半天使の苦悩
「ふぁー……」
オルテリア達が死闘を繰り広げていた、それと時を同じくして……別の道を行き旅を続けているリーシャ達。その足取りは、いいとは言えない。
いつも一緒だったオルテリアの離別、そしてそれに着いていったユメ。彼女らが抜けた穴は大きかった……戦力的な意味でも、精神的な意味でも。
オルテリアの、奪われた記憶を戻すための旅……それを目的としているのだが、同時にオルテリアのいない旅路というのはリーシャにとってはキツいものであった。
ずっと一緒にいたパートナーが、いつも当然のように隣にいた存在が、いなくなったのだから。彼女に依存していた部分はあるのかもしれないが、それにしてもリーシャの心に空いた穴は大きかった。
忘れられ、拒絶され、別れ……アカリを失ったときと同様に、精神的なダメージが大きかった。
「まあまあリー姉、元気だして?」
落ち込むリーシャを慰めるのは子供であるスカイ。本来一番幼い彼を守る立場にある自分が慰められるとは、何とも情けない。
なので、彼の頭をポンポン叩いてやり……
「うん、ごめんね。私は大丈夫だから」
そう、強がることしかできなかった。
そして、リーシャは思う……いつまでもこうしていても仕方ないことは、わかっているんだけどなあ。と。
「彼女達はを信じよう。ユメちゃんだってしっかりしてたし、心配いらないさ」
「そう、ですよね」
ユメちゃんがついてるし、レイだって。精霊であるレイならば、二人が危ない目にあわないようにきちんと導いてくれる……はずだし。
それに、私達だってオルちゃんの記憶を取り戻すための、手掛かりを見つけなきゃいけないんだ。いつまでもうじうじしてられないよね!
「よし、大丈夫! 行こう!」
自分の頬を叩いて、気合注入。こんな顔してたら、いざオルちゃんが記憶を取り戻した時、見せられないもんね。
そうやって、自分を叱咤する。もう、落ち込むのはやめだ! 一刻も早く記憶を取り戻す手がかりを見つけないと!
「なんだ、ようやく元に戻ったのかよ?」
「うん。ごめんね心配かけ……て」
返事をする際に、違和感。あれ、この声……エドさんやスカイくんのものじゃない? 当たり前のように返事してたけど、誰の声だこれ……
「なっ……ば、バランダ!?」
視線を向けた先にいたのは、ここにいるはずのない存在だった。そいつは、何が面白いのかにっこりと笑って、手まで振っている。
悪魔……いや、正確には半悪魔である、バランダ。私と同じく人間の血が入った、私とは真逆の存在。
ユメちゃんと出会ったあの場所で、以前死闘を繰り広げた相手だ。あれ以来、姿を見ていなかったのに、どうしていきなり……
「お前っ……いつの間に!」
「おっとっと、まあまあそんな殺気を向けんなっての剣のにーちゃん」
現れた敵の存在に、エドさんは咄嗟に構える。しかしバランダは、それに対して敵意を返してくるでもいきなり攻撃してくるでもなく、「落ち着けよ」と話す。
「別に戦いに来たんじゃねえよ。話がしたいだけだよ」
「話……?」
確かに、本人の言うように敵意は感じられない。けれど、それが警戒を解く理由にはならないわけで。
バランダは、強力な力を持った半悪魔。立場こそ違わなければ、私とは似たような境遇にある。半天使に半悪魔なんて、誰に話しても本当に分かり合えるとも限らない。
バランダは強い。また戦っても、勝てるかはわからない。そもそも、前回だって私は殺されかけた……その最中に記憶が途切れ、気づいた時には血だらけのバランダが倒れていた。仮契約とはいえ精霊の力を借りても、仕留めきれなかった相手……暴走した力で、ようやく沈められた。
だけど、あの惨状は……バランダが敵とはいえ、見ていて気持ちのいいものではなかった。思い出しただけでも、吐きそうになる。しかも、最中の意識が完全になかったのだ……スカイくんや、エドさんに危害を加えないとも限らない。
「だーかーら、そんな睨むなっての。アタシ達は殺しかけて殺されかけた仲じゃねえか」
「……用件を話して」
「嫌われちまったねえ、まあいいか」
どこまで本気なのか、わからない。けれど、警戒は解かない。不穏な動きを見せたら、すぐに……
「お前ら……今の魔王ってやつ、ヒロト・カルバジナって知ってるだろ? そいつについてだ」
その台詞に、名前に……私は、ついさっきまで張り詰めていた警戒が解けるほど、呆気に取られていた。
その名前は、私がこの旅を始めることになったきっかけで……かつての友達で、私の親友を殺した男の名前だったから。




