表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/38

 19話


「で? マリーよ。結局のところ、魔弾はどうなった?」

 薬草採取中、ギンシが尋ねた。

「外してくれるって。これで一安心ね~」


「俺らあんまり触れんかったなぁ」

「だが所詮は棍棒、騎士剣に勝るもの無し!」

 フォールは元騎士ゆえに刃物信者であり、棍棒をよく思っていない。多少形が変わったところで不満に変わりはないのだ。


「後は月末に、本部に送って行くだけ。それで優勝間違いなしよ!」

「いつ頃結果でるんすか?」

 何だか妙に気合の入ったマリーは無視して、グルゥはギンシに尋ねた。

「七月いっぱい検証だの会議だのして、優勝発表は八月の頭だな」

「じゃあ八月入ったら使えるんすね?」

「いや、使えねぇだろうな。 ………… んん、難しいな。………… 取り敢えず、十月まで待ってみろ。それでダメならいつになるかは完全に読めん」

「そっすか」

 意気消沈のグルゥ。


「そうだ、マリー。あの試作品、トンファーだったか、お前の前世の故郷にもあるらしいな?」


 マリーがビクリと反応する。


「何でギンシがそれを? いや、違う! カマかけか!」


 ギンシはからかうようにニヤリと笑い、マリーを問い詰める。


「スミス班長から聞いたんだがな、何でもお前さん、うっかり口滑らせて、あることないこといろいろ喋らされたらしいな?」

 マリーは失態を恥じ、両手で顔を覆っている。

「でな? 「マリーさえ良けりゃあ、あの試作品の名前トンファーにしたい」とよ」


「それは駄目!!」


「そいつはまた何でだ」

 ギンシは理由を知っている。だが、新人二人に聞かせる為に敢えて質問している。


「いつも言ってるでしょ? 私は異世界、日本の技術や文化を広める気は無いって」

「トンファーは良いのか?」

「これに関しては、私一言も口出して無いじゃない」

「別にもう良いんじゃねぇか? 解禁しても」

「駄目! 絶対!」

「そこまで頑なになる理由がわからんなぁ」


 ギンシが腕組みし、首をひねる。


「階段は一歩ずつ上らないと危ないじゃない。

 この世界の歴史は、この世界の人達が一歩ずつ作るべきよ。便利だから、進んでるから、って何でもかんでも日本製ってのは気持ち悪いと思う」


「そこまで考えてんなら、黙ってりゃ良い。なして喋る?」

「気ぃつけてはいるんだけどね~。そこは私だもの、ついうっかり口が滑るのよ」

 開き直り、胸を張ってのたまうマリー。


「肝心なとこで駄目だな、お前さんは」

 ギンシが呆れる。いまいち着いて行けてない新人二人も、そこだけは理解し、一緒に呆れていた。



「 ………… あの、教官、前世とかマジで言ってるんすか?」

「おう、俺は信じてるな。他の奴らも半分以上は信じてるだろうな」


 そもそも、証拠を出せるような話ではない。それでも大半の人達が信じているのは、マリーがそんな嘘つくわけ無いと知っているからだ。

 彼女の嘘はもっと小さく、自己保身の場で出てくるのが主だ。


「マジすか!? 教官、そう言う話って10代までが限度で、35歳になっても言ってるのは、ちょっと…………」

「証拠があるわけでもない、いや出せはしないだろう。何故信じられるんだい?」

「マリー、話したれ。後は自分自身で判断しろ」


 ホイホイと適当な相づちから、語りだすマリー。


「えっとね、前世の私は、13歳まで異世界の日本って国に住んでたの。だけど千年前にこっちに召喚されちゃってねぇ」


「千年前に召喚? それって勇者召喚だろ! 自分は勇者だったってか? 嘘ならもっと上手くつけよ!」

「流石に、一勇者ファンとして聞捨てならないな!」

 荒唐無稽な話に二人はイラついている。


「私の前世は勇者じゃなくて、勇者パーティーの大魔導師のほうね。

 大魔導師大翔(ひろと)とは、前世での私の事よ!」


「いや男じゃん!!」


 前世と性別が変わる事はよくあるのだろうか? それは当事者のマリーにも分からない。


「と言うわけで、勇者パーティーのことなら大概話せるよ。流石に国の根幹を揺るがすような事は、………… まぁいいか、言っちゃっても」


「では、魔王とは? 彼は何処から来て、何をしたかったのか。答えてくれ」


 勇者ファンであるフォールは貴族の立場を利用し、かなりの事情通である。そのフォールが魔王に関してはほぼ何も知らない。国の徹底した情報管理か、そもそも国ですら知らないのか。

 いずれにせよ、これをマリーが語るとなると、大嘘つきか、或いは。


「北の方にアストーラ大陸あるでしょ? 砂だらけで人がいない、大きい島みたいな大陸。

 あそこの真ん中辺りに大きい湖が有ったらしくて。でね、周辺の村ではその湖をお墓代りにしてたんですって。

 それで、長年沈められてきた亡骸が、湖の底の魔素溜りに落ちて、魔王が生まれたっと。

 奴には知性も何も無かったよ。死霊系の魔物と一緒、生者を殺そうとするだけ。」


 グルゥとフォールに衝撃が走る。


「は!? 知性が無い!? じゃ魔王軍は? 四天王は?」

「居なかったよ。後の世の創作でしょうね」

「おい、フォール」

「確かに、古い資料ほど魔王軍や四天王と言った言葉は出てこない。では魔王とは何なのだろう?」


「魔王が確認される五年位前から、急に魔物って生き物が現れ始めたの。そんな中現れた人型の魔物。

 たぶん信じたく無かったんでしょうね、人型の魔物なんて。だから、魔物を操る人、即ち魔物の王、魔王となったんでしょう。

 まぁ、実際は操ったりしないんだけどね~」


 マリーの語った情報に、フォールは深く考えこみ、動かなくなってしまう。

 フォールが否定しない為、グルゥはマリーの話が真実に思えてしまい、言葉を失ってしまった。

 幼い頃から親しんできた勇者の英雄譚が崩れ去ってしまったのだ、無理もない。


 そして、深い思索から戻ったフォールが、再び質問を始める。


「それでは、千年後に蘇ったり封印が破られたり、なんて事は?」

「無いね、ちゃんと殺したもん」

「新たに生まれたりは、」

「その兆候も無いよ」

「兆候? いやそれ以前に何故言い切れる?」

「 ………… 魔物の発生原因なんだけど、旧式魔道具による魔素枯渇なのよ。

 枯渇した魔素を補う為、地脈から魔素が染みだし、それが地表で魔素溜りになる。そこへ生き物が落ちることで魔物に変質。

 これが魔物発生のメカニズム。

 今以て、世界中で旧式魔道具は、製造、販売、所持、全て罪になってる。

 だから、上の方には伝わってるんでしょうね、魔物の発生方法。魔素溜りも確認されて無いし。

 これが魔王が新たに生まれない理由」


「なるほど、前世とか言い出した辺りは馬鹿かと思ったが、あながち嘘ではないのかもしれない。

 それでは今年の勇者祭で勇者召喚を行うと言うのは、完全に無意味と言うことか」


「は!? 勇者召喚!?」


 今度はマリーが衝撃を受けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ