オマエハダレダ
---この場にいるはずのない人物。オルテリアの幼なじみである青年、キルデ・オスロ。彼はこの混乱の最中にある学園に現れ、何をしようというのか。
……何をしに来たのか、そんな疑問すらかきけされてしまいそうな……激しくなる頭痛に苦しむ俺のことを、こう呼んだのだ。
……"魔王"と。確かにそう呼んだ。俺の、聞き違いでなければ。
「ま……おう?」
だから俺は、痛みを抑えて聞き返す。聞かなければ、いけないと……判断した。キルデは一体、何を言っているのかと。
それに、そもそも何でここにいるのか。聞きたいことは山ほどある……が、その全てを聞く余裕も時間もない。だから、おうむ返しに聞き返した。
「えぇ、確かにそう言いましたよ? 魔王様」
「……意味、わかんね……っつ」
「それも今だけですよ。貴方は今混乱しているでしょうが……、貴方が何者なのか、それは貴方が一番よく分かっているはずですよ」
「なに……ものか?」
何者も何も……俺は……俺だ。俺は、ヒロト、ヒロト・カルバジナだ。第一、それとこの状況と何の関係があるっていうんだ……!
「くっ……!」
ダメだ、痛みで頭がボーッとして……何も、考えられない……立って、いられない……
「ヒロトさん! くっ……うご、けない! 神力も……つかえ、ない……?」
「無駄ですよ。今の貴女は動けないし、少々面倒なので神力も使えないようにしておきました。大人しくそこで事の成り行きを見ていてください」
「……キルデ、あなたは一体……」
倒れそうになる、ふらつく足をもはや感覚だけでその場に立たせる。耳の奥からはキンキンと音が鳴り、周りの音が何も聞こえなくなる。
なのにずっと誰かに囁かれてるような、そんな感覚が襲ってくる。
目の前は景色がぼやけ、もう立っているのか座っているのか、転んでいるのか走っているのか、それすらわからない。ただ、足が地についている……その感覚だけが頼りだ。
今、学園で起こっている、最悪の状況……なのに、自分のことでいっぱいいっぱいになっている場合じゃない!
『オマエハダレダ』
まるでノイズのように聞こえる声は、俺の意識を強引に引っ張っていく。お前こそ……お前こそ、誰なんだ……!
『オマエハダレダ』
同じ問いかけ、声なのかすらもわからない言葉。混濁する意識の中で、それだけははっきりとわかる。
『オマエハダレダ』
誰かって? ……俺は……俺は…………そうだ、おれはひろ、ト……ひロとだ。神力学園所属の、ヒロと・カルばジなだ……!
そうだ、そのはずだ。なのに……何だこのモヤモヤは……息苦しさは……?
「はぁ、はぁ……!」
おれは……おれは…………?
「うぅ、ぐっ……うぁ……」
マワリノザツオンモキコエナイ
ヘンナコエダケガキコエル
アタマガイタイ
メノマエノコウケイガミエナイ
メガチカチカスル
コエガダセナイ
ハキケガスル
セカイガマワッテル
オレガオレデナクナル
自分の中を何かが這い回っているような……自分の中に、何か別のものがいるかのような、気持ちの悪い感覚。それは俺の……ヒロと・かルバじナという意識を塗り替えていく。
「はぁ、は……ぅえ、ぁ……うぁ、ああアアァああアア!!?」
意識が、薄れていく…………俺という意識が、消え去っていく……




