17話
「もう直ったの!?」
翌日朝、マリーが出勤すると、整備班のスミス班長がドアの前に居た。
「何か不都合でも?」
徹夜明けの充血した眼で睨まれるマリー。
(もともと顔恐いのに、怖すぎ! 早く解体課に戻ってぇ)
「いいえ、全然。
あ! せっかくだし、みんなに直接説明してってよ、その方がわか「断る!」
スミスは肩を怒らせ解体課に戻って行った。
「おはようございます」
『おはようございます』
今日も朝会から、ハンター課の一日が始まる。
「先ずは、昨日をもちましてグリフォン見学ツアー、無事終了しました。今日からまたシフト表通りの通常業務になります。
次に、今年も武器コンペの時期になりました。整備班から試作品が届いてます。例年通り待機班に預けるので、使用感は午後一に私まで。
それと壊さないように! 私、朝一でスミス班長に睨まれました!
最後に、試作品には「魔弾」って機能が付いてます。
大、変、危険! なので、魔力量が多い人は使わないように。説明書の裏に詳しく書いたからよく読んで使って」
「私からはこれでおしまい、他に何かある人は?」
一人が手を上げつつ、質問をする。
「何でスミス班長朝一で来てたんですか?」
「新人班の三人が早速壊したからです。たぶん徹夜で改良したんだと思います。
他には?」
マリーが皆をざっと見回す。
特に無いようだ。
「それでは今日も一日気を引き締めて、怪我や事故が無いように、よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
「教官! 今日は俺ら何するんすか?」
「薬草採取だ。言っただろ、八月までずっとだって」
グルゥは分かってはいた。だが、ほんの少しだけ期待していたのだ、草取り以外を。
「さ、行くぞ、新人班!」
ギンシが威勢良く出発し、フォールとグルゥがとぼとぼ続き、マリーが適当に手を振る。
「行ってらっしゃ~い」
この後は実質サボりの留守番と決め込む。
「よし! マリー、おめぇさんも来い!」
「え~」
嘆くマリーも連れ、新人班とマリーの四人で薬草採取を行うことになった。
今は採取が終わり、ギンシとマリーによる、最終チェック中だ。
「よし、仕分け終了! マリー、そっちはどうだ?」
「こっちもおしまい。見学ツアーで間が空いて、どうかな~って思ってたけど、ちゃんと出来てる。すごく丁寧になった」
新人二人は気の無い振りをしているが、目に生気が戻っている。
「ちょっと休憩するか、時間もまだ余裕あるだろ」
「そ~だね、休憩、休憩」
男共が車座に座ったところへ、マリーがお茶とお茶菓子を置く。
「こいつを連れて来るとな、この時間が贅沢になるんだ」
「いつも持って来てんすか?」
ため息ひとつ、マリーが答える。
「休みの日に買いだめしとくのよ、アイテムボックスに入れとけば腐らないし。
ほんとは自分用なのに」
「いや、これは明らかに数人前だろう。この量を毎日一人で、となると太るどころでは無いだろう?」
ちなみに今日のお菓子は、切り分けられたパウンドケーキ二本だ。
「ちょうどいいから教えといたげる。
あのね、腕の良い魔導師は絶対に太らない」
「は!? 何で?」
「食べたものを魔力に変換できるからね。だから戦闘前は、前衛よりたくさん食べるの、魔力量増やす為に」
いくら食べても太らない、うらやましい体質である。
「じゃあ、よく「太った」とか「ウエストヤバイ」とか言う魔導師の女はめっちゃ弱いってことか?」
「それはまた別かもね。男へのセックスアピールだったり同性への自慢だったり。
取り敢えず、男の魔導師で太ってたら、あてにならないって思ったが良いよ」
事実、ハンター課の魔導師は一人の例外を除いて皆痩せている。
「じゃあ三班のあのおっさん、偉そうにしてっけど実は弱いってことか」
グルゥの言うおっさんとは、「樽」の渾名で知られる、ルートさんのことだ。
「彼は例外。普段から脂肪の形で魔力を溜め込んでるの。激しい戦闘の後はガリガリになってるよ」
新人二人は驚きつつも想像できず、首をかしげることになった。
「彼、「ちょっと太ってる」じゃなくて「ものすごく太ってる」って感じでしょ? 皮余って大変って言ってた。ダルンダルンだって」
マリーは楽しそうに「ダルンダルン」と繰り返し口ずさんでいる。
ギンシが補足を入れる。
「ちなみに奴はマリーに次ぐ使い手でな? 実際偉いんだ。
全ギルド、魔導師ランク二位だ」
「そんな実力者が何故東支部みたいなゆるいギルドに?」
「だよな! わざわざ一位と二位を揃える意味ねぇよな? うちのギルドに」
新人二人が言うように、東支部は低ランクギルドであり、あまり難しい依頼は持ち込まれない。ランク一位と二位は過剰な戦力と言える。
「もとは本部に居たらしい。で、組織内の政治、ポスト争いに敗れてうちに飛ばされて来たんだと」
「力は有るけど、それを発揮できる仕事が無い。つまり飼い殺しよね。
だから私は彼が暇をしないように仕事を押し付け、日々サボ」ギンシが睨んでいる。
「サボ………… え~と、サボっているわけではないんだよ!」
三人分のため息が聞こえた。




