変わりゆく日常
エルシャの力が戻り、元のものに比べれば僅かながらしかないものだが、それでも本人は満足げにしている。
その嬉しそうな姿は、この数日の中で初めて見た。それほどまでに、本人にとっては重要なものだったんだろう。無くなったと思ってた力が戻ってきたんだから、そりゃそうか。
「コホン。では本題に移ろうか。……エルシャ、キミの扱いについてだ」
そんな感傷に浸る空気もそこそこに、先生が告げる。今までのことも充分重要な話だったと思うが、本題はここからなのか。
その言葉に、案の定エルシャは眉を寄せる。
「扱い……?」
「キミをこの学園に置いておくかどうか、だ」
扱い……それは、彼女をこのままここに置いておくかどうかというもの。その言葉に、しん……と場が静まり返る。その言葉の意図することが何かは、考えるまでもない。
今回の事件の発端は、言ってしまえばエルシャだ。彼女をこのままここに置いておけば、また同じことが起きかねない。
そんな思いを各々が巡らせる中、最初に静寂を破ったのは……
「出ていってもらうべきだと思います」
リーシャだった。視線が彼女に集まる。いつもの彼女ならそれだけで怯んでしまいそうだったが、そうはならなかった。構わず続ける。
「彼女が狙われているから……彼女が来たから、私達は危険な目にあったんです。そんな危険な存在を置いてたら、またいつ同じ目にあうかわかりません」
「り、リーシャ」
それは、今俺が考えていた通りのもの。リーシャはエルシャに、恨みの感情を抱いているが……その言葉は、恨み云々を抜きにしても確かな正論だった。
続けて……
「それに……彼女が力を失ったというから学園に置いていたはずです。力が戻ったなら、もうその必要はありませんよね」
まさも正論を紡ぐ。エルシャを学園に置いていたのは力を失った彼女を保護するためで、確かに力が戻った今、彼女を置いておく理由はない。
誰も何も言えない……そんな空気の中、口を開いたのは先生だった。
「ふむ、テルマニンの言うことは最もだ。だが奴等のことだ。きっと次は、エルシャが居ようと居まいと、お前達のことを“邪魔した者”として襲ってくるぞ?
無関係であろうと、関わりを持てば殺す……それが奴らだ」
それも、言われてみればそうかもしれない。結果がどうあれ、俺達は悪魔の邪魔をした存在として認識されてしまった可能性は高い。
それを受け、リーシャからさっきまでの勢いは消える。まるで、何か心当たりでもあるかのように。
「っ……それは……」
正論に正論で返され、返す言葉がないようだ。もし先生の言う通りなら、エルシャがいるから狙われるからエルシャを放り出す……という意見は通じないわけだ。
「だから私は、引き続き彼女をここに置いておくことを提案するが……」
「!けど……!」
エルシャの扱いについて、話題に挙げた先生はこのまま彼女を置いておく意見らしい。
それでも、尚も食い下がろうとするリーシャ。だがそんな彼女を、遮る言葉があった。
「私は……それがいいです」
「アカリちゃん!?」
エルシャが学園に留まってほしい…それに最初に賛成したのは、アカリだった。
予想外だったのだろう。天使や悪魔なんかと何の関係もないアカリがそう言うことに。目を丸くして、アカリを見つめている。
「アカリちゃん、何を……? あいつが来たから、私達はあんな目に……」
「そう、かもしれない。だけど……またあいつらが来たら、今度は負けないように強くなればいいだけだよ。それに……せっかくエルシャと友達になれたのに、離れるなんて寂しいじゃん」
リーシャの方を見て、はっきりと……しかしどこか照れ臭そうに言うアカリに、リーシャや俺、エルシャは何も言うことができなくなっていた。
「あ、アカリちゃん……」
友達だから……その言葉は、それぞれの胸に突き刺さったようだった。
その言葉に一番驚いたのか、エルシャが呟く。いつもからかっているアカリの予想外の言葉に今何を思っているのか、声が震えている。
「俺も、アカリがそれでいいなら……」
「ヒロトさん!」
今回の件、俺は何もできなかった。一番頑張ってくれたアカリが構わないと言うのだから、俺がどうこう言うことはない。
「……キミはどうする? テルマニン」
「……わかりました、私もそれでいいです」
不服そうなリーシャだが、それでも賛成の言葉を告げる。多数決……というわけではないが、アカリが賛成した手前もう断れないと言ったところだろうか。
それを聞いた先生は、満足そうに頷いた。
「決まりだな。……よし、話は一旦終わりだ。それぞれ、体と頭を休めるといいさ」
今日はお開きと、先生が手を叩く。 こうして、エルシャが学園に残ることが決定したのだった。




