あの時からずっと
目の前の光景に、私は茫然としていた。だって一人と二人だし、体型だって向こうがしっかりしてるくらいだ。
なのに、人数差も体格差も関係ないなんて。
「ぐう……いってぇ! てめー、何のつもりだ!」
気絶まではいってなかったらしく、うち一人が顔を押さえながら起き上がる。鼻辺りを押さえているためそこが痛むのだろう。
「お前らが先にやって来たんだろうが」
だからやり返しただけ……と最もな言葉が飛び出し、殴られた男の子達は言葉を詰まらせている。それでも、必死に言葉を探している。
「こんな殴ることねえだろ!」
「うるせー! 殴る方も痛えんだよ!」
「このやろ……!」
「何だ、まだやるのか? おれは構わないぞ?」
しかし、男の子が拳を見せた瞬間、自分達では敵わないと悟った二人は捨て台詞を吐きながら逃げていった。
その背中を、男の子は何気なしに見つめていて。
「なあんだ。根性なしめ」
「す、すごい……」
私はというと、目の前に立つ男の子に尊敬にも似た眼差しを向けていた。今まで私をいじめていた子達を、簡単に追い返した男の子に。
「二人相手を、あんなボロ雑巾みたいに……」
「ボロ……キミ、結構言うのな」
そこで、私は気になっていた疑問をぶつけてみた。
「でも……何で、こんなことを。……あなたには、関係ないのに」
そう、彼は関係ないのだ。これは私の問題なのに……何で、ここまでしてくれるのだろうか。
「何でって……女の子がいじめられてるのを黙って見てられないだろ」
対して男の子は、まるでそれが当然だと言わんばかりに言う。あまりに予想していなかった言葉に、私はまたも気の抜けた顔をしてしまう。
今まで私を蔑む人達はいても……助けてくれた人は、いなかったから。
「そう、なんだ……」
「なあなあ、それよりもっと見せてくれよ! しんりょく!」
この胸の温かな気持ち……はしゃぐ男の子は、私のそんな気持ちに気づいてなんかいない。それでも、男の子のその言葉に私は救われている。
「……うん」
「よっしゃ! じゃあ早速……あ、そういやお前名前何て言うんだ?」
そこで、私の名前を聞いていないことに気づいたのだろう。私も、男の子の名前を聞いていないし……お互い、名前も知らなかったわけだ。
「ふふ……私は、アカリって言うの」
昨日までと違い、自分の名前をあっさり伝えていた。昨日はあんなに、信じまいと思っていたのに。
「ふむふむ、アカリか。おれはヒロトだ。よろしくな、アカリ!」
こうして男の子……ヒロトと私は、出会い、友達となった。私にとって、ある意味初めてとも言える友達で、そして……
「おー。やっぱかっけえ!」
「もう、さっきから同じ台詞ばっかり」
それから私は、放課後になると公園へ行く楽しみが増えた。ヒロトと会うのが、とても楽しみになっていたのだ。彼といる間は、嫌なことを忘れることができた。
もっと早くに彼と出会うことができていたなら……何かが変わってたのかもしれないな。
「……ねえヒロト」
「なに?」
「これからもさ……ずっと一緒にいてくれる?」
「うーん……ムリ!」
「えぇえ!?」
「ぷっ、あははは! 悪い悪い、冗談だって!」
「むぅ……」
「怒んなって」
「怒ってない。ヒロトのあんぽんたん」
「怒ってんじゃん」
「ないもん」
「じゃあ膨れんなよ……風船みたいだぞ。ったく」
ポン……と、私の頭に温かな感覚がある。手を、置かれていた。
「何が起きるかわからないけど、これだけは言える。おれの意志でアカリから離れることはない」
「……ほんと?」
「あぁ。だから、アカリがおれから離れなければずっと一緒ってことだ」
その約束は、今日まで守られている。ヒロトは私から離れなかったし……私がヒロトから離れることは、ありえなかった。
思えば、この時からすでに私はヒロトのことを……想っていたのだろう。
ヒロトと出会ってから、私の世界は変わった。
学校は同じでも、クラスは違う。でもちょくちょく話しかけてくれる彼のおかげで、それに触発されたのか、今まで一人だった私の周りには人が集まってきた。
灰色だった私の世界に、ヒロトは色をつけてくれたのだ。
「ねえヒロト」
「何だ?」
「もしヒロトもさ……神力を使えたら、どうする?」
「そりゃ、嬉しいさ! かっけえし、アカリとおそろいだしな!」
そんな会話をしたのは、いつだったかな。
そしてそれは、現実のものとなった。
「おいアカリ聞いてくれよ! 俺にも神力の適性があるって!」
「ほんと!?」
それを聞いたのは、確か中学に入ってからだ。
神力を使える人間は、高校に入る年になると、一般の高校ではなく神力を使える人間が集められる学園に入ることになるらしい。
それはつまり、神力を使えない人間……ヒロトとの別れを意味していた。
別れって言っても、今生の別れってわけでもないんだけど……このままだと、ヒロトと引き離されてしまう。そう思っていた私には、これ以上ない朗報だった。
これで、私達は一緒に……
「良かった……これで、これからも一緒だね!」
「あぁ。てか、泣くなよ……仮に学校が一緒じゃなくても、それだけだろ?」
「な、泣いてないもん! そうだけど、それでも嬉しいの!」
「ほら、嬉し泣きってことだろ?」
「ち、違うもん!」
でも、嬉しかったのは本当。周りは私と同じ人たちばかりとはいっても……一人でうまくやっていけるのかが、不安だったから……
ヒロトがいれば、私は……




