ツンデレリア
腕組みをして立っているオルテリア・サシャターン。彼女は眉を寄せており、どこか不機嫌そうにも見えた。
「優勝、その意気やよし。しかしアカリさん、私との勝負を前にそれは少々気が早いんじゃありませんか? くれぐれも、『優勝』にとらわれて本領が発揮できないなんてことには……」
「だ、大丈夫! ちゃんと、オルテリアちゃんとの勝負は真剣に挑むから!」
アカリの目の前に歩んできたオルテリアは、じぃっと視線を向けている。しかしアカリの言葉を聞いて安心したのか、その顔に笑みを浮かべる。
「それを聞いて安心しましたわ。それに、私との勝負前に腰が引けている、なんてこともないようですわね」
「オルテリアちゃん……もしかしてわざわざ励ましに来てくれたの? ありがとう!」
こうしてわざわざ声をかけてきたということは、発破をかけに来てくれたのか。アカリも同じ考えを持ったらしく、オルテリア以上の笑顔を浮かべて返す。
「っ……! な、何を言ってますの! 励ましだなんてそんなことはありませんわ! ただ……そう、色ぼけに浮かれて私との勝負が疎かにならないか心配だっただけですわ!」
「い、いろぼっ……!?」
そんなことはない……勘違いしないようにと言い直すオルテリアだが、その姿は全然素直に見えない。どころか、新たにツンデレ属性が垣間見えたように思う。
「……ツンデレリアさん?」
「なっ! い、今何て!? だ、誰がツンデレリアですか! 語呂悪いじゃないですの!」
思わずつぶやいた言葉が、聞こえてしまったようだ。断固抗議、とツンデレリアを否定してくる。
でも、結構いいと思うんだけどな……ツンデレリア。
「まあまあ落ち着きなさいよツンデレリアちゃん」
「そうですよツンデレリアさん」
「やめてください!」
どうやらみんなも気に入ったらしく、いつの間にかツンデレリアが定着してしまう。エルシャはともかくリーシャにもからかわれる辺り、よほど気に入ったんだろう、ツンデレリア。
「コホンっ。とにかく、やるからには全力でやり合いましょう。貴女が優勝してヒロトさんに伝えたい想いがあるとしても、私には関係ない話ですから」
「わああ! 恥ずかしいから言わないでツンデレリアちゃん!」
「誰がツンデレリアですか!」
何だかんだ、二人は本当に仲がいいなあ。お互いをライバルだと思ってるからこそ、なのだろうか?
それにしても、俺に伝えたい、って何のことだろうか?
「おっと、そろそろ時間ですわ。では私は、先に行ってますわね」
気づけば試合開始時間が近づいてきていたようだ。そんなわけで、一足先にオルテリアは控室に向かっていく。
対戦相手を見送ってから、アカリが軽く深呼吸を繰り返しているのに気づく。
「アカリちゃん、大丈夫?」
「……えへへ、緊張はしてる。オルテリアちゃんは今まで戦ってきた人達とは一味違う。勝てる、なんて簡単には言えないけど……私は私に出せる全力を出すだけよ」
そう答えるアカリの表情には、自身はないが不安というものもなかった。
確かにオルテリアは、アカリと同ランクであるAランク。神力の力を測るテストでは、アカリが勝っていたとはいえ……それでも大きな差があったわけではない。
少しでも気を抜けばアカリを上回っていただろうし、どっちが上というのは優劣をつけがたい。
……だがそれは、以前までの話だ。例の悪魔四神との一戦以降、アカリは特訓に特訓を重ねた。
悪魔四神であるメルガディスに敗北したことが、アカリをさらなるステージへと上げた。死にそうな目にあったからこそ、それはアカリにいろんな影響を残した。
あの出来事のおかげ、という言い方はいいのかわからないが、結果的にあの出来事を経てアカリのレベルは、以前よりも上昇した。苦い思い出を、自らの力に変えるように。
オルテリアも特訓はしているだろうが、今のアカリならちょっとやそっとの特訓をしたくらいでは追いつけないだろう。
「あ、私もそろそろ行くわ! じゃ、見ててね!」
それでも余裕とはいかないだろう。だからこそ不安はある。それでも負けるわけにはいかない。そんな気概が、アカリから伝わってくる。
時間になり、手を振りながらアカリは控室に移動していく。その背中を見送り、俺達も観客席に移動する。




