激闘の後
奴が去ったためか、気づいた時には結界は消え………戦いにより壊れたはずの建物は、無傷でそのままだった。あれほど、大規模な破壊が行われていたというのに。
「戻った……?」
「結界は、本物そっくりの空間を作り出す。結界の中ではどれだけ物を壊そうが、外界……実際の空間には影響はないというわけだ」
景色も、結界が張られる前と変わりはない。それに、あの妙な圧迫感からも解放された。
唖然と辺りを見渡していると、まるで俺の疑問に答えるように声が掛かる。先生が歩いてきていたのだ。
「それに、結界は外界との認識をずらしている。だから一般人には気づかれないし、基本結界は強固だから気づいても邪魔の入りようがない」
淡々と語る先生。その言葉が真実かどうかはわからないが……エルシャは否定しないし、そもそも嘘をつく理由がないだろう。とはいえ、腑に落ちないことがあるのも事実だ。
関係者であるエルシャがいろいろ知っているのは理解できる。だが、なぜなんのかかわりもないはずの先生がそんなことを知っているんだ?
「……けど、先生は結界に気づいたし、破って入ってきましたよね。色々知ってるようですし……先生は、いったい……?」
ここまできて、無関係だとは言わせない。先生も、リーシャと同じく天界の関係者なのかもしれない。いや、十中八九そうだ。もしかしたら、天使とかリーシャと同じハーフとか?
だけどメルガディスには、人間だと言っていたし……まあ、奴を欺くための演技かもしれないけど。
「……あぁ、教えよう。それは……」
「おーい!」
このまま問い詰めても、はぐらかされるかもしれない。そうも思ったが、意外にも先生は問いかけに応えようとしてくれたようだ。
何かを話しだそうとしたところだったが、向こうから声が聞こえてくる。声の方へ振り向くと……
「リーシャ!」
手を振りながら駆け寄ってくる、リーシャの姿があった。無事だったのか! 良かった。あの時一人だけそっかに飛ばされて、どうなったかと思っていたが……
「アカリちゃーん!」
「リーシャ! 良かったよ無事で! 怪我ない? 何かされなかった? 具合悪くない?」
「私は大丈夫だよ」
すぐさまリーシャに駆け寄ったアカリは、その安否を確認するために体をぺたぺた触っている。見た感じでは、大きな怪我はしていないようだ。
一人だけ別の空に飛ばされたというリーシャだけど、本人も言っているように大丈夫そうだしホントに良かったよ。
「良かった……でも、よく一人でこらえたね。私心配で心配で……」
「あぁ……えっと、必死で逃げ回ってたんだよ。だけどいきなり、結界が消えて、同時にあいつらも消滅したんだよ」
若干涙ぐんでいるアカリを見て少し慌てているように見えるリーシャは、自分は全然大丈夫だったということを伝えてなだめているようだ。
リーシャの方が小さいのに、これじゃどっちが子供かわからないな。
「そっかあ。ごめんね一人にして」
「そんな、アカリちゃんのせいじゃないよ。悪いのはあいつらだから」
「……」
感動の再会……というやつなのだろうが、何だろう。視線を感じる。俺にではなく。
先生が、そしてエルシャが意味ありげに二人を……いや、リーシャを見ているように思えるのだ。リーシャの行動や言葉に、おかしなところでもあったのだろうか?
「でも、結界が消えたってことはあいつは……もしかしてあいつを倒したの!? すごいよ!」
「あ、私じゃなくて……」
「奴は逃げた。仕留めそこなったよ」
結界が消えた=結界を張った奴……つまりメルガディスを倒したのだと思い込んだリーシャは、興奮気味にアカリを見ている。目も輝いているし、迫られたアカリが若干困っているようだ。
だがそこへ口を挟むのは、実際にメルガディスを追い返した先生だ。今まで気づいてなかったのか、リーシャは目を丸くする。
「あれ、先生……? 何でここに? 仕留めって、え、もしかして先生が……?」
「そうなの。先生がいなかったら、私達みんな殺されてたよ」
驚くのは当然だが、それが真実であるとアカリからも後押し。そうだ……先生が駆けつけてくれなかったら、俺もアカリも、エルシャも殺されていただろう。
それに、奴が逃げて結界が消えなければリーシャだって……
「……何者なの、貴女……」
そこへ今まで黙っていたエルシャが、先生に向き合う。先ほどの俺の問い掛けを再度告げるように、鋭い視線とともに先生へと向ける。
「その力……貴女、本当にただの人間?」
「言ったろ、人間だよ私は」
「……知ってること、教えてくれるかしら?」
敵意……ではないが、若干の警戒をエルシャは持っているように思える。対して先生からは、何の警戒も感じない。
睨みつけるエルシャとそれを受ける先生。数秒の沈黙……そして。
「……場所を変えよう。そこで話すよ」
場所を変えてから話すと、先生は背を向けて歩き出した。それに、俺達はついていく。




