それぞれの気持ち
一通り話を終えた先生は、軽くため息を漏らす。先生ととある天使の出会い……天使とのバイブが、先生が諸々の事情に詳しい理由だ。
話を聞き終えた俺達のリアクションは、それぞれ様々だ。エルシャは驚きが大きく、リーシャはショックのようなものを受けているようだ。
俺の予想通り、赤ん坊がリーシャのことだとしたら……いったいどんな気持ちで聞いていたんだろう。
俺は第三者的な立ち位置にいる分、ある程度落ち着いて聞くことができた。……が、俺と同じ立ち位置で聞いていた彼女は……大きく心を乱していた。
「……アカリ、大丈夫か?」
彼女……アカリは、黙って話を聞いていたが、その瞳は少し潤んでいるように見えた。
「あ、うん、大丈夫。……ただ……天使と、ううん、好きな人と一緒になっただけで、殺されたなんて……ひどい」
今の話を聞いて何を感じたのか……それを話すアカリの声は震えていた。アカリにとっては何の縁もゆかりもない相手であるのに、その相手を思って悲しんでいるのだ。
そんなアカリの様子に、小さくではあるが反応した人物がいたのを俺は見逃さなかった。……リーシャだ。アカリの言葉を聞き、肩を震わせて俯いている。
「……っ」
そのリーシャの反応に、俺は確信が持てた。話に出てきた赤ん坊は、リーシャのことに間違いない。
先生の話だと、父親と同様に悪魔の手にかかったらしいが……おそらく何かがあって助かったのだろう。
今の話を悲しむアカリを見て、リーシャが何を感じているのかわからない。アカリにとっては、赤ん坊とリーシャが結び付くはずもない。まったく知らない相手だ。
ただ、その赤ん坊は実はリーシャのことなのだ。リーシャにとっては、知らずとはいえ自分のことを想って悲しんでくれているということにもなる。
その事実が、彼女に複雑な気持ちを抱かせているのかもしれない。
「……これが、私とクラディスの出会い……というより、私が色々と知っている理由だ」
静まり返ってしまった空間に、先生の声が響く。それぞれの表情を見回しながらも、誰に声をかけるでもなく口を開く。
天使である女性と出会ったことが、先生にとって良かったのか悪かったのか……表情を見ると、前者なんだろうなと思う。
何はともあれ、天使と関わり合いのあった先生がこうしてこの場にいてくれたのは、何とも心強いものだった。単なる偶然にしては、出来過ぎているくらいにありがたい。
「他にも聞きたいことはあるかもしれんが……いきなりの話に、頭がごちゃごちゃといった具合だろう」
今聞いた話がまだ整理できていないのは確かだ。他にも話したいことがあるが、今のままでは余計にこんがらがるだけだ。少し整理する時間が必要だな。
「そ、そうですね。ちょっと整理しないと」
「話ならいつでも聞きに来るといい。とはいえ、向こうの話に関してはそこの神様がよく知っているだろうが……」
いつでも話を聞きに来ていいと許可をくれたその口で示すのは、エルシャのことだ。
今回先生に話を聞きに来たのは、先生が事情を知っている理由の解明だし……もっと深いところ、根幹の部分は彼女の方が当然詳しいだろう。




