戻った力
今後の話は、やはり一番の関係者であるエルシャに聞くのが一番だろう。そうした結論に一旦は落ち着いたわけだ。で、この話は一段落して……
だが、それなのにまだ何かあるのだろうか、先生はエルシャに視線を向けたままだ。
……いや、正確には視線の先には、俺も含まれている。いったいどうしたのか……それを問い掛けるより先に、先生は軽くため息を漏らした。
「しかし……女に守られる無能男と、力を失った無能神様か。いやはや珍妙な組み合わせだな?」
「「うっ……」」
唐突に、そしてエルシャ共々ばっさり切り捨てられてしまった。何の前触れもなかったのものだから、心構えも何もなくボディにクリティカルヒットしてしまった。
言葉の暴力だこれ。
高飛車なエルシャも、さすがに言葉を詰まらせていた反論しようにも、悲しいかな事実なせいで何も言い返せないようだ。
だが、言われっぱなしは悔しい。なので、ちょっと反論。
「お、俺は少しは神力使えますし……」
「炎で例えよう。ヴィールズを太陽だとするなら、お前はロウソクの火みたいなもんだろうが。しかも制御も出来ん」
反論、ばっさり切られてしまった。
というか、何て表現をするんだこの人は……実際に否定できないのが、何とも悔しいけど。残念ながら力の差で言えば、俺とアカリにはそれだけのものがある。
「カルバジナ……別に神力に頼らずとも、お前は目がいいんだから、それを武器にすればいいだろう。神力が全てじゃないぞ?」
「神力学園に在籍してるってのにそんなこと言われてもフォローにも何もなりませんよ?」
そんな俺をフォローしてるつもりがあるのかないのか知らないが……前者だとしたらすげーや。全然フォローになってない。
「まあ、神力を伸ばそう伸ばそうと躍起になるより、視点を大きく、物事を広く見れば思わぬところで道が開けるかもしれんということだ」
「……そう、ですね」
やっぱり、何だかんだフォローしてくれている……ということだろうか。何だか、少しだけ救われた気がする。神力の使えないこんな自分に、何も劣等を感じなかった訳じゃない。
次に先生は、エルシャに視線を移す。
「な、何よ」
「……さて、神様。今の貴女は何の力もない正真正銘の無能なわけだが……」
「うぐっ」
この人は容赦を知らないのか。エルシャにも容赦はなく、まるでバカにしたような視線を向けながら、彼女に近づいていく。
近づいてくる先生を、エルシャは悔しげに睨みつけていた。
「わ、私だって神の力さえ戻れば……」
「なら、戻すか?」
「ほぇ?」
悔しそうに歯を食いしばる彼女に、予想だにしていなかった言葉を先生がいいはなった。その言葉の意味がわからなかったのか、エルシャは珍しく間の抜けた表情を浮かべている。
だが先生はエルシャに関わらず、続ける。その際、なぜか俺にも視線を移しながら。
「キミは言ったな。カルバジナに最後の力を渡し、その力は消滅したと」
「え、えぇ。そうだけど……」
先生が確認するのは、エルシャの言葉の内容。エルシャは、残っていた神の力を俺に渡して、その結果残っていた力さえも失ったのだ。
「だが……その力が消滅してなかったとしたら、どうだ?」
「えっ?」
それはエルシャ自身が告げた事実のはず。だが先生は、それを否定するような言葉を続けた。
先程から間の抜けた声ばかり出すエルシャに構わず、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべる先生は……俺の胸元に手を当ててきた。
「……え?」
その行為の意味が、俺にもわからない。これから何が始まるのか……その疑問が出た直後だった。
突然、先生の手が……いや、正確には手を当てている先の俺の胸元が光り始める。何だ何だ?
その光は、あの時のとてつもない力が表れた時の光と同じで……とても温かくもあるものだ。
「これって……?」
「ほいっ、と」
光が収縮し、球上になって先生の手の平に集まる。これが、何なのか……ぼんやりとだが予想はついた。これが、神の力ってやつなのだろうか?
その光を、手の平に浮かせたまま次はエルシャの胸元へと手をかざしていく。その光は、徐々にエルシャの胸元に吸い込まれるように体内に入っていく。
「……まさか、戻った?」
そう呟いたエルシャは、何が何だかわからないといった表情をしていた。自分の手を見つめていて。手を閉じたり開いたりしている。
「何で……どうやって?」
「なぁに、簡単な話だ。失われたと思っていた力はカルバジナの中で生き続けていた……それだけのことだ」
どうやら、あの光が神の力とやらだというのは間違っていなかったらしい。
それにしても、あの力が、俺の中で生き続けけていただって? ……けど、エルシャは……
「そんな……あの力は、確かに消滅したはず。それに、あんな強大な力が人間の体内で生き続けるなんて……ありえない」
そう、エルシャ自身が、俺の中に渡った力は消滅したと言っていたのだ。その矛盾が、彼女の頭を悩ませている。
「だが実際にこうして力は戻ったわけだし……強大な力とはいえ、かなり消耗したものだろう? ならば弱まった力が生き続けていても、別に不思議じゃない」
俺にも当然何が何だかわからないけど……その中でも一つ気になることがあり、手を挙げてみた。
「あの……なら何で俺は、その力を使えなかったんでしょう」
単純は質問。それに対して先生は……
「それはキミが気づいてない上におそらくは使いこなせないからだろう」
またもばっさりだ。とはいえ、それはごもっとも。
「スゴい……ホントに力が戻ってる。これなら私も……」
嬉しそうに、グッと力を込めている。力がそこにあるのを何かを確かめているように、自分の手を見つめている。
「本来の神の力には遠く及ばないだろうが……それでも人間からすれば途方もない力だ。……とはいえその力は他人の体の中に長らくあったものだ、さらに弱くなっているだろう」
本来の力の大部分を失い、残った力も俺の中にあったことで、さらに力が弱まったと、先生は語る。そしえ何かを考えるように、人差し指を顎に当てて……
「本人の体にまた馴染み直す時間もあるだろう。私達基準で言うなら……今のキミの力は、神力学園のランクに例えるとすると、Cランクと言ったところか」
こう、評した。
力が弱まって弱まってそれでも、Cランクあるのかよ。俺からしたら、とんでもないことだよそれは。
この神様の本来の力ってやつは、とんでもないものなんだろうなと、今の俺はただ呆然と考えることしかできなかった。




