神様の力を使った落第生
……気がついたときには、すでに突風は収まっていて……男達も消えていた。それにもだが何より驚いたのは、俺を中心として巨大なクレーターができていたことだ。さっきの突風が原因か?
「いやー、助かった助かった!」
ぼーっとしている俺の耳に飛び込んできたのは、やはりあの、気の抜けたような声だった。
「うん? いやいや違う違う、助けたのは私だよ私。うん」
「今のは……」
何か言っているが、今はそれどころじゃなかった。というか、混乱していて耳に入ってこなかった。今のは神力……それも軽くAランク相当はあるだろう威力。
もしかしたらそれ以上かもしれない……それほどの力。山の地形を変えてしまった。
自分の手を握ったり開いたりして見つめながら、先程のことを思い出す。一瞬の……けど、確かに存在した時間。俺が今までに味わったことのない感覚。
何て言うか、力が体の中からあふれ出してくるような……そんな感覚。
「はぁ、しっかし……緊急とはいえチンピラ二人ごときのために私の残りの力を使う羽目になるなんて。あ、あいつらは遠くの彼方に飛んでったから気にしないでね。死んだりとかしてないから」
やっぱり変だ。さっきの力はこいつと……その、こいつとキスしてから、いやいや、されてから表れたものだ。
状況が状況とはいえ、女の子とキスしてしまったという事実に……俺は顔を赤らめてしまう。は、初めてだったのだが……
いやそれも大事ではあるが……
「おい、お前一体何なんだ!?」
だけどそれよりも重要なことがある。気を取り直して俺は改めて、目の前の彼女に向き直る。
「だから、何度も言ってるでしょ?」
そんな俺とは裏腹に冷静な彼女はチッチッ、と指を揺らす。その場でくるっと一回転した彼女は……無邪気な笑顔を浮かべながらこう言った。
「私は神様! 神エルシャよ!」
そう言った彼女……エルシャの背後には、太陽が照りつけそれが後光になっていた。それはまさしく、神々しい神のようであった。……とはいえ、やはり信じられないのは事実なわけで……
「あ、その顔はまだ信じてないわね?」
うん、正解。
不思議なことが起きたのはわかる。この現象をどう説明つけるか……確かに、こいつが神様だとした方が色々と説明つくのだろうが……
「そんなおいそれと、信じられるわけないだろ」
今までの行動を見ていて、普通の人間と違うのはわかる。神力を使えて、そのレベルがかなり高い可能性が一番有力ではあるが……
それだと、さっきの俺からあふれ出してきた強大な力の説明がつかない。あの力は……当然俺が使えるレベルの力ではない。
というか、あんな規模の力見たことがない。あのアカリでも……ここまでの力は、出せないんじゃないか?
「……俺は一体……」
どうしてしまったのか。そんな俺の疑問に答えるかのように、彼女……エルシャは答える。
「それは私が、力の移し渡しをしたからだよ。そのための行為はまあ、人間界で言う接吻だね」
えっへん、と得意気に胸を張っている。だが残念なことに、俺には何が何だかさっぱりなのだ。というか、そんな堂々と接吻とか……
「その顔は何もわかってないって顔だね。いいよ、私のことを教えてあげる」
でも、と人差し指を突き立て……
「そのためには私が神様であると納得してもらわないといけないんだけど……してもらえるかな?」
そう問いかけてくる。正直曖昧なところなのだが……そうすると納得できることも、いくつかある。
あれだけの傷を負っていたのに平然としていること、神力が効かないこと……これらは高位の神力使いなら可能かもしれないが、それでもさっきの『力の移し渡し』……いかに高位の神力使いでも、そんなことはできない。
それに、移し渡しということは力を増幅させるのではなく、自分の力を与えるってことだ。
Eランクの俺が、Aランク相当以上の神力を使えたことから、こいつが元々持っていた力は相当なものとわかる。
しかもその力は、残った力、ということらしい。となると本来の力は……とんでもないものだ。そんな膨大な力を持つ人間を、学園や社会が放置しとくとは考えにくい。
つまりは一般に認識されてない人物。
「ふわぁ……ねむっ……」
だがそれよりも、実は決定打があるのだ。こいつは確かに撃たれていた。……あの男達の会話からしても、それはおそらく昨夜か今朝……いずれにせよごく最近ということだ。
少なくとも撃たれてから現在までの期間に、銃弾を受けたという重症にも思える傷がこうも完璧に治ることは不可能だろう。だというのに……
服は血で赤く染まってこそいれど、傷はすでに塞がっているのだ。こんなこと常識ではあり得ない。まあ、神力なんていう常識では測れない力がある世界ではあるが。
神力で治した、という考えも浮かんだが、それだとそもそも銃弾なんかで傷を負うのはおかしいという考えに至った。銃弾なんて、防ぐなりなんなりで神力で弾けばいいのだから。
つまり、こいつは神力もなしに重症の傷を僅かな期間で治した、ということだ。そんなこと普通の人間にはできない。
黙りこんだ俺を不思議に思ったのか、自称神様は可愛らしく首をかしげている。
「考えはまとまった?」
「まあ……あんたが普通の人間じゃないってのは納得したよ」
「まあ神様だからね」
とりあえず今は落ち着こう。落ち着こうじゃないか……状況の整理が先だ。
「こほん。そうだねぇ……とりあえず質問してよ。その方が話しやすいし」
質問形式、か……まあその方が俺も聞きたいことをまとめたり、すんなり聞けるし、いいかもな。
「じゃあ……あんたが神様であるとして、何で神様であるあんたがこんなところにいるんだ? てかどう見ても人間だろ」
「信用ないなぁ。いい加減信じてよ、ヒロト・カルバジナ君」
仮定はしても、そんな神様なんて、やはりいくらなんでも信じられるわけ……え? 今こいつ、何て言った?
「俺……名前言ったっけ?」
何で俺の名前、フルネームで知ってんだ? 名乗ってない……ハズだよな? 初対面だし、警戒して。
「さっき、接吻したときに……あなたの情報をいただいたの」
と自分の唇を指差すが、さっきからよくもそんな恥ずかしいことを平然とこいつは……
「そんなことできんのか?」
「神様ですから。何なら他にも言い当ててあげようか?」
言うが早いと、そう言ってこいつは、俺の情報だというものをペラペラと話し始める。
「ヒロト・カルバジナ。ごく平凡な学生、ルックスも身体能力も頭も普通。唯一記憶能力は平均より上だが、身に宿す“聖なる力”は学園の中でも最低ランク。
学園最底辺の男、必死の努力も実を結ばずテストの度に最下位を弾き出し、当時Dランクまでしかなかった学園にEランクという制度を叩き出した通称“落第の弾丸”と呼ばれ……」
「もういい、止めてくれ」
ホントのことなんだが……こうもバッサリと、しかも初対面の相手に言われると、精神的に来るものがある。もういいからと手を振る。
「えー、でもまだこんなものじゃ……」
「わかった! 信じる、信じるから! 神様エルシャ様!」
これは脅しだ。ある意味脅しに近い。学園の人間なら皆知ってるだろうが、初対面の女の子に言われるというのはなあ。
それに、それをなしにしてもここまで俺のことを言い当てられてしまっては……
「ま、いっか。でもさー、キミも不器用だよね。記憶力いいのに他の人の技とか盗めないんだね」
「わかったって言ってんだろ!」
ホント人の心をえぐってくるよな? こいつが神様なら神様ってのはいい性格してやがるよ!
「まあ冗談はこのくらいにして……そういえば何で私がここにいるのか、だったよね。答えは簡単、天界から落とされちゃって……」
まったく、ようやく本題に戻って……ん?
「天界? 天界ってあの……神様とか天使とか住んでるっていう? おとぎ話の物語じゃ?」
「そうそう、そこそこ。おとぎ話では、ないけどね。その時に力の大半を失っちゃって、あんなチンピラ二人程度にあの様だよ」
あんなとかチンピラとか……やけに口悪すぎだろ神様……
「けど俺に与えた力って、かなりのもんだったよな」
「それは単純に私がスゴイから!」
自信満々とはまさにこのことだろう。わかってはいたが本人に言われると何かムカつく……
「力の大半を失っちゃった神エルシャはチンピラ二人に追われ、襲われるも命からがら逃げ延びて……出会った少年に残った力を与え、今に至る、というわけ」
それはまるで小説のような口調だが、まあ言わんとせんことはわかった。それに筋は通っているのだ。……だが力を与えるということはもしかして俺の中にはまだあの力が……
「あ、ちなみにその力は一回限りのものだから、今のキミは元のEランクのままだよ」
と、俺の淡い期待は見事に砕け散った。俺の期待を返せコンチクショウ。じゃあ俺は、あの強大な力をあんなことに使ってしまったわけか……
まあ命の危機だったんだが……とはいえもったいない。
「それに力を与えちゃったから、今の私はもう何の力もない……この身は人と同じというわけ」
お手上げのポーズをしながら、軽くため息を吐く。ちなみにあの傷が治ってたのも神の力ってやつらしいから、今の彼女にあんな真似はできない。
のでまたあんな傷を負ってしまっても一人では治せないし、普通に重症だ。
「そういや、こうなった経緯を……」
彼女の力のことは聞いたが……どうやら天界から落とされたとのことだが、その理由をまだ聞いてない。そうなってしまったそもそもの経緯。俺がそのことに触れようとした、その時……
「な、何これ……」
聞き覚えのある声が耳に届いた。振り向くとそこには、ここの光景に目を丸くするアカリの姿があった。同じように俺も、目を丸くする。
「アカリ、何でここに……?」
「放課後になっても帰ってこないから、先生にこの場所聞いて探しに来たんじゃない。それより何よ、この……」
何でアカリがここにいるのか。その理由は単純明快なものだった。放課後……もうそんなに時間が経っていたのか。
しかしそれでわざわざ探しに来てくれるなんて、何て律儀な奴だろうか。幼馴染冥利に尽きるな。
お礼を述べようとしたが、どうしたことかアカリはこっちを見たまま赤くなったり青ざめたりしている。はて、どうしたのかその反応は。
「ひ、ひひヒロト……? そ、その格好は……」
格好? 一体何を……あ。指摘されて、俺はようやく気付く。今の自分の格好に。そう、パンツ一丁なのだ。そういえば服取られたままだった。
……え、っていうことはチンピラを吹き飛ばした時とか、さっきの深刻っぽい話とか、あんなシリアスな展開でこんなマヌケな格好してたの俺?
「それに、その女……き、綺麗だし……む、胸も私より……」
焦る俺は、アカリの言葉を聞き逃してしまっていた。まあ小さくて後半何を言っているか聞こえなかったが、どうやらエルシャのことを見ているようだ。
わなわなと震えているのは、それが理由か。
……探しに来た幼なじみが、パンツ一枚で見知らぬ女と一緒というとんでもない光景。……これはもしかしなくても絶対誤解を招いている! というか招かない方が無理だ!
「あ、アカリ!これは……」
「うるさいこのド変態! 死ねぇ!!」
俺の弁解も聞かず、アカリはその手に電気をためる。バチバチと音を立て、あぁ当たったら痛いじゃ済まないだろうな。
そう、神力はこんなこともできるのだ。ぶっちゃけ何でもできる。
……って解説してる場合じゃない! どうするどうする……そうだ!
「待った! 実はこいつはかみさ……むぐ!」
とりあえず話を聞いてもらうしかない。そのためひとまずはアカリの興味を引くワードをとそう思ったのだが、それはエルシャに口を塞がれることで防がれてしまう。
「むぐ! むぐぐ!」
「何バラそうとしてるの! 誰彼話していいものじゃないんだから!」
そりゃ神様なんて信じてもらえないだろうし何言ってんだこいつ扱いされるのがオチだろうが、もしかしたらもしかするかもしれない。
確かに重要そうな話だが、つったってこのままじゃビリビリ黒焦げ間違いなしだぞ!
「そ、そんなにくっついて……仲良さそうに……」
ほら、何か知らないけどアカリの怒りボルテージが上がってるぞ! 絶対黒焦げで済まねえぞこれ! 全身ビリビリしてるもの! やばいよこれ!
「ぷはっ! ちょ、ちょっとタンマ……話を……!」
「バカァアアアア!!」
アカリが叫んだ瞬間……辺りが光った。そして裏山には、(エルシャの力を使った)俺によってできた謎のクレーターと、アカリが起こした雷でも落ちたかのように焦げた一面が残された。
これは後々、自然災害でも起きたのかと学園で噂されることになった。




