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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
欠けた翼
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記憶がなくても



 視界は赤黒い景色のみ。何が起きたのか……驚きの声を上げようとして、はっと息を呑む。



 体を包む浮遊感、そしてこの息苦しさ……これには、覚えがある。



「ぶはぁっ!?」



 視界が開けた瞬間、体を包んでいた浮遊感が消え、同時にばしゃっという音。空気を、吸い込む。体が、濡れている。



 先ほどユメを包み込んだ浮遊感、その正体は水だ。水がユメを包み込んだことにより黒炎から身をまもり、水の中は浮遊感と息苦しさを与えた。



 そしてそれができるのは一人だけ。



「オル姉! げほ、やるなら……やる、って、言っげほよ! し、死ぬかとっおっほ!」



「助かったんだからいいじゃない」



 神力を使い、水の風船でユメを、そして自身を包んだオルテリア。確かに彼女の判断がなければ、二人はあのまま黒炎に呑み込まれていただろう。



 とはいえ、突然水の中に落とされたにも等しいユメはマジで死ぬと思っただろう。



「敵じゃなくて味方に殺されるとこだったよ!」



「ならもっと頑張って私の手を煩わせないようにしなさいよ」



「こいつ……!」



 記憶を失っているとはいえあんまりなオルテリアの態度に顔がひきつるユメだが、今は言い争っている場合ではない。敵に集中だ。



 またあんな炎を出される前に、次はこちらから仕掛ける。



「まったく、バカの一つ覚えだな」



 行動に移すユメの動きは、突進だ。あの少女は肉弾戦しか出来ない……『憤怒』も察しがついていたとはいえ、こう何度も突っ込まれてきては呆れてしまう。



 ……だが当然、ユメとて同じ行動を何度も繰り返すほどにバカではない。走りながら拳を大きく振りかぶり、直後に地面へと拳を振り下ろす。



 ユメの体から放たれるには想像出来ないような威力を持った拳は地面を陥没させ、激しい音を立てながら同時に土煙を上げる。



 必然的に、土煙は『憤怒』の視界を覆い……



「目眩ましか」



 それが目眩ましを狙ったものであると理解するのに数秒もいらない。それに焦りもない。『憤怒』にとっては視界を遮られることなどたいした問題ではない。



 あちらが何をしようと、この燃えたぎる体には触れることも出来ないのだ。先ほどの津波のように、圧倒的な火力で攻めてしまえばいい。



 だから『憤怒』は、落ち着いた様子で己の中の炎をたぎらせて……



「むっ……?」



 しかし直後に体には異変が起こる。急激に土煙が視界を開けた、かと思えば体にかかる重い圧力。これは……水だ。水の中に、『憤怒』は放り込まれている。



 確認すれば、どうやら周囲すべてが水に覆われているわけではなさそうだ。己とその数メートルが水に包まれている。まるで水の檻だ。



 こんなもので、窒息でも狙っているのだろうか。それが切り札ならばとことんガッカリだ。黒き炎はこんな水ごときに阻まれるほど安いものではない。



 このうっとうしい水の檻を破壊するため、共々に少女らを始末するため、『憤怒』は再度、己の中の炎に意識を集中させ……爆発させる。



「そこぉおおおお!」



 黒き炎が、己を閉じ込めていた水の檻を弾き飛ばす。水と炎が衝突し、耳も塞ぎたくなるほどの激しい音が炸裂し……起こる水蒸気爆発。その中心にいた者はただでは済まないはずだが……『憤怒』は無傷だ。



 これで水の檻は脱した。つまらない小細工を施した少女らを始末できたか……確認する前に、その答えは現れる。



 激しい爆発、その中に生身で飛び込んで無事なはずがない。だが……喉の奥から声を荒げ、水蒸気の中から姿を現す少女がいた。彼女の腕を覆う炎の鎧は、気のせいか先ほどよりも燃え盛っていて……



「いっけぇえええ!!」



 握った拳を、振り抜く。その拳は狙いを寸分狂うことなく、『憤怒』の顔面へと繰り出される。気合いだけの、他愛ない少女の拳……そのはずだった。



「ぬぅうううっ!?」



 しかし予想とは反して、少女の拳は巨体を吹き飛ばす。正確には吹き飛ばしたわけではなく、後退りさせただけなのだが。だが少女とっては、吹き飛ばしたくらいのインパクト。



 それは『憤怒』にとっての予想外、そしてユメにとっての予想通りだ。いささか予想以上ではあるが。



 そのまま巨体は、後退。殴られた顔面を押さえるが、その手の隙間からは血がポタポタと流れている。それは今まで効かなかったユメの拳が効いていることを意味していた。



「よしっ、どうだ!」



 攻撃が通ったことに確かな手応えを感じたユメは、背後のオルテリアに向けてVサイン。今までいいようにあしらわれてきたので、嬉しいのだろう。



「ほら、油断しない!」



「何さー、誉めてくれたっていいじゃんオル姉のケチー」



「オル姉言うな! だいたい攻撃が通ったのだって私のおかげでしょうが!」



 どうやら労りのお言葉はないようだ。ユメ膨れっ面。



 だが今のは確かに、オルテリアの神力あってこそだ。『憤怒』を閉じ込め、その力を発動させた直後……炎が尽きた瞬間を狙っての攻撃。



 人が、酸素を出し尽くした直後に喋れないのと同じだ。息継ぎのような、微かだが絶対の隙が生まれる瞬間。それならば、『憤怒』の体をまとう黒い炎も切れると狙いを定めたのだ。



 一見すると単純な作戦。だがこれを成功させるためには、『憤怒』の炎を出し尽くさせるための同等以上の力が必要になる。並の力では不可能だ。



「記憶はなくしても、オル姉はオル姉か……」

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