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 18話


 新人班が薬草採取を終え戻ってくると、昼休みまでに若干の余裕があった。そこへ待機班の一人が報告にやって来る。


「課長、試作品について報告良いですか?」

「うん、どうだった? 使い心地は?」

「最悪ですね、あの魔弾って奴。立ち合いの中で魔刃を使おうとしたんですけど、」


 魔刃とは、武器に魔力を纏わせ刃を形成する技術のことで、世間に広く知られている。

 ハンター課の主武器は警棒であるため、必須技術である。


「暴発して俺の腹に穴空きました」

「 ………… ピンピンしてるけど大丈夫なの?」

「もう塞いでもらったんで大丈夫です」

「良かった。今日は無理しないでいいからね」

「はい。それで、試作品の話なんですが」


 彼の報告をまとめると、今朝届いたL字型の試作品に、良いところは一つもない、との事。


「………… 彼らの虎の子みたいだし、今後も魔弾推してくると思うのね? 

 だから、魔弾試す時以外は弾を込めないこと、使用前後に空になってるか確認、この二つを徹底すること。みんなに広めて。私は午後一で抗議に行ってくる」


 マリーの抗議が効いたのか、翌日に届けられた試作品はL字から変更されていた。相変わらず魔弾機能が付いたままだったが、最大の変更はそこではない。魔刃に対応、そして魔弾との共存の為に、今度はU字型になっていることだ。


「あいつらはもう!! バッカじゃないの!?」

「まあまあ、取り敢えず試してみましょうよ、試作品なんですし」

 当然、評判は良くなかった。


 その後、一ヶ月にわたり幾度もの抗議を経たが、いまだに魔弾機能は付いたままだ。だが、警棒としての形は定まった。

 今日が試作品の最終日。これが最後と、マリーは整備班へと抗議に向かった。



 都合の良いことに、スミスは試作品の調整中であった。

「スミス班長魔弾外して」

「断る!」


 スミスの頑なな態度に嘆息し、マリーは今まで言わずにいた場所まで踏み込んで行く。


「魔弾なんてあんなクソみたいな機能付いてたら、武器コンペ絶対に勝てないよ!」

「構わん! 来年もっと進化した魔弾でリベンジするだけだ」

 知らずに嘆息が溢れる。

「あのね、クソなのは魔弾だけよ! 警棒、いやもうあれは棍棒よ! 棍棒の出来は最高なんだってば!」

「魔弾と共存できない時点で最高な訳ない」

「その魔弾が邪魔なの! あれさえ付いてなきゃ最高だって言ってるの! 私だけじゃないよ! 前衛から後衛まで27人、ハンター課全員が認めてるの! ただし、魔弾が無ければね!」

「そうか、それは残念だ。魔弾の良さが分からないなんて」


 話は終わりだ、と言わんばかりに、スミスは背中を向け作業に戻る。


「あれが有用な事くらい皆分かってる。私たちもいろいろ試したもの。その上で、棍棒に付ける意味が無いと判断したの」


 スミスもまた嘆息し振り返り、口を開きかけたが、マリーが機先を制する。


「一度試してみない? 実際に身体動かしてみたら分かりやすいと思う」

 マリーは机に置いてある試作品をスミスに渡す。少し前の型だが、形は現在のと変わらない柄が三つ付いた棍棒だ。


「はい、自慢の魔弾で私を撃つと良いよ」

「死ぬ気か? たとえ弾を込めなくても、風圧だけでも十分危ない。分かってんのか?」

「もちろん! ちゃんと殺す気で来てよ? そうじゃないと意味無いから」


 椅子から立ったスミスは、棍棒に対し垂直の柄を握り、手を馴染ませる。

 マリーもまた、垂直の柄を握り、棍棒を隠すよう腕に添わせている。


 スミスは棍棒をだらりと下げた状態から、不意打ちで攻撃に移る。彼の最高速で狙うは、マリーの頭だ。


 マリーは棍棒を手首の動きで回転させ、スミスの棍棒を打ち払う。そのまま棍棒の回転を止めずに、スミスの首に叩き込む。

 勿論すんどめだ。

 スミスは魔弾を撃つことも出来ずに敗北。


「私程度でこれよ。前衛の人相手ならもっとままならんでしょうね」

 スミスは大きなため息から、そのまま深呼吸を数回繰り返し、独白を始めた。


「夢だったんだよ。弓でもなく魔法でもない、第三の後衛武器。その開発ってのは整備班伝統の夢だったんだ。

 去年の秋ごろアイディアができてさ、皆で話し合って今の魔弾に落ち着いた。でも「よそでも同じ事を考えてるかも」ってなってさ、それで「とにかく今年中に」って。

 意固地になってたのかもな」


「思いつきで突っ走らないで、もっとよくアイディア練ってみたら? 後衛武器を前衛武器に組み込むってどう考えてもおかしいよ」

「だよな! 今考えるとやっぱおかしいよな!」


 スミス班長は、憑き物が落ちたような晴れやかな顔で笑っている。

 が、一転、真剣、あるいは含みのある顔つきになった。

「マリーは前世の記憶があるんだよな? 確か、ニホンだったか。

 こう言う武器、向こうにもあったりしたのか? ちょっと教えろよ」


「ああ、有った有った。確かトンファーって言ったかな。面白いよね~、私は一言も口出して無いのよ? でも彼らの意見だけでこんな風に、異なる文化で同じ形の武器が出来上がる、同じ形に収斂するなんて、興味深いわ~。これを二つの文化が検証したって考えると、この形が最適解って事になるんじゃない? つまり二つの文化の後押し、または後ろ楯。これは武器コンペ優勝間違いなしね! ああいけない、もうこんな時間! それじゃあ私次の予定があるからこの辺で。さよなら~」

 早口で捲し立て、足早に逃げようとするマリー。


「逃がさんぞ?」

 逃げられなかった。


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