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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
最弱と最強の出会い
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悪魔になりたかった少年



---時間を遡ること十分前



「はぁ、はぁっ……」



 目の前の強大な敵を前に、ネコミ・レイは憔悴しきっていた。



「全く……手こずらせてくれますね」



 双方が多大なダメージを負っているが、ネコミ・レイに比べればアラタ・ナルジヤのダメージなど大したものではない。



 ネコミも健闘したが、アラタの操る神力と魔剣デスピアには敵わなかった。両者の肉体へのダメージが、それを物語っている。



「かい……ちょ……」



 既に立っているのが精一杯のネコミ。彼女にとどめをさすために、アラタは歩みを進める。その手に血の滴る魔剣を持って。



「会長……何で、こんなことっ……」



 もう何度目ともわからない質問を投げかける。既に魔剣の切っ先はネコミの喉元だ。アラタがその気になればいつでも息の根を止められる。



「言ったでしょう、僕は魔物になりたいんですよ。人間の寿命は短い……まるで死ぬために生きているようなものだ。そんなものに何の価値がありますか?」



 それに……と続ける。



「人間は愚かで傲慢な生き物。何も学ばない低俗な存在に、僕はうんざりなんですよ」



 以前の優しかった会長はもういない……いや、あれすらも嘘だったのではないか。戦いのうち、信じようとしていた希望が絶望に潰されていくのを感じていた。



「それにしても……改めて聞きます。ネコ、キミもこちらに来ませんか? キミの力は正直予想以上だった。……ここで殺すには、惜しい力だ」



 先ほど提案し、そして断られた勧誘……それをもう一度、投げ掛ける。今一度力をぶつけ合い、その末に惜しいと感じたのだろう、再び手を差し伸べる。



 しかしすでに、ネコミの心は決まっている。



「……お断り……ですよ……!」



 憧れの会長の誘い……それを拒否する。その目には、はっきりとした拒絶の意志が見て取れた。命乞いのためだとしても、決して自分に嘘はつきたくない。



 答えを聞き、アラタは少しだけ残念そうに目を伏せ……



「そうですか、残念。……では名残惜しいですがネコ……お別れです」



 僅か数秒後、殺意に満ちた瞳を向ける。対してネコミは、もう腕一本さえ動かせない。できるのはただ、覚悟を決めて目を瞑ることだけだ。



 走馬灯だろうか……今までの楽しかった出来事が、フラッシュバックしてくる。



 喉に、チクリとした感覚。痛い……皮膚から何かが流れていくのを感じる。魔剣の切っ先は喉の皮膚を突き破り、どんどん深く刺さっていく。



 痛い、でも、もう体を動かす気力さえない。……自身の死を覚悟したネコミはただ、運命に身を委ねる。



「……?」



 このまま喉を貫かれる……そう思っていたが、その予想は裏切られる。突如として、動きが止まったのだ。……一向に動きが再開する気配はなく、ネコミは疑問を掲げる。



 何故、一思いにやらないのか。



 恐る恐る、目を開けていく。そこには変わらずアラタが立っていたのだが、その目は自分を見ていない。



 自分の……ネコミの後ろに立つ誰かを、見ているのだ。



「キルデさん、来られたのですね」



 口を開いたアラタは、もはや興味がなくなったかのように魔剣を引っ込める。少し手を突き出せば奪える命……それさえも捨て、彼はキルデと呼ぶ男の所へと向かっていく。



 初めて聞く名前だ。会長の交友関係を熟知しているわけではないが、少なくともネコミの知らない名前だ、キルデというのは。



 動けぬ体に鞭打って、顔だけでも振り向く。悪魔側についたアラタが、この状況で親しげに話している……つまり、彼も悪魔側についた人間ということであるということだろうか?



「なかなかの光景ですね。……おや、デスピアを存分に使っているようですね」



「えぇ、素晴らしい魔剣ですよこれは。でももっと……こいつには血を吸わせてやらないと。そのためにももっともっと……」



「そうですか。なら……」



 何の話をしているのか……耳も聞こえにくいし、もうそこまで頭の回らないネコミは二人をただ見つめることしか出来ない。



 瀕死の自分を放っておいて、何を話しているのか。朦朧とする意識の中では考えることすら煩わしい。



 だがそんなネコミにとって……衝撃的な出来事が目の前で起こる。



 ザシュッ……!



「……えっ?」



 ネコミの目に映るのは、予想もできなかった光景。……キルデが、アラタからデスピアを奪い取り……腹から胸へと斬り上げた場面だった。



 鮮血が、舞う。



「……かい、ちょ……?」



「……えっ……かっ、ふ……! な、なぜ……」



「デスピアに血を吸わせてくれてご苦労様。キミの役目は終わりです」



「会長ー!!」



 己が斬られた事実に、頭が追い付かない。膝をついたアラタは、困惑に表情を染め……対するキルデは、少しだけ笑顔を浮かべて見下している。



 まるで、それが僅かばかりの慈悲だと言わんばかりに。



「どう、して……僕は……悪魔に…………してくれ、るん……じゃ……」



「……キミ、悪魔への執着強すぎてちょっとキモい」



 浮かぶ疑問は、あっさりと払われ……そしてアラタの心臓部を、魔剣が貫いた。



「かいちょっ……が、か、っちょ……!」



 狙いはぴったりだったのだろう。力なく倒れるアラタは、もはや動かない。今の今まで、自分と戦い、追い詰めた相手が……突然現れた、訳のわからない男に斬り倒された。



 理解が追い付かない。だがこれは確かな真実。倒れるアラタ、それをただ見ているしか出来ないネコミ……ただそれだけだ。



 次いでキルデは、ネコミに視線を移す。



「彼とデスピア相手にここまで対抗するとは……大したものだ。素直に称賛しますよ。こんなボロボロになってまで……せめてゆっくりお休みなさい」



 言葉ばかりの称賛を与え、目前で魔剣を振り上げる男は……ただ、笑顔だった。どこにでもいるような、少し顔の整った青年。彼は……ただその瞳に死を浮かべて。



 バサッ……



 その背中から……漆黒の翼を広げて。



「その……羽……まさ、か……!」



 その翼を見た瞬間、理解した。彼はアラタのように、悪魔側についた人間などではない。彼は……



 ザシュッ……!



 ……悪魔、そのものだ。

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