落第生の信念
『さあ! いよいよやって参りました、神力学園最大のイベント神技冠祭! D会場実況はこの私、エアスラ・ポアラが実況致します!』
ワァーッ……!
控え室にいても、司会の声や歓声が聞こえてくる。学園行事とはいえ、やはりお祭り感覚ってわけなんだろうな、とても盛り上がっている。
司会者はともかくこんな控え室まであるなんて……さすがに本格的だなこれは。
「ふぅー……」
緊張は不思議とない。さっきのアカリの言葉のおかげだろうか……思いの外気分が楽だ。
不思議と落ち着いていて……やけに心臓の音が大きく聞こえる。自分に集中している……ということだろうか。けど、落ち着いてるかといってそれが勝利に繋がるかはわからない。
『血気盛んな若者が、お互いの神力をぶつけ合う! さあ早速出てきてもらいましょう!
まずは、Cランクにしてその実力はBランクに近いと言われている実力者! 一年ナタ・サルテマ選手ー!!』
対戦相手の名前が高らかに宣言され、同時に歓声が沸き起こる。
Cランク……それだけでも自分よりも上なのに、実力はBランクにも近しい、か。確実に格上の相手、ナタ・サルテマ。
『続いては、学園唯一のEランク! 落第生のレッテルを捺された“落第の弾丸”こと一年ヒロト・カルバジナ選手ー!!』
続いて、俺の紹介がされる。ついに、来た。俺の番だ。
ゆっくりと立ち上がり、扉へ手を掛ける。そしてその先……暗い廊下を渡り、光が差し込むその先に出ると……
「……これが……」
会場に足を踏み入れ、思わず呟く。思いの外ずっと広く……ずっと多くの観客がいた。いや、周りに圧巻されてそう見えるだけかもしれないが。
ただそこに、さっきのナタ・サルテマのときのような歓声はなく……辺りは静寂に包まれていた。
う……予想はしてたけど、差がありすぎだろ……
『両者入場! 一体どのようなバトルを繰り広げてくれるのか!いざ試合開始!』
やたらとテンションの高い司会の宣言により、試合が開始される。とはいえ、むやみに突っ込んでも勝機はないし、ここは慎重にいかないと……
「ひひ……あんたが噂の落第生か」
試合が始まるや、対峙するナタ・サルテマは笑みを浮かべる。ただそれは、目の前にいるやつ……つまり俺を、バカにしたような笑みで。
「……そうだけど」
「いやあ、ラッキーだわ。こりゃ一回戦いただき」
額に手を当て笑っているその様子からは、台詞と同様余裕が見える。そりゃ、こんな落第生が相手ならそう思うのも無理ないかもしれないが……
「もう勝ったつもりかよ」
「……はあ?」
さすがにこうもバカにされて、黙ってはいられない。異議を唱えるつもりで、言い返す。
するとナタ・サルテマは、呆気に取られた表情を俺に向けて……
「勝ったも何も……なに、お前、俺と戦える気でいたの? あっはは、傑作だわ! こんなもん、俺にとってはただの消化試合だっつうの」
ひゃははは、と笑うナタ・サルテマは俺のことなど全く眼中にないといった具合だ。勝てる、どころか戦えるとさえ思われていない。
本人の言う通り、これはただの消化試合としか思ってないのだろう。それなら、それでいい。
ならば、今のうちにその慢心に付け入らせてもらう……!
「先手必勝!」
その間抜けな面に、思い切り叩き込んでやる! 俺は、手をかざしその先から炎をナタ・サルテマへと放つ。
「はは……はぁ? 何だこりゃ。こんなん避けるまでもねえよ」
しかし俺が放った炎は、とても小さく……いつかの先生が言った通り、文字通りろうそくの火というやつだった。
そしてそれは、手で払うだけで消えてしまう脆いもので……ナタ・サルテマにあっさりと払われてしまった。
「そ、そんな……」
その光景に、唖然としてしまう。わかってはいたんだ、自分の力不足くらい……けど、避けることすらされずに手で払われただけで消されてしまうなんて。
「何だもう終わりか? なら今度は……」
笑みを浮かべるナタ・サルテマは、自身の周りの地面から植物を……太い蔓のようなものを生やしていく。
「こ、これは……?」
何じゃこりゃ……確かに神力って何でもありだけど、ホントに何でもありだな!? 炎を扱うのを得意とするアカリとも、水を扱うのを得意とするオルテリアとも違う戦法。
戸惑う俺を他所に、次々襲い掛かってくる五本の蔓。応戦しようと構えるが、思いの外スピードのあるそれに弾き飛ばされそうになる。
「うわっ!」
それを何とか回避し、続けて避ける。当たりはしないが後退するしかないため、防戦一方になってしまう。
「ちっ、ちょこまかと……」
ナタ・サルテマは、当たらないことにイライラしているのか表情が険しくなっている。雑魚扱いの俺を一瞬で片付けられないのが、よほどムカつくのだろうか。
俺だって、簡単にやられてやるわけには……!
「これでも、目には自信があるんだ……よ!」
だが回避してばかりでも意味がない。蔓を消せないかと炎を放つが、今度は火すら出てくれない。
草類には火かと思ったが、それ以前の問題だった。
「くっそ……! ぐはっ!」
目が回らなかった、背後から蔓に打ち付けられ弾き飛ばされる。見えなきゃ動きは捉えられないし、攻撃を避けることもできない。
「いっ、てて……」
その隙を逃さないように、蔓の殴打が襲ってくる。
「ほらほらどうした! そのまますり潰しちまうぜ!?」
浴びせられる殴打の雨。一瞬の隙をついて抜け出すが、すでに体には殴打の痕が無数にあった。いってぇ……
「はぁ、はぁ……」
体感ではすでに数十分、しかし実際にはまだ始まって数分と経ってない。それなのに、俺とナタ・サルテマの間にかなりの戦力差があるのは、誰の目にも明白だった。
「避けるしか能がねえのか、だらしねえ奴だな」
その余裕の表情に、悔しさが溢れる。神力はまるで歯が立たないか出てもくれないし、あの蔓のせいで近づくこともできない。
蔓がまるで威嚇するように動く度、俺は下がるしかない。
近づくことができないんじゃ、どうしようもない。このままなぶられて終わってしまうのか……
「ヒロトーー!!」
俺の中の熱が冷めかけていたその時……会場から、俺を罵る声や笑い声が聞こえてきていたその場から、一つの声が轟いた。
それは、会場の雑音などかき消すほどのものだ。そしてその声の主を、俺は一人しか知らない。
「あんた、まさかもう諦めてないでしょうね!?今日のために努力してきたんじゃない! それをそんな、陰険ナルシ男にやすやす負けていいの!?」
「アカリ……」
「陰険……ナルシ男?」
「逃げ回るだけじゃなくて、ちゃんと勝ちに行きなさいよ! 勝って……優勝するんでしょ!? ならこんなとこで立ち止まるなバカァ!!」
……静まる会場。俺もナタ・サルテマも、司会者も観客も立ち上がっているアカリを見ていた。
「……ふぅ」
そうだな、アカリの言う通りだ。逃げ回ったってどうしようもないなら、素直に飛び込め。逃げるんじゃなくて、勝ちに行け!
頭の中が、落ち着いていく。冷めかけていた熱が、再び熱くなっていく。
「ぷっ……おいおい、何かと思えば……優勝!? お前優勝する気なのかよ!?」
アカリの言葉を聞いて、俺の目の前のこの男は、何かおかしなことを聞いたとでもいうように吹き出していた。
「そうだけど?」
「くっははは! こいつぁ傑作だ! 優勝どころかここでお前が勝てるわけないだろ!
お前も、それにAランクだからってちやほやされてる“閃光の輝き”も! 俺がこの手でぶちのめしてやる!」
先ほどまで言葉の一つ一つに翻弄されていたが……ナタ・サルテマの言葉も、今は冷静に聞ける。
勝つために……そのためには、何だって使う。使えるものは、何でも……
「……あ? 何だそりゃ」
「見ての通り、ただの拳銃だよ」
俺が取り出したのは、以前先生から貰った銃。真っ白なそれを手に構え、銃口を向ける。
「…おい、おいおいおい! そんな市販品の銃なんかで、対抗しようっての? 冗談だろ!」
そう、これはどこにでも売ってる何の変鉄もない拳銃。けど、少しでも抗う武器があるのなら、俺はそれにすがる!
「……そうかい。あんまなめてんじゃねえぞ、そのまますり潰してやるよ!」
蔦の一本が、俺を潰すために向かってくる。
これは……賭けだ! 俺は俺の力を信じて、俺の全力の神力を込めて、銃弾を撃つ!
パンッ……!




