雷<いかずち>のネコ
どうすれば、この状況を打破することが出来るのか。いくら力では勝っていると言っても、やがて消耗してしまう。
ただでさえ、アカリやオルテリアらは先程まで試合中だったのだ。いつ限界が来てもおかしくない。
そうなれば、圧倒的な数の力に潰されてしまうのは目に見えている。一番の解決策は、悪魔が出現しているあの大穴を塞ぐことだが……
そのためには、穴へと近づくことになり、つまりより悪魔の数が多いところに突っ込むということになる。だいたい、どうやってあんな穴塞げってんだ。
それこそ、万全のアカリ達でもないと何ともならない気がするが……彼女らは手を離せる状況じゃないし、そんな都合のいい人物がいるわけが……
「といや!」
考えが、まとまらない。そんな俺の耳に飛び込んできたのは、バチバチッという激しい音。
雷が落ちた、とはいかないまでもそう錯覚されるような音が走り、続いて誰かが俺達の前に着地する。
……着地、って上から来たってことなのかな。
「あ……! せ、生徒会副会長」
「やあ初めまして後輩たち。神力学園生徒会副会長、ネコミ・レイ参上」
何とも間抜けな……あ、いや特徴的な口調で話すのは、今本人が言った通り。この神力学園の生徒会副会長のネコミ・レイ先輩だ。
その名前と容姿、さらにはネコっぽい仕草からネコ先輩と呼ばれることも多い。
……別にふざけているわけではないと思う。
白髪の髪は見るからにふわふわで、何でか頭の辺りが猫耳みたいになっている。褐色の肌は健康そうで、全体的にスラッとしている中で一際大きな目が特徴だ。
「ね、ネコせんぱ……いやネコミ先輩、居たんですか?」
現れたのは予想外な人物。とはいえ、心強い人物には違いない。違いないが……あ、あぶねー。会ったこともない先輩をあだ名で呼んでしまうところだった。
いくら噂じゃ気さくだって言っても、初対面の後輩からなれなれしく呼ばれたくはないかもしれない。
「にゃはは、ネコ先輩でいいよ、気に入ってるし。で、質問の答えはイエス。私もこの試合を見にこの会場に来てたのさ、世紀の話題の一年生対決だからね。
けど……お腹減って食べた猫缶が悪かったのか途中でお腹痛くなっちゃって。……で、トイレから気分スッキリで戻ってきたら、にゃんとこんな状況だったってわけさ」
……いやいや、この状況で思うことでもないんだけど敢えて突っ込ませて。トイレとかスッキリとか女子が何て話してるの!? ていうか今猫缶って言った!? そんなもん食べてるの!?
だが……そんな理由で、すぐには出てこられなかったらしい。他の生徒会メンバーも戦っている中副会長として恥ずかしい、と照れ笑いを浮かべている彼女に一応は納得(?)はした。
「よくわかんないけど、後輩が頑張ってるのに先輩がただ見てるわけにはいかんでしょって話だよ」
……まあ、不思議な人ではあるが……この人も相当な実力者だ。……のはずだ。何たって生徒会副会長だし、Aランクの神力使いだし。
それにさっき、あっという間に悪魔を倒していたし、肝も据わっているのかもしれない。
だとしたら、情けない話だがここは彼女の力を借りることにしよう。
「あの、ネコ先輩! あそこのあの大穴、悪魔が湧いてくるあれをどうにかしたら、この混乱も収まると思うんです!」
「んー? ほほう、すっごい大きな穴だね、何じゃありゃ。正直状況が理解できてないんだけど……ふむ、あれを何とかすればいいんだね? りょう、かい!」
まるで猫の牙のように生えている八重歯を光らせながら、まるで相撲の四股を踏むように足を広げる。
するとネコミせんぱ…ネコ先輩でいいか、本人も言ってたし。彼女の周りから、電撃がほとばしっている。
「まずは上の連中が……邪魔、にゃ!」
ぐっと踏み込んだ足を一気に踏み出すと信じられないくらいのジャンプを見せ、宙に飛んでいる悪魔一体の前に現れる。
いきなり現れたネコ先輩に反応出来ないうちに、悪魔のどてっ腹にネコ先輩の拳が刺さる。
「びりびり!」
バチバチと音を立てて電気が拳を包み込み、それは拳を伝わり悪魔の体へ。拳の重さは悪魔にダメージを与えるが……それだけでなく、その体は電撃に包まれる。
さらに追撃は、止まらない。
「アァアアアア!!」
電撃が近くにいる悪魔達にもほとばしり、それは感電していく。たった一撃の拳が、十数にも及ぶ悪魔をいっぺんに撃退したのだ。
「これが……“雷撃の猫”ネコミ・レイ……!」
着地したネコ先輩は、続いて目にも止まらぬ速さで近くの悪魔を倒していく。
さすがは、生徒会副会長を勤める人物。その実力は元より……驚くはその速さだ。まるで本当の電気のような速度の彼女は、神力学園で最速の女とも言われている。すごい……!
「にゃ! っと……ありゃあ、まだうじゃうじゃいるなあ」
すごいが……今蹴散らした分は、ほんの一握り。空にはまだ。、悪魔がうじゃうじゃ残っている。
だがネコ先輩意外にも、Aランクの先輩達が率先して戦ってくれている。これならばいける!
ドゴォ……!
「何だこの音……?」
「……! あそこ!」
希望が湧いてきたその時、まるで建物が崩れたかのようなズシンとした重い音が聞こえる。リーシャが指した方向を見ると、建物こそ崩れてはいないが地面が割れていた。
そこには、今まで姿が見えなかったため別会場にいたと思っていたティファルダ先生が立っていたのだ。しかも、その前にいるのは……
「メルガディス!」
悪魔四神……やはり、ここに来ていたのか! アカリを追い込むほどの相手……だけど、まさか先生が直接戦ってくれていたなんて。先生の力は途方もない。
今回も前回のようにきっと、悪魔を追い払ってくれるはずだ!
「いやあ、大変な事態ですねえ」
緊迫した状況……それに似合わないようなのんびりとした声が、辺りに散らばった瓦礫を踏み分け近づいてくる。この声は……
「にゃ、会長!」
いつの間に…そこにいたのは、生徒会長であるアラタ・ナルジヤ先輩。試合でリーシャを破った、Aランクの実力者だ。
生徒会長なだけあって、その実力は折り紙付きと言ってもいい。会場の危機に、駆けつけてくれたのだろう。
会長に気づいたネコ先輩は、嬉しそうに駆け寄っていく。猫のような耳がぴょこぴょこ動いているのがその証拠だ……それよりも気にかかったのは、会長が手に持っているものだ。
あれは……剣? しかも、赤黒く染まっている。会長本人も、所々汚れてはいるのだが……あれはまさか、血、なのか? それは自分のものなのか? それとも他の誰かの……?
「ネコ、頑張ってくれているのですね。ありがとうございます」
「か、会長、嬉しいけど今はこんなことは……」
会長が、駆け寄ってきたネコ先輩の頭を撫でている。微笑ましい光景のはずだが、どうにも胸騒ぎがするのは気のせいなのだろうか?
「でも、もう頑張る必要はないですよ」
「! レイ、そいつから離れろ!」
「へ……」
悲痛にも聞こえる先生の声は確かにネコ先輩のことを呼んでいて……だが、それはすでに遅かったのだ。
ザクッ……!
「っ……な、にをっ……?」
耳を塞ぎたくなるような、そんな音が聞こえた。目を疑いたくなるような光景が、そこにはあった。
……会長が、ネコ先輩の腹部を剣で突き刺していたのだ。油断していたためかモロに刃は突き刺さり、彼女の服はみるみる赤く染まっていく。




