狙われる者
「だ、誰か来た?」
誰かが近づいてきたのか、近くの草がガサガサと音を立てている。まずいますい。こんな状況見られたら間違いなく通報ものだ。
パン一でほぼ全裸の男と、血に濡れた服を着ている女の子。俺でも通報する。
「お、おい、どうす……む!?」
こんな状況を見られるわけにはいかない。状況打開を一緒に考えようとするが、それよりも先に近くの茂みに引っ張られてしまう。
引っ張られた俺は、そのまま目の前の女の子……エルシャに押し倒された状態になる。
美少女に押し倒される状況に思わず息が詰まるが、その思いも一瞬だ。その直後だ、隠れる直前のその場所に見知らぬ男達が現れたのは。手には拳銃を持って。
「け、けん……まさかあいつらがむぐ!」
こんな山奥に、拳銃を持っているなんて、もしやあいつらがエルシャを撃った犯人なのでは?
仮に狩りに来たんだとして、あの得物はありえない。その質問は口を押さえられたことにより中断させられたが、彼女が静かに頷くのを見て確信する。
このままどこかに行ってくれないかと思っていたが……やべ、そういや地面に付いた血はそのままだったっけ……
「おい、この血……」
「あぁ、この血の量じゃそう遠くには行ってないだろ! 探せ!」
予想通り血に気付かれてしまい、捜索を開始する男達。まずいな、このままじゃここもいずれ見つかって……
「……ここまでかな」
いつ見つかってしまうかひやひやしている中で突然、そう言うと彼女は、俺の上から離れていく。
「お、おい?」
「これ以上キミを巻き込むわけにはいかないよ。キミはただ、ここにキノコ狩りに来ただけだもんね。だからキミは逃げて」
「何言って……」
しかし俺の制止も聞かずに、彼女は飛び出していく。それに伴いガサッという音が辺りに響き渡る。それにより、彼女の存在が男達にばれて……
「いたぞ!」
「撃て!殺せ!」
次いで響き渡る銃声。やっぱりあいつらが彼女をあんな目に合わせたってのは疑いのない事実のようだな。俺の存在を気付かせないためか、彼女はここから離れようと走っていく。
このまま隠れてりゃ俺は助かるだろう。……けど、目の前で襲われてる女の子がいたら……最後にあんな寂しそうな顔を見せられたら、じっとしていられねえよ!
「いて!」
気付くと俺は、石を投げていた。そこら辺に落ちてる変鉄もない石だ。それは狙い通り、男の頭に命中したようだ。あぁ、やっちまった。
「誰だてめえ!」
やっぱ見つかっちまったか。とにかく留まり続けるわけにはいかず、俺はその場から駆け出す。突っ立ったまま蜂の巣にされるのはごめんだ!
よく見ると向こうは、大人の男二人……そして二人共拳銃を持っている。大人ならほとんど神力は使えないから、拳銃を使っているんだろうか。
「あいつも仲間か! 見られたからにゃ殺せ!」
男の一人が、俺に標的を変更する。よし、数が分散された。これなら俺も彼女も何とか逃げきれるはず……
「いっ!?」
だがその時突然、体が動かなくなる。これは……金縛りか!?
「はっは、俺は神力を使えるんだよ! 残念だったな!」
くそ、失敗した! ってか、神力使えるくせに拳銃まで持ってるとかきたねえ! 俺も神力を使えれば何とかなったかもしれないが……動けない!
「焼き死ね!ははぁ!」
男は手に火の玉を作り出し、俺へと放つ。動けず神力も使えない俺は抵抗も出来ず焼きダルマになる覚悟を決め目を閉じた。
「っ……」
……しかし、いつまで経っても衝撃が襲ってこない。まさか外れたのか……? あの距離で考えにくいが、もしかしたら。恐る恐る目を開けると、そこには……
「お、まえ……」
目の前に、両腕を広げ、俺を庇うように自称神様が背を向け立っていた。それは当然、俺を襲った火の玉をその身に受けたというのとである。何で……
「何やってんだよ!何で俺を…」
「だーいじょうぶ。問題なし」
あれをまともに受けて、無事なはずがない。焦る俺に、しかし返ってきたのは、さっきまで話していた気の抜けた声だった。振り向く彼女は、笑顔を浮かべていて……
「言ったでしょ? 私は神様だって……」
振り向いた彼女は心配ないとばかりに笑顔を浮かべている。そこには強がりとかじゃない、純粋な笑顔があった。もしや強力な神力で防壁を張ったのか?
「くそ、めんどくせえ!」
攻撃を防がれた男は、次いで銃弾を放つ。それも受け止めるのか……と思いきや、そんなことはなくエルシャは俺の手を引いて逃げ出す。男にかけられていた金縛りは、解けていた。
「ど、どうしたんだよ!」
「私、神様だから“聖なる力”は効かないけど、ああいう武器類は普通に効いちゃうんだよね!」
「え、何!?」
「だーかーら!せいな……ああ、あんた達の言い方で神力だっけ!? 私は神様だからそれは私には通用しないけど、その力が作用してないあの銃とかなんとかは普通に怪我しちゃうの!」
神様だから、と強調する彼女だが、もはや俺にはどうでもよかった。目の前で行われていることについていくのが精一杯だったから。だがその言葉が本当だとすれば……
だが問題は、今この状況をどうにかすることだ! しかし目の前にもう一人の男が現れ、行く手を阻まれる。万事休すか!
「もう逃げらんねえぜ?」
余裕そうな笑みを浮かべながら、俺達を挟むように男達が近づいてくる。くそ、こんな訳わかんねえことに巻き込まれて死んじまうのかよ。
「……こうなったら仕方ない、か」
何か手立てはないかと辺りを見回すが、何もない。何か、何か何か……? するといきなり、自称神様はこちらを振り向く。どうしたんだ一体?
そこで、驚くべきことが起こった。気付いたときには、彼女の顔が目の前にあって、唇には柔らかい感覚があって……って、これはまさか……?
「んん!?」
「おいおい、死ぬ前に別れのキッスか!?」
男の言うように、どうやら俺はキスを……されてるらしい。いきなりのことに、こんな状況でも何より初めてのことに思考が停止してしまう。
「二人仲良く死にな!」
パンッ、パンッ!
その状況下でも、遠慮なしに銃弾が放たれる。口が離れ頭がうまく回らない俺に構わず、まっすぐな瞳で彼女は言った。
「死にたくないならそう強く想って! 早く!」
何を言っているのか、よく理解できない。だがこのままではおれ達は死ぬ…それは強く理解できた。なので彼女の言うよう、想う。死にたくないと。
その瞬間、まるで時間がゆっくりになったかのように感じた。飛んでくる銃弾が、吹かれる草木が、空気が、呼吸が。そして……
「くっ……あぁあああ!!」
こんなとこで死にたくはない…そう強く願った瞬間、突風が吹き荒れる。いきなり突風が……俺を中心に吹き荒れている。まるで、竜巻だ。
そしていやに視界がはっきりと、景色がスローモーションに見えた。感じたのではなく、見えたのだ。吹き荒れる突風は徐々に広がっていき、銃弾を消し飛ばした。
そのまま突風は俺を中心に広がり、男達を巻き込み……それを最後に、視界が眩しく光った。




