平和なひと時
声のした方向に視線を向けると、そこにはエルシャがいた。よほど自信があるのか、腰に手を当てて仁王立ちをしている。
「ふふん、どうよ。私の水着」
そして、なぜかどや顔。神様だからかはわからないが、恥ずかしいとかいう感情はないのだろうか。まあ、おしとやかなのはこいつには似合わないしな。
そのエルシャはというと、ビキニを着用していた。白い布地に健康的な肌は自然と男の視線を集め、モデルのようなボディラインを際立たせていた。
布地が少ない気がする。マイクロビキニってやつか?
「どう? 言葉も出ないくらい見惚れてるとか?」
うん、確かに魅力的だ。だが残念なことに、いつも部屋でバスタオル姿とかあられもないというかだらしない姿を見ているせいで、耐性ができてしまったのだろうか。
見惚れてはしまうが、思ったほど慌ててない。
それに、こいつが平然としているのに俺だけが慌てているのも何だか癪だし。
「あー、うん……いいんじゃないか?」
なので、極めて冷静に対応。その返答に、エルシャはというと……
「む……その反応は、何かむかつくわね」
頬を膨らませていた。その反応は新鮮であるが、仕方ないだろ、お前が悪い。
「まあいいわ。なら、こっちはどうかしら?」
気を取り直して、と手を叩いたエルシャは自分の後ろから何かを……いや、誰かを引っ張り出す。さっきからエルシャの背中から赤毛がチラチラしていたので、もしやと思っていたが。
「ちょ、ちょっと……」
それはやはり、アカリのものだったようだ。今までエルシャの後ろに隠れていた様子からわかるように、自分の水着姿を見せるのが恥ずかしいのだろうか。
そして、ようやく姿を現したアカリの姿を見て俺は言葉を失ってしまった。
着ているのは赤色のビキニだった。赤毛で活発なアカリによく似合うが、少し派手にも感じる。その中に白い水玉がちりばめられている。
それと……下に、スカートみたいなのを履いていた。これはパレオという、巻いているスカートを意味するものが由来になっているものだ、確か。
恥じらいながらもちらちらこちらの様子を伺う姿は、控えめに言って可愛い。
「ど、どう……かな」
「あ、あぁ……似合ってるよ、うん……」
何故だ、格好はエルシャと変わらないどころか露出度はあちらの方が高いというのに、うまく目を合わせられない。顔が熱い。
「……けっ。はいはいリア充リア充。ヒロト君、私とずいぶん反応が違うんじゃない?」
俺とアカリの間に入り、詰め寄ってくる。ちょ、近い近い!ってかアカリを引っ張り出したのお前だろうが!
「そ、それは……お前はいつも、おれの前でどんな格好してるか思い出してみろ!」
「う、それは……けど、反応されないのはそれはそれでむかつくのよ!」
とりあえずむかつくのだと、叫ぶ。何だそりゃ、理不尽だぞ。
「ま、アカリちゃんの水着は私が選んだんだし、素材もいいからあなたより魅力的なのは確かね」
そこへ、相変わらずエルシャにはきつい刺々しい言葉が聞こえる。誰かと考えるまでもなく、その人物はリーシャであった。
「何たって一時間選び抜いた結果ですから!」
えっへんと胸を張るリーシャ。張る胸がない……とは言えない。
そんな彼女の水着はというと、タンクトップとビキニを組み合わせたものだった。後から聞くと、略してタンキニと言うんだとか。
こちらは全体的に水色の中に、白くハートが描かれている。エルシャやアカリを見ているからか、おとなしい印象を受ける。ま、リーシャらしいといえばらしい。
「やっぱり、この中ならアカリちゃんが一番でしょ!」
「けど、リーシャも似合ってると思うぞ?」
「なっ……」
自信満々なリーシャはアカリをリスペクトしている。だが、その彼女もよく似合っていると思うのだ。
素直にそう告げたのだが、リーシャハトが豆鉄砲喰らったような顔になり、みるみる赤くなっていく。
「え、どうし……いってえ!」
突如、パシンといういい音と共に背中に強烈な痛みが走る。振り向くとそこにはアカリが。どうやら背中を思い切り叩かれたらしい。
「何すんだ!」
たまらず抗議。するとアカリは、ぷくっと頬を膨らせていき……
「う~……」
と唸っていた。何それ可愛い。
端ではエルシャとリーシャが、やれやれといった感じで首を振っていた。な、何なんだもう……
「き、キルデ! その……ど、どでしょか!?」
背中を擦っていると、向こうでは残る一人……オルテリアがキルデに水着を披露しているようだった。あまりの緊張からか、言葉が変になってたけど。
その水着は大胆にも黒色のビキニで、しかも前の部分を紐で結んでいるのみらしかった。ホント何て大胆なんでしょ。それに何より……おっきいです。
その黒色に白い肌は映え、何と言うか……えっちだった。しかももじもじしている仕草が、男心をくすぐる。正直目の前であんなのいたら、男は悩殺されてしまうんじゃなかろうか。
「えぇ、とても似合ってますよ。可愛いです」
「かわっ……!」
そう思っていたのだが、キルデは爽やかな笑顔で返していた。よくあんなのを間近にして、冷静さを保てるな……感心するわ。
ただでさえ恥ずかしい水着、キルデに褒められたことがオルテリアのキャパを超えたのか、「うわぁあああああ!」と声を上げながら海へと走っていった。
その際、走る度にバインバインと果実が揺れていたのを、俺は見逃さなかった。うん、海って素晴らしいね!
「ど、こ、見てんのよー」
「いててて! 耳は! 耳はやめて!」
しかし見ていたのがバレてしまったのか、アカリに耳を引っ張られてしまう。痛いが、こればかりは仕方ないじゃないかと思いたい!
「あ、ずるーい! 一番は私なんだからあ!」
隣では、何に対抗心を燃やしたのかエルシャが走っていく。どうやら、オルテリアを追いかけていったらしい。 初めての海に、テンションマックスだ。
続いて、アカリとリーシャも海へと駆けていく。
「きゃー、つめたーい!」
一足先に海に入ったエルシャは、その冷たさに見た目相応にはしゃいでいた。キャッキャしながら笑い合っているその姿は、ただの女の子のようだ。
神様とかいうけど、結局は女の子なんだ。初めての海に変なテンションになってしまうくらいに。
「いやぁ、これは悪くない光景……ぶっ」
はしゃぎまわる女の子たちを見て、目の保養。ホント、来てよかったなとしみじみ思っていたところへ、思い切り水が掛けられる。顔面に。
「ほらヒロト! そんなとこいないでこっち来なさいって!」
犯人は、アカリのようだ。眩しい笑顔を浮かべたまま、水をすくっていた。どうやらまた掛けようとしているらしい。
「ほぅ、やったな。ならこっちも遠慮しないぞ!」
せっかく来たんだ、こうなったらとことん楽しんでやるよ!今日は思い切り、パーっとはしゃいでやろう!
「ほら、キルデも!」
「は、はい……」
それからしばらくの間、俺達は海の中で楽しんでいた。こうしてはしゃぐのも、いつぶりだろうな……そう考えると、またズキッと頭痛がしたため、深く考えるのはやめることにした。




