この気持ちを伝えるために
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目の前の悪魔は、以前会った時と同じように不気味な笑みを浮かべている。悪魔四神メルガディス……あの時は、歯が立たなかった相手だった。だけど……!
「ほぉ……なかなか。随分と腕をあげたようですねぇ、アカリ・ヴィールズさん」
「あんたなんかに名前覚えてもらっても、嬉しくもなんともない!」
自分でも、渡り合えているのがわかる。敵に褒められるのもちっとも嬉しくないけど……そう、私の力は以前に比べて確実に上がっている!
悪魔と戦い……私は自分の無力さを知った。もしもあの時先生が助けに来てくれなければ、私達は殺されていただろう。だから私は、あれから……特訓に特訓を重ねた。
またあんなことがあっても、乗り切れるように!
「どりゃあ!」
神力を込めた私の拳が、メルガディスの拳とぶつかる。以前なら力比べで敵わず、吹き飛ばされていただろう。けど今は……力と力が拮抗し、互角に打ち合えている。
「敵ながらここまで力を上げるとは……素晴らしい!」
バチン、と弾かれるように互いに距離を取る。力は上昇したとはいえ……決して油断できない状況だ。それに、さっきのオルテリアちゃんとの試合で消耗している。
……はずなのに、何でだろう。どんどん力が湧いてくる。守らなきゃいけないからかな、この場所を。……ううん、そんな大層な理由じゃない。
守りたいんだ、大切な人を。……もちろん、怖い、怖いよ。でも……その人の顔が浮かぶだけで、こんなにも勇気が出てくる!
「ふふ、いいですねぇその顔。それが恐怖と絶望に染まる姿を想像するだけで、たまらない……!」
「こんの変態悪魔……」
負けられない。だって、ヒロトに、言わなきゃいけないことがあるから。本当だったら神力冠祭で優勝したら言うはずだった言葉。
優勝、なんてのは単なるきっかけだ。でも、この状況になって皮肉にも気づかされた。自分が後悔しない方法を選ばないと、と。いつ何が起こっても後悔だけはしたくない。
だから……
「だから私は……お前を倒して、この状況全部ひっくり返して。この気持ちを……!」
伝えるために、戦う!
「いい目だ……この間とは違う、覚悟が座っていますね。ですが……残念ながら貴女は私に勝てませんし、状況もひっくり返りませんよ」
そんな私を嘲笑うかのように、メルガディスが言う。癪だけど、あいつの言うとおり簡単なことではないのはわかってる。だからってはいそうですかと諦められるか!
「お前達さえ追い返せば、また日常が戻ってくる。だから私は負けられない。……おとなしく、ここから出ていけ!」
「日常、ですか……結構な話ですね。ですが……それは無理な話じゃないですかねぇ。もう貴女達に日常は戻ってこない」
「っ、何を根拠に……」
いけすかない悪魔の挑発だ。そうだとわかっていても、どうしても反応してしまう。そんな確信的な発言を、やすやすと無視はできなかった。
が、メルガディスはそれに答えることはない。
「もうすぐです……その理由は、貴女自身の目で確かめるといい。ま、その頃には貴女はすでにこの世にいないでしょうが」
「……言ってくれるじゃない。あんたに殺されるって?」
さっきから気になること……気にさわることを言っているけど、それらにいちいち付き合っている暇はない。私は死なないし、日常だって取り戻してみせる!
色んなことが起こりすぎて、頭がまとまらないのは確かだ。けどそれに混乱させられて、今やるべきことを見失ってしまっては本末転倒だ。私には私のやるべきことがあるんだから。
「あんたのその自信だけは立派だけど……思い通りにはならないよ。いや、させない!」
「ふふ、その威勢やよし。なるほど、貴女のような人間なら……この舞台のメインを飾るにふさわしいかもしれませんね?」
「……?」
また、戯れ言か? 舞台だのメインだの……遊び感覚で本当、嫌になる! お前達の気まぐれで、私達がどれだけの被害を被ったか……!
「そんな軽い気分で……許せない!」
「貴女に許されなくても、全てはもう決められたこと。どれだけ足掻こうと、貴女達じゃこの流れは止められない」
……もうこれ以上、会話は無意味だ。最初から話が通じるとは思っていなかったけど……言葉を交わす時間すら、惜しい。
その私の雰囲気を感じ取ったのか、メルガディスも押し黙る。無用な問答を切り捨てて、力をぶつけることだけに意識を集中させる。
「ふぅ……せぇい!」
先手必勝、相手に時間を与えないために私から仕掛ける。手を拳銃の形にし、人差し指から炎の弾丸を放つ。ヒロトの拳銃から考えた戦法だ。
一発一発を時間をあけて撃つのではなく、マシンガンのように立て続けに撃つ。小さな弾だが、当たれば痛いじゃ済まない!
「んふふ……いいですよ、もっと足掻きなさい!」
メルガディスが避けるどころか、不気味な笑みを浮かべて突撃してくる。魔力による防壁でも張っているのか、弾はやつの体まで届かない。
力は拮抗していても、その心の内までは違う。メルガディスは余裕があるのに対し、私はいっぱいいっぱいだ。心の余裕がなく、あいつみたいにこの状況を楽しめるはずもない。
状況が状況……というのはもちろんあるが、メルガディス本人を相手にしつつ、周りにはあいつの作り出した兵隊もいる。以前との戦いで、技が通用しないのはわかっているけど……
「やるしか、ない!」
近づけないよう周りにも気を配りつつ、メルガディスへと飛びかかる。飛び攻撃が効かないなら直接……!
「とぅ!」
脚に力を込め、打つ!魔力の防壁とぶつかり合い、火花が散る。脚がヒリヒリしてくるが、防壁にもヒビが表れ……割れると同時に、脚を引っ込める。
このまま打っても、威力激減だ。だから……
「えい!」
右拳に神力を集中させ、炎をまとったパンチを放つ。対するメルガディスも、魔力を集中させたのか黒く光る右拳を、放ち……
二つの拳が、二つの力が、ぶつかり合う。力と力のぶつかり合いは周りに衝撃となり伝わり、メルガディスの作り出した人形は脆く崩れ去る。
反撃の隙を与えないために、逆の拳を打ち込む。対応されても、もっと早く早く打ち込み……拳を、脚を、神力の塊を、放つ。
その全てに対応されようと、逆手に取られようと……私は、諦めない!
私は……負けない!
「だぁあああ!」




