悪意の波
……
「……う……ん……」
目を開けると、目に入ったのは白い天井だった。うんと……ここは、どこだろう……?
「あ、リーシャ!」
ふと横から、声が聞こえる。この声は……あぁ、間違うはずもない。
「アカリ、ちゃん……」
横を向くと、そこには思った通りの人物が。アカリちゃんが心配そうにこちらを見ていた。
その後ろには、ヒロトさんとオルテリアさん。その後ろに……あの女もいた。
「ここ、は……」
「保健室だよ。試合が終わった後、生徒会長さんが運んでくれたんだよ!」
なるほど、それで……か、あまり来たことのない場所だったかどこかわからなかった。少しずつ、試合の記憶がよみがえってきた。
結局、勝負にすらならなかったなぁ。
「ごめんアカリちゃん……負けちゃったよ」
せっかく応援してくれたのに負けてしまった。けど謝る私の手を、アカリちゃんは優しく握ってくれて。
「ううん。リーシャ頑張ったよ。私感動しちゃった」
そう告げてくれるアカリちゃんの笑顔は、天使の血が流れてる私でも天使だと思えるほどだった。
「あぁ、健闘してたと思うぞ!」
「あの粘りは、賞賛に値しますわね」
一方的だった気もするけど……そう言ってくれると、気が楽になる。
あぁでも……やっぱり、悔しいなあ。勝ち残って、みんなと戦いたかったな。
やっぱり、生徒会長は強かったよ。
……そういえば、最後何かを言っていた気がする。一体何を言ってたんだろう?
―
誰もいない暗い道。地下へと続く道に、コツコツと靴音が響く。
階段を降りた人物は、しばらく歩き……とある扉の前で、足を止める。
「失礼します」
ノックをしてから、中に入る。そこには……
「お待たせしました、皆さん」
「いやに遅かったじゃないか、生徒会長さん?」
「すみませんねえ、ついつい遊び心が出てしまいまして。何せ天使の血族と相まみえる機会なんてめったにないですからね、残念ながら力は見せてくれませんでしたが」
足を踏み入れた人物は、生徒会長アラタ・ナルジヤ。部屋の中に居たのは、三つの影。薄暗い部屋を照らすライトにより明るみに映るのは、人間には生えていない黒い翼。
それは、彼らが人間でないことを示していた。
「わざわざ呼びつけといて遅れるとは、随分なご身分じゃない」
「あはは、返す言葉もない」
暗い室内で漂う重々しい空気。しかし言葉とは裏腹にぴりついている風ではなく、お互いの関係が悪いものではないことは明らかだ。
「私としては、こうしてじっとしているよりも、この左腕の借りを返しに行きたいのですがねえ」
なくなった……いや消し飛ばされた左腕があった場所を撫でるようにして話すのは、以前ヒロト達を襲った悪魔である、悪魔四神の一角、メルガディスであった。
口調こそ冷静であったが、その瞳には確かに怒りの炎を燃やしていた。
アカリを後一歩まで追い詰めた彼は、途中乱入してきたティファルダに左腕を消し飛ばされたのだ。
彼の、万物を創造する能力で左腕の代用を創り出すことはできるが、やはりそれで怒りが抑えられるはずもない。
「あぁ、かわいそうにねえ。その女にはぜひ私から一言言っておかないとねえ」
メルガディスの隣に座る女性が、彼の左腕部分を愛し気に撫でる。彼女も同じく、怒りの瞳を浮かべて。
各々の思いを胸に……面々を見回し、アラタ・ナルジヤはかけていた眼鏡を外す。
「待ってください……この地を堕とす準備が整うまで」
黒かった瞳は……赤く輝いていた。




