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 16話

 初日から一週間、グリフォンが旅立ったことにより見学ツアーは、今日の分で終了となった。

「やっと終わった。つかあのクソガキ毎日来るとか、マジありえねえ」

「来年からは、子供同士での参加を認めないって方針になったから。これでもうあのクソガキは来れんでしょ」

 二人が言う「あのクソガキ」とは、当然第三王子のことだ。

「あの、課長もグルゥも不敬じゃないかな? 彼は一応、第三王子なのだが」

 フォールは怒っているのではない、二人を心配しているのだ。

「尊敬すべき処がないもの。だから不敬にはあたらないんじゃない?」

 マリーのへりくつにフォールはあきれ、心配するだけ無駄と思ったようだ。


 そこへギルマスの秘書がやって来た。

「マリー課長、ギルマスがお呼びです、一緒に来てください」

「お! なんかやらかしたか~?」

 ギンシが茶化す。

「賭けてもいい、絶対お小言じゃない!」

「何で分かるんすか?」

「私が何度怒られてると思ってるの。これくらい秘書ちゃんの態度でわかるわ」

 秘書はマリーと違い大変忙しく、早く次の仕事にかかりたい。

「早く行きますよ!」

「ほいさ~」

 マリーのてきとうな返事を直しながら、二人は去って行った。

「なるほど、これが不敬にはあたらないってことか」

「あんな35歳にはなりたくねぇな」




「来たかマリー。

 よし、良い報せと悪い報せ、どっちから聞きたい?」

 ギルマス「トール」の執務室で、マリーは二択を迫られた。

「私その選択肢はどっちでも良い派~。」

「なら悪い方からだ。お前不敬罪で訴えられてるぞ、何をした?」

「私はな~んにも。それで良い報せは?」

 トールは深いため息をついてから、良い報せを教えた。

「うちの整備班が武器の試作品を作った。ハンター課で感触を試して改良したら、本部の武器コンペに出すぞ!」

 マリーが露骨に面倒くさそうな顔をした。

「なんだ、嫌か?」

 マリーも東支部で20年のキャリアがある。その20年の中で、試作品と名のつく物にろくなものはなかった。

「まあいい、決定事項だ、持ってけ。取り敢えず、一ヶ月だ。改良点はその都度整備班に持ってけ」

 ギルマスは三本の棍棒と袋をマリーに渡した。




「お! 戻って来たな。それで? トールは何だって?」

 面倒なツアー引率がようやく終わり、ギンシ達新人班の三人は娯楽を欲していた。

「武器の試作品貰ってきた、あと不敬罪だって」

 新人二人は「不敬罪」に反応し青ざめている。

「また不敬罪か」

「うん、また~。好きだよね~、貴族って」

 実はマリー、四、五年に一度の頻度で訴えられている。事情通の貴族の間では「狂犬」なんて呼ばれていたりする。

「まぁ今回も大丈夫でしょ。それより、はい、試作品。暇なら遊んでみたら?」


「なんか変な形だな」

「手首痛めそうだよね~」

 柄の部分がまっすぐではなく、ライフルの銃床のようになっている。

「殴り難そうっすね」

「ふむ、むしろそちらで殴るのでは?」

「ちょっと待ってね、今説明書読むから」


 マリーは武器と一緒に受け取った袋をあさる。


「え~と、この武器の特徴的な柄は、あぁ、やっぱり柄だって」

「マリー、いいから続き続き」

 気を抜くと脱線してゆくマリーを、ギンシが本筋に戻す。いつもの光景だ。

「え~と、魔弾を射つための物である。魔弾とは、金属の玉を術式で弾き飛ばす、弓やボウガンの上位互換である。

 使い方は、先ず上部の蓋を前方にスライド、」

 三人がそれぞれ、マリーの読み上げに従い弄ってみる。

「次に、穴に玉を入れ蓋を戻す。

 最後に、的をよく狙い、魔力を込める。これで準備完了。

 射つときは、柄上部のボタンを押す」

「まだ射つなよ! マリー、的出してくれ」

 わざわざ道具を取りに行くのを面倒がり、マリーは横着し魔法を使う。

 三人の前にそれぞれ土壁が現れた。


「よし、射てい!」


 玉が金属の筒内部を滑走する音と、土壁にめり込む音がほぼ同時に聞こえた。


「なんかシャリン、バスって聞こえたけど、どんな感じ?」

「狙いがずれる」

「反動がキツイ」

「優雅じゃない」

「なるほどね~。取り敢えず、狙いと反動は訓練で克服できそう?」

「むずかしいだろうな、見れ」

 ギンシが指差す土壁に目をやる。

「下の方に小石あるだろ? あれ狙ったんだがよ、見れ、当たったのは壁の上ギリギリだ」

「つーか当たったの教官だけっすよ、俺ら反動きつくてそれどころじゃねぇし」

「課長も射ってみたらいい」

 フォールの言葉に、マリーも試作品を試してみた。




「あっぶね!! おい! ババア! ちゃんと持てや!」


 射撃の反動で試作品は、マリーの手から飛んでいってしまった。


「しっかり握ってたよ、それも両手で。でもほら」

 マリーの両手の親指が根本から逆に折れ曲がっていた。

 反動が強すぎたのだ。


「取り敢えず、親指戻してもらっていい? このままだと回復魔法の効率悪いし」

 マリーは両手をグルゥに差し出すが、グルゥはびびってしまっている。フォールも同様だ。

 二人共、前職は戦闘職だったが大怪我はともかく、小さな怪我は意外と慣れていなかった。

 マリーの親指はギンシが戻し、即座にマリーが回復魔法で治療を終える。

「よし、治った!」

「にしても、マリー、何でお前だけそんな怪我する?」


 マリーは試作品をにらみ、魔力を流し込みながら探る。


「………… うん、わかった。

 これ使用者の魔力の一割を取り込んで射つみたい。私は魔力量が多いからその分威力も大きくなったんだと思う」

「なら威力の調整は? できるか?」

「そんな融通効く術式じゃないな~。

 ………… と言うわけで、後衛班は魔力量が多いため魔弾の使用禁止。中衛班は班長の判断に任せる。

 そもそも、わざわざ使う必要ないでしょ、後衛は」

 画期的な筈の機能は使い勝手が悪く、四人は魔弾に対し興味を失った。

 次は棍棒としての使い勝手を試してみる。



「取り敢えず、三人で軽く手合わせしてみたら?」

 ギンシが試作品を振り、自然な握りを見つけるとグルゥとフォールに向き直った。

「よし! かかって来い!」


 二人は視線で示し合わせギンシに飛びかかる。

 ガキンガキンと金属同士がぶつかる。

 数合打ち合うと、双方、自然に離れた。


「っ~~~! ムリ! これムリ!」

「思ってた以上に手首がキツイな」

「それに握り込めない分、手のひらへの負担も大きい」


 三人の感想を受けてマリーは、先ほどのフォールの意見を参考にしてみては、と提案する。


 三人は金属製の筒の部分を握り、木製の柄の部分で打ち合いを再開。

「直接持ってっから衝撃がすげぇけど、革巻いたらいい感じかも」

「木製ってのも良いな! 金属より遠慮なくて良い!」

「ふむ、やはり私の見立てが正し あ!!」

 打ち合いの衝撃に耐えられず、柄の根本が壊れてしまった。

 試作品は一時間もせずうちに全てごみとなった。


「す、すまない! 課長」

「うわ! すんません!」

 青くなったフォールとグルゥが頭を下げる。


「二人はギルドが武器に求めてるものって知ってる?」

 フォールとグルゥは首を振って答える。


「量産と整備がしやすいこと、それと頑丈さ」

「考えても見れ、戦闘中にポッキリいったら困るだろ。

 だから良いんだ、壊しても」

 二人の顔に血の気が戻ってきた。

「そーそー。だから私なんてむしろ、積極的に壊すからね! 整備班が恐れる破壊神とは私のことよ!」

 マリーには、気に入らない試作品を幾度も壊してきた実績がある。

「さて、ただ壊したって持ってくと怒られるから、改良点を教えて」

 三人が意見を出すが、殆どは第一印象と変わらなかった。




「と言うわけで、魔弾と木製の柄は要らない。それから変な形の柄もやめて、握りやすいのお願い。あと、柄に革巻いて」

 マリーは同期の整備班班長、スミスに壊れた経緯を説明しつつ、ごみになった試作品を渡した。

「今日のところはこんな感じかな~。あとよろしくね~」

 手を振り、足早に立ち去るマリー。


 残されたスミス班長がほえた。

「何で初日から全部壊れる!!」

 怒りに燃えたスミス班長。

 翌日の朝にはハンター課に改良型が届けられていた。


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