激闘の果て
傾き始めた戦況。それに対して苦い表情を浮かべるのはただ一人、悪魔であるメルガディスだけだ。
この状況を打破しようと考えているはずだが、これだけの戦力差を覆すことはできないだろう!
「……ならば……」
睨み合いが続く中突然、俺が対処していた人形達が一斉に動き出した。揃って別方向へと移動を始める。その先にいるのは……狙いは、先生か!
「不死身の軍団なら、貴女でも対応しきれないでしょう!」
「先生!」
いくら先生が強くても、不死身でしかもあの数相手は分が悪すぎる。こっちにおびき寄せようと数体倒しても、そんなものは意味がなく人形の動きが止まることもない。
このままでは、あの数の人形が一斉に先生になだれ込むことになる。……だが、そんな心配は不要だった。
「不死身、ねえ……」
迫り来る人形を目にしても構える様子もなく、つまらなそうに呟いた先生。その直後、突如空中に黒い穴が現れる。
黒い穴とはいっても、メルガディスが現れたものとは別物のようだ。まるでそこにぽっかりと無の空間でも現れたかのように。
そして……その中へ向かって風が吹き始める。穴を中心に、周りのものを吸い込んでいくのだ。簡単に言えば、かなり大きめの掃除機……といったところか。
「これは……」
「不死身でも、倒す方法ならいくらでもある。例えば……攻撃が効かないなら、この場から退場してもらえばいい、とかな」
その穴はスゴい勢いで、周りの人形達を吸い込んでいく。人形は踏ん張るという意思すらなく、次々と吸い込まれる。
そもそも踏ん張ったところで、どうしようもない気がするが。見ていて面白いくらいに吸い込まれているのだ。
あれはまるで……
「吸い込んだものは、別次元に放り出される。天界とも魔界とも違う、もちろん人間界とも。何もない空間に……な。言うなれば、ミニブラックホールみたいなものかな」
そう、ブラックホール。周囲の物体をすべて飲み込むという天体。実際に見たことは当然ないが、目の前のそれは話に聞くブラックホールそのものだ。
人形が作りだされるよりも速く、周りを吸い込み……それを見てこれ以上は無駄だと判断したメルガディスが、人形の生成をやめる。
それにより新たな人形は生まれなくなり……無数にいたあの人形達は、もう影も形もなかった。
役目を終えた穴は、やがて収縮していき……最後には消えていった。
「それに……不死身だと? 笑わせるな、確かに攻撃の効かない厄介な人形だが……それは人間相手に関しての話だろう? 天使や悪魔相手には全く意味を為さない傀儡じゃないか」
「ぐっ……」
先生が語る、メルガディスが作った人形の弱点。人間相手に対しての不死身とは結局俺達に対しての弱点にはなり得ないが、まさかそんな弱点があったとは思わなかった。
しかし、やけに詳しげに話しているのだが……何でそんなに、詳しいんだ? 相手が悪魔だってことにも微動だにもしていないし、天使や悪魔のことだって知っているようだ。
いったい……?
「これは……計算違いでしたね。まさか貴女のような人間がいたとは」
「はっ、光栄だ……とでも言っておいた方がいいか?」
圧倒的な実力差があり、不死身だと豪語していた人形までやられた。それなのに、メルガディスは少しの動揺を見せだけで、後は平静に見える。
だからかはわからないが、先生は警戒を緩めることはない。
未だに、予断を許さない状態だ。
「まあ殺しはしないさ……じっくり情報を聞き出してやる」
だがその緊迫感も、いつまでも続きはしない。この中で一番力のある先生ならば、メルガディスを捕まえることも容易だろう。
倒すよりも捕まえる方がむずかしそうだが、そんなのはたいした問題にならない力が、先生にはある。
「いえ……それは遠慮しておきますよ」
だが対称的にメルガディスは、余裕に笑みを浮かばせる。何が奴をああも余裕を感じさせるのか、わからない。わからないが、ただただ不気味だ。
次の瞬間、奴は翼をはためかせ飛び立つ。まさかこのまま……!
「ちっ、逃げる気か!」
「えぇ、少々カッコ悪いですがね。また会う時が楽しみです」
「私が逃がすと……」
逃がすまいと手を伸ばす先生は何かしらの攻撃を放とうとしているようだ。だが、そこへ大量の魔コウモリが視界を覆うように飛び向かっていく。
その数は数えきれないほどで、どこから湧いたんだと思いたくなるほどの。
さらには空中に無数の槍が生成され、それが雨のように降り注いでいく。魔コウモリを犠牲にするのも構わず、ただ先生を狙うためだけに。
「ちぃっ、うっとうしい!」
飛びかかってくる数えきれない魔コウモリ、降り注ぐ無数の槍……それらに舌打ちしつつも、行動に移る。神力を体に纏い、それを一気に解き放つ。
神力をオーラと表現すると、オーラを纏ってそのオーラを広範囲に放つ、といったものだ。
神力の威力が凄まじかったのか、オーラに触れた魔コウモリや槍は一瞬にして消滅した。だが……その一瞬の攻防が、一瞬とはいえ確かな隙を作った。
再び先生が攻撃体勢に入った時には……メルガディスの姿は、どこにもなかった。




