天使と人間のハーフの赤ん坊
諸々の事情を知っているらしい先生。その理由は、先生がとある天使と親しい関係にあったからだ。そしてその親しい天使は、赤ん坊を……
それも、人間と天使のハーフを出産したらしい。
人間と天使のハーフという単語に敏感に反応するエルシャ。正直俺にはピンとこないが、神様である彼女の反応から察するにおそらくとんでもないことなんだろう。
……そして、そんな彼女よりも過敏な反応を見せるのが一人。
「はっ……」
短く驚いたような声が、部屋に響き渡る。その音の出所を探ると、リーシャがソファーから立ち上がっていた。思わず上げそうになった声を、必死に押し殺したような声だった。
「り、リーシャ?」
どうしたんだ? そんな……今にも、倒れてしまいそうな顔をして。さっきから、様子が変だ。
「おい、エルシャ……」
もしかしたら何か知っているかもしれない。そう思ってエルシャを見る。
するとエルシャは、顔を青ざめさせていて……まるで、リーシャから正体を打ち明けられた時みたいになっていたのだ。二人して、どうしたんというんだ?
…………待てよ?
今先生は、人間と天使のハーフの赤ん坊、って言ったんだよな。……確かリーシャも人間と天使のハーフだ。これだけでも偶然と片付けるにはあまりに難しい。
加えて、この二人の反応だ。まさか、その赤ん坊というのは……?
もしそうなら、さっきのクラディスって名前にリーシャが反応していたのも頷ける。
もしその赤ん坊がリーシャで、赤ん坊の母親がクラディスって天使だというなら、この二人の関係は……
「……まあ座りたまえよ、テルマニン」
何を思っているのか……どこまで知っているのか。リーシャに座るよう促した先生は、静かにリーシャを見ている。
リーシャも、これ以上アカリに不審がられないためか、おとなしく座る。
「話を続けるぞ。消耗していたのは彼女だけではなかった。赤ん坊もだ。私は、彼女の手助けをした。
そこで彼女は自身の正体、人間の男性との間に産まれた子供を人間として育てるために人間界に降りてきたこと……それらを話してくれていた」
懐かしんでいるのか、遠い目をして語る先生。エルシャもリーシャも、ただ黙って話を聞いていた。
「無論すぐに信じたわけではないが……天使の翼とか、そんな非現実的なものを見せられてはな。それに……彼女の目は、嘘をついているものではなかった」
どうやら先生も、すぐに信じたわけではないらしい。だが、神力があるこの世界で非現実的とか言われても、全然説得力がない……とは思ったが、口には出さないでおいた。
「赤ん坊の父親へと赤ん坊を預け、彼女は天界へ帰っていった。それから私はちょくちょく赤ん坊の下へ通うようになった。
彼女から頼まれたのもあってな……彼女とは一度きりしか直接会ってはいないが、天界からの通信、とやらで連絡は取り合っていた。
彼女は、私を人間界でできた初めての友人だ、なんて言ってくれてな」
過去を思い出し、表情柔らかに話している。こんな表情は見たことがなかったが、次第にその表情は曇っていく。
「徐々に私は、研究が忙しくなり通う頻度が減り……いつしか行くことはなくなっていた。そして、悲劇は起きた」
悲劇、という言葉に一瞬、先生がリーシャへ目を向けたような気がした。が、それも一瞬。再度口を開く。
「奴らが、天界を攻め落とし……天使と繋がりのある人間をも手にかけた。その中には当然、彼女と関係を持った人間の男性もいた。
私との関係は割れてなかったようだが……私が全てを知った時には、全ては終わっていた」
エルシャから聞いたのと、類似した内容。その内容は、いざという時にクラディスから貰っていた通信機越しに、生き残った天使に聞いたのだとか。
「クラディスは行方不明。父親は残念ながら。……その赤ん坊も、父親同様悪魔の手にかかったと聞いた」
行方不明とはいっても、誰も何の足取りも掴めていないし、最後に見たという者の話だとかなりの重症……瀕死の状態だったらしい。
おそらく彼女はもう……と言葉を濁す先生は、辛そうに目を閉じた。




