大好きなキミへ
「あ……あっ……?」
目の前の光景に、自分の目を疑った。夢なら覚めてくれと、心から願った。
けど、手に付いた血が……生温かい感覚が……それが現実であることを嫌でも訴えていた。俺は…オレの手は、アカリの腹部を確実に貫いていたのだ。
「あ、あか……アカ、リ……」
「……ロ、ト……」
かすかに、アカリの小さな、震える声が届く。まだ、死んでない……まだ、生きてる!
でも、どうすればいい? まず手を引き抜いて……いやそれだと血が噴き出すんじゃないのか? でもこのままはというわけにはいかないし……
その時、頬に温かい何かが触れた。
「はっ、あか……」
「ヒロ……わた…………じょ、ぶ……から……」
それは、アカリの手だった。まるで俺に落ち着けと言わんばかりに。自分が、今どんなことになっているか、わからないわけじゃあるまいに。
途切れ途切れの、苦しそうな声。
何が大丈夫だよ……こんな、今にも倒れそうになってまで。
「アカリ……ごめ……ん。俺、何てことを……」
体が震える。溢れる涙が止まらない。自分のやったことが、未だに信じられない。
だが、アカリは優しく微笑んで……
「よかっ……いつもの、ヒロ、トだ……」
そんな優しい言葉を掛けてくれる。どこまで、お人好しなんだよお前は……!
「だいじょ……ぶ……ごふっ…………ヒロトは……ヒロトだよ……」
「アカリ! もういい喋るな! すぐに手当てを……」
「ねえ、ヒロト…」
俺の頬に添えられたアカリの手が、小さく震える。温かさが、引いていく。
「ユメ、に……ごめん、ねって…………つた……て……」
妹のユメちゃんへの、伝言……いや、遺言とも取れるそれを、伝える。そんなこと、演技でもないこと言うなよ。それにそれくらい、自分で言えよ……
「あぁ……リーシャと……エルシャの……なか、なおり……だいさく、せん………かんが…………てた、のになぁ……」
「あ、あぁ……やろう、やろうよ! その作戦! きっと二人も、喜んで……くれ……て」
だからそんな、もう終わりみたいなこと言わないでくれよ……それに、俺はまだ何も……何も伝えて、ない……
「ヒロトは……私の、知ってるヒロトは……昔から、変わらない……わた、しの、大好きな幼馴染は……ヒロト、だから……」
「アカリ……アカリ!」
「ヒロト、は、覚えて……なくても、わた、しは……おぼ…………てる。だから……いつものヒロトに、戻っ…………つもわら、て………いっしょ………めい、なヒロ…………に……私の…………大好きな……ヒロトに……もど………………」
俺に不安をかけないように優しい声で、優しい笑顔で、弱々しい言葉に力を込め、伝えてくれる。振り絞るように、アカリは笑顔を浮かべてくれる。
そして……
「……アカリ?」
腕の中のアカリは……それを最後に、何も話さなかった。
ただ目を閉じて……笑顔を浮かべて……静かに、動かなくなった。
「おい、アカリ……何、やってんだよ……起きろよ、起き……」
いくら呼び掛けても……返事はない。軽く揺さぶるがアカリは起きない。笑顔のまま、目を開けない。血の気が、引いていく。
その瞬間……理解した。同時に、体から力が抜けていくのを感じた。
「あ……あぁ……」
認めたくない。認めたくない認めたくない認めたくない……
---……アカリは死んだ……---
嫌だやめろ! 認めたくない! アカリは……アカリはまだ……
-……認めろ。アカリは死んだ
……死んだ?
-死んだ
……何で死んだ?
-殺した
……誰がコロシタ?
-キミが
……おれが?
-ボクが
……そうだ
-そうだ
-『ボク[おれ]が殺したんだ』―
「ぁ、あぁ……あか、あかり……アカリぃいいいイいいィいい!!! うァアアああアあ!!!」




