不思議な男の子
翌日、学校終わり。私の足は、公園へと向かっていた。
行かないと決めていたのにどうしてか、その足は目的地へと向かう。やはり気になって……ううん、これは毎日行ってるから。その癖で行ってるだけ。他の理由なんてない。
公園に着いた私は、目を疑った。いないと思っていた昨日の男の子は……いた。
どうして……私をからかってたんじゃないの?頭の中が混乱していく。
……いや、どうせ私が来ないとなれば、帰るに決まってる。すぐに飽きるさ。それに私自体は、約束したわけじゃないし。わざわざ守ってやる義理はない。
私は側の木の後ろに隠れ、男の子を観察することにした。
それから十分、三十分……何と一時間経っても、その男の子は帰らなかった。一人で、ブランコに乗ったり砂場で遊んでいる。
「何で……」
自分でも、驚きの声を上げていた。そして、胸の中に沸き上がる気持ち。期待しては、ダメだ……でも、少しだけなら。
恐る恐る、私は公園に入っていく。近づく度、鼓動が早くなるのがわかる。約束したのに、何で来ないんだ……そんなことを言われるんじゃないと怖かった。自分でしたことなのに。
足音に気がついたのか、男の子は視線を動かす。そして……こっちを、私を見る。目が合った。
「お、よお!」
男の子は、怒るどころか笑顔を浮かべていた。ぶんぶんと、私に手を振ってくれた。困惑する私をよそに、のんきで何も考えてなさそうな表情を浮かべている。
「いやあ、よかった来てくれて。てっきり事故って来れなくなったんじゃないかって思ったよ」
「何で……怒って、ないの?」
驚く私は、ただ聞くだけ。すると男の子は……
「怒る? 何で」
「だって……待たせちゃったみたいだし……」
「仕方ねえよ。よくよく考えたら、時間決めてなかったし。だから待ったとかはなし」
けろっと言いのけた。私は、何だかわからない感情に潰されそうになっていた。こんなの、初めてだ。
「……怒っていいんだよ。だって私、一時間前にはここにいた!なのに、キミのこと疑って隠れてた! だから……」
わざわざ何でそんなことを言ったのか、自分でもわからなかった。けれど、あふれでる感情を抑えきれなかった。
「……すげーなお前」
「……へ?」
「そんなん、言わなきゃわかんないのにさ。わざわざ言うなんて、お前バカ正直だな!」
「バッ……!?」
「まあおれが一方的に約束したようなもんだし、気にすることないって」
対して男の子は、そんなこと気にしてないとへらへら笑っている。そうやって笑う男の子を見て……私は、言葉に詰まってしまう。
何て言えばいいのか。何をすればいいのか。それに胸にあるこの気持ち……これは、罪悪感? それとも嬉しさ?
同い年の子達に気味悪がられていた私には、その言葉はとても新鮮で。とても、あたたかくて。
「ほらほら! 見せてくれよ!」
「へ?」
「ほらあの……しんりょく?ってやつ!」
私の気持ちなんて素知らぬ男の子は、自分の欲望のままに要求してくる。ほんと、無邪気の塊のような子だ。
「じゃ、じゃあ……えい!」
近くの砂場に意識を向け、小さな風を起こす。それは徐々に、まるで竜巻のように砂を巻き上げていく。
「おぉ!」
私が生み出した小さな竜巻を、男の子はじっと見つめている。食い入るように見つめ、はしゃいでいる。
……クラスメートの子達も、最初はこうだったっけ。
この男の子は、いい子なんだろう。それはわかった。けど……それでも、他の子とは違うと、思いきれない。
どうせすぐに興味なんか失い、私から離れるんじゃないかと不安になる。
「あれ、終わり? 」
そんな私の気持ちが反映したのか、竜巻は少しずつ力を失っていき……やがて、消えた。
「なあどうした? どっか悪いのか?」
「……それは」
誰かが離れていくのが、怖い。会って間もない男の子にそんなことを話そうとしていた……そんな時。
「あ、あそこに化け物がいるぞ!」
「何やってんだあんなとこで!」
「……!」
私を蔑む言葉が、聞こえる。そこにいたのは以前まで、この男の子と同じような反応をしていたクラスの男の子二人だ。
「おい、誰だお前」
「こいつといると、怪我するぞ。こいつ化け物だから。変な力使うし」
それは私から、男の子を引き離そうとする言葉。私は黙っているしかなかった。実際に力を暴走させて怪我をさせたことだって、嘘ではないのだ。
こんなこと言われたら、この男の子も去っていくに決まってる。それを私が止めることなんて出来やしない。
どうせ離れていくとわかっていても、やっぱり久しぶりに同い年の子と話せて楽しかったのかな。今男の子に離れていかれたら……また、ひとりぼっちか。
「は? 何言ってんの、化け物なわけないじゃん。変な力って、面白い力じゃん」
また暗闇の中に……そう思っていた私の耳には、信じがたい言葉が届いていた。
それは、今まで私の力を気味悪がってきた人達とは正反対のものだ。いつの間にか私を守るように男の子が立っている。小さくも頼もしい背中が、そこにはあった。
男の子の対応が気に入らなかったのか、二人は眉を潜める。
「はあ? 面白いって……あんなん、人間が使うもんじゃねえよ」
私の身の回りには、他には神力を使える人はいなかったし、その知識もなかった。だから、こんな非常識な力は子供には認知されていない。
だからこそ、周りの反応が普通と言えば普通なのかもしれない。のに……
「知らねーよ。実際に使ってんだし」
男の子は、あっけらかんと返す。その様子に向こうの二人の方が動じてしまっている。
「変なやつ……もしかして、お前も化け物の仲間か!」
不意に放たれた、その一言。正直、この男の子のことはまだ信用したわけじゃない。
でも、私と会った時のあの目……間違いない、この男の子は“普通の”人間だ。なのに、私と同じにされるなんてそんなこといけない!
「違う……! この男の子は、私と同じじゃ……」
「うるせー化け物!」
思わず一歩踏み出たが、次の瞬間に肩を押された。それも強めの力で。突き飛ばされてしまったのだ。
私はあっさりと、尻餅をついてしまった。
「黙ってろよ、バーカ」
ケラケラと笑う声。
この力を使えば、こんな奴ら……そんな考えも過った。でもそんなことをしたら、本当に私の居場所は無くなってしまうだろう。
お母さんが言っていた。神力はナイフと同じ。料理に使うものが使い方によっては人を傷つけるものになると。そんなことはしてはいけないと。
だから私は、黙って耐えるしか……
「あははは……ぐへっ!」
人を見下したその笑い声が、突然途切れる。ドカッ、と何かを殴るような音とともに。
その正体は……私を庇ってくれていた男の子が、笑っているうちの一人の頬を殴っていたのだ。
「いっ……な、何すんだ!」
「いやぁ、何かむしゃくしゃして」
男の子は悪びれる様子なく、答える。その態度がいけなかったのか、二人は一斉に襲いかかる。
「やっ……!」
殴られる……そう思い、私は目を閉じてしまう。数秒後には殴られる複数の音。……私の頭には、最悪の未来が浮かぶ。
しばらくして音がやんだ後……恐る恐る、目を開けると……
「いってー……殴りすぎた」
二人をタコ殴りにし、堂々と立っている男の子の姿があった。




