめて、召喚した勇者には、教育係とお目付け役をつけてなるべく王宮から出さない様にして」

「そうはいかんだろ。各地でお披露目パレードが予定されてる。閉じこめて置くのは無理だ。

 何の懸念をしてる?」


 …………

 …………


「たぶん、若い男が召喚される。

 平凡な若い男が、知り合いの居ない土地で、強い力を得る。さらに、勇者とゆう下にも置かれない立場。そして老若男女を問わず、ちやほやされる。

 これで、勘違いしないわけがない!」


「だが、ある程度の年齢であれば自制くらいできる筈だ」

「上京した友人の口調が、数年後に会ったら昔と変わってた。そんな経験ない?」


「あー、あるな」


 ジランはばつが悪くなり、頭を掻く。


「大して力のない人でもそうなのよ?

 勇者なんて、物語の主人公じゃない。今まで主役じゃなかった人が、急に主役に抜擢。そして周りにちやほやされる。

 勘違い要素しかないわ!

 仮に勘違いしないとしたら、自己評価が低くてそれはそれで危険よ!」

「確かに、力を正しく認識できないってのは危険だな。

 だが、正しく認識すると調子に乗って危険。

 詰んでないか?」


「自分達で始めた事でしょ? 精々火消しに走り回ることね。

 ギルドとしても個人としても関り合いになりたくないわ」


「それで、教育係とお目付け役か。さて、誰を充てるかでまた一騒ぎ起きそうだな」

「勇者に教育係とお目付け役、三人の人格を祈るしかないわ」


「はぁ

 マリー、言い訳にしかなんねぇけどな。

 この件に近衛魔導師団は関わってねえ。全部、宮廷魔導師達の管轄だ。」

「わかってるよ、それくらい。あの団長さんの人柄は私も信用してる」


「ああ。取り敢えず、うちの団長から抗議してもらうが、どこまで話が通るか。

 最悪も想定しとけよ」


「五年の歳月をどぶに捨てられた時点で最悪だけどね。それも原因は勇者召喚。

 狙い撃ちで嫌がらせされてるとしか思えないわ」


「そもそも、なんだって竜脈に魔力溜めるなんて事してた? それも五年間も」


 …………


「あれと、星の位置を合わせて、今年の冬に計画してた事があるの」

「………… 何する気だ。事と次第によっちゃあ、」


「むしろ、国の為になる事よ。

 私は、特定の魔物をこの星から絶滅させる魔法を準備してたの。対象はデミゴブリン」


「なるほど、デミゴブか。

 確かに、毎年の討伐補助金もバカにならん額だよな。あれが無くなれば予算を別に回せるしな。

 …………

 陛下に説明して国中の魔導師の協力を得られれば、なんとか冬に間に合わないか?」


 マリーは渋い表情で首を振る。


「無理ね。

 一度竜脈術を使うと、竜脈が乱れて落ち着くまで術は使えない。

 短くても十年は待たないと。

 因みに、竜脈の調子を考えなかった場合、魔王再誕の条件が揃うと思うよ」


「そうなると、勇者召喚が遠因で魔王再誕か。笑えねぇな。

 無理矢理にでも勇者召喚、潰しに掛かるべきか?」


「それはそれで、国が乱れそうだけどね~。現状、できるのはひとつだけよ。

 勇者の首輪を用意する! それだけ!」


「はぁ、やれやれだ」


 ジランは頬を叩き、気合を入れる。


「よし! あとは任せろ! できる限り動いてみるからよ!」


 ここにきて、マリーの悪戯心が顔を出す。


「因みに、先代勇者は色情狂で、目につく女性片っ端から手込めにしていったんだけど、今回は違うと良いなぁ。

 だってジランの奥さん凄くかわいいもんね」


 ジランの愛は、ペットのワンコ『シャルロット』に注がれている。


「一言余計だ、馬鹿マリー」


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