本人たちの知らないところで勝手に何かが進んでいたようだ。
「あっ、んぅ〜。はぁ。うっ。」
荒い息つかい。我慢しているよいなくぐもった声。
「あっ、あっ、だ。」
時折、かん高く入る声が、アクセントになりより性欲を煽る。
そっと手を伸ばし、
「バチン。」
と、手を叩かれる音。
「余計なことしないでください。」
「いや、でもほら。」
「ほら何ですか。」
「いや、何でもない。・・・です。」
女性というにはまだ早い幼さが残る女の子。その子の椅子となり体を傾けられる男。
年齢的には女の子の方が一つ上なのだが、丈が同い年の娘より小さいせいか、すっぽりと収まってしまう。
「そもそもこれは何ですか。浮気ですよ。浮気。わかってますか。」
「そうはいわれても差出人もタイトルもわからないだし、俺悪くな、」「へぇ〜。じゃあどうして、こんなにも個人情報がうるさい世の中で、住所と個人名が合っている宛先はなんなんでしょうか。」
女の子は袋をヒラヒラと、しながら一段低い声を出した。
「なんなんでしょう。」
そして、艶のある声と時折、ズズっ、と吸い込む音をBGMにして苦笑いを浮かべる男。
そして、時折、発せられる、
「いぃったっ」
太ももをつねられる男の声。
「何、じっくり観ようとしてるんですか。真面目にみてください。」
かなり矛盾しているが、この場の支配者である女の子に男は逆らうことができないので仕方がない。
ここで土下座をして形だけでも謝って置けばまた違った形が待っていたのかもしれない。が、それは過去の話。
ことの始まりは家に届いていた差出人不明の郵便物を男の恋人である女の子が見つけたことによる。
男は、変なウィルス入ってるとパソコン壊れるからDVDだし再生機で十分じゃねえ、と言ったのが間違いだった。
なんのロゴもない100均で売ってそうな無地の茶封筒。しかも差出人不明。
ここで気味悪いって棄てていれば良かった物を好奇心が勝り再生。
鴨がネギ背負って鍋に入るってこういうことかな、と男は思ったのはそれからすぐのこと。
「で、これ誰ですか。」
「近所の娘だよ。見たことあるよね。男の方は誰?」
画面に映る男性の着ている服が男と同じ学校の物。もしかしたらあったことがあるかもしれない。が、男の記憶にはそんなものまったくもって無い。微塵もない。
「私が知るわけないでしょ。馬鹿何ですか。馬鹿なんですね。もうほんと馬鹿。」
三回も同じ言葉を重ねたが、最後の一回は男にではなく女の子自身に言い聞かせるようだった。後悔の気持ちがにじみ出ているかのようだ。
男は、女の子の頭に顎を乗せ包み込むように抱く。
ゆっくりと体を左右に揺らした。
「いやー、本当にびっくりだね。彼女にこんな趣味があったとは。」
「それ多分違いますよ。」
多分と言っているのに確信出来る何かが女の子にはあるのだろう。
「そうかな。」
「そうです。」
男と画面に映る女の付き合いだけなら長い。所謂、幼なじみだ。
家も隣。
2人の部屋は離れている上に両方の窓が近いわけではないので、よくある窓を越えて入ってくるとか、部屋を行き来する専用の梯子があるとか、窓によりかかって話をするとかいうシチュエーシはない。
朝あっての挨拶。行き先が同じだから登校時に会えれば一緒行く程度。そもそもあとから引っ越してきた男の家ともとからすんでいる女の家ではズレのようなものがあり、付き合いが遠慮がち。
現に引っ越しはないものの、親が出張先に2年いて男は母方の祖父母に預けられた、なんてこともあった。
出張で2年? と男も思ったが、赴任先や出向先に席はなくあくまでも今の会社に席がある。転勤ではない。あくまでも出張。会社によってもいろいろあるらしい。
閑話休題
そんなこんなで仲が特別にいいわけではない。悪い訳でもない。
「いま幼なじみ、がどうのって聞こえたけど。」
確かに、画面の中の男が幼なじみの男と比較するようなことを言った。しかし、
「それ俺じゃなくて付き合ってた元彼の話でしょ。」
他にも幼なじみがいる。そして、女とその子は幼いときから最近まで付き合ってた。
「あぁ、アレ。」
アレ扱いであるが女の子が思い出した人は、男が言っていたのと間違いなく同じ。
昔、たまたま女の子が通りかかった公園で上から目線の命令口調の子供とあった。
そのあった子供が男のいう元彼である。
この時、女の子が仲間外れのような状況になり男は女の子側についたことで男の母方の祖母が女の子の家で家政婦の1人として働いていたこともあって気にいられた。
世間は狭かった。他に子供の頃、女が他の友達に男とつきっているようだと冷やかしを受けた時に、付き合うならもうひとりの幼なじみの方、と言った。
この時、冷やかしに対する照れ隠しか、そうでないかが不明だが。実際に交際したのだから本心だったのだろう。
だだ、肝心の別の幼なじみはいままでに同じ学校に通ったことがない。
女の子と同じ、お金持ちや社会的地位がある家の子供が行くような、学校に行っている。そのせいで話を聞いた子は、照れ隠しだったと思ったようで、男と付き合っている噂を流された。
男は訂正し回ったのにも関わらずいまだに聞こえてくる噂の根が深いことに最近諦めモードだ。
閑話休題
「そもそもあの娘。一から育てるってるとか言ってたから、きっと俺の知らない誰かじゃない?」
「何その危ない発言。」
お金持ちで依存度が高く若干心に病みを感じる女の子に言われたくないと思うが、男はそれを口にしない。だって怖いから。
それよりもいま現状男にとって大切な使命がある。
「なんでこういうときだけ、積極的になるわけ。」
飽きれながも声が弾むんだようにも聞こえた女の子ははたからみると嬉しいそうだった。
「なんとなく。じゃあダメかな。」
「馬鹿。」