光閉ざす黒炎
道を阻む、黒い炎。それが自然によるものではないというのは、見ればわかるのだが……それでも、直感する。誰かの、超常の力によるものだと。オルテリアでも、レイでも、もちろんユメでもない。
となると……考えられる可能性は一つだ。
「これ……もしかして、敵?」
考えられるのは、敵の可能性。こちらに友好的な相手ならば、そもそもこうやって道を塞ぐ必要はないのだから。
加えて、このような力を要しているほどの相手……間違いなく、これまでの雑魚魔族とは違う。汗が、ユメの額から流れる。これは暑さによるものではなく、冷や汗だ。
緊張感が走る中……そいつは突然として、炎の中から現れた。
「ふぅ……ようやく見つけたぜ」
野太い声に、大柄のシルエット。徐々に明らかになっていくその姿に、ユメは目を見開く。これまでに見てきた悪魔とは、異なる姿をしていたからだ。
人型……ではあるのだが、どうにも様子がおかしい。人とは違い黒い皮膚……それが、まるで溶けているようなのだ。ユメが見上げるほどに巨大な体……さらには首から上が二つに分かれている。
ケルベロス、とでも言えばいいのだろうか。しかし人型だし、何より目が一つしかない。一つの顔に一つの目玉……しかも口がない。口は、腹部にそれらしきものが見える。
「うげえ……何あれ」
ユメは思わず顔をしかめる。彼女はこれまで、比較的人に近い姿の悪魔しか見ていないため……無理もないかもしれないが。
だが、それよりももっと過激な反応を示す者が。
「なっ、グロ……気持ち悪い……」
口元を押さえるのは、全てを忘れたオルテリアだ。今の彼女には、数日前からの記憶しかない。その中で、目の前の溶けている体を持つ二つ首悪魔は刺激が強かったようだ。
「悪魔、だよね……」
いつでも走り出せるように構えるユメのつぶやきは、一応の確認だ。違うと言われても、それはそれで困るのだが。
が、そんな心配はなかった。律儀にも目の前の男は頷き、レイも慌ただしく光っている。間違いない……ならば、さっさと逃げてしまうか。
「って、逃げれないんだよね……」
行く道を塞ぐ黒炎を切り抜ける手立ては、今のユメ達にはない。以前のオルテリアなら、水を使って道を切り開けたかもしれないが。となれば、残る道は一つ。
「精霊ちゃん! おねが……」
精霊であるレイに、どこでもいいからここから逃がしてもらうこと。そのためにレイがいる……だから、ここは全力で頼らせてもらう。
そう思い、声を上げた直後……黒い火の玉が、ユメの顔の真横を通過する。それは、背後にいたレイに直撃……激しい小さな爆発が起こる。
「! うそっ……」
予期していなかった事態に、ユメは青ざめる。ここでレイがやられてしまっては、逃げる手段が……いやそれよりも、単純に安否が心配だ。
「へえ……やっぱり、こんなんじゃ弱いか」
しかし焦るユメとは対照的に、落ち着き話す男。煙が晴れ、そこにはレイが無事なのを確認……少々、光が弱まっているのが気になるが。
「精霊ちゃん、早くここから……」
「無駄だ、その精霊にもうそんな力は残ってない」
この場から逃げるための手段を、封じたと男は言う。その言葉通り、レイの輝きは弱まったままで、ユメ達をどこかへ転移させることは出来そうにない。
もしや、先程の攻撃はレイを倒すのではなく、レイの力を削るためだったのではないだろうか。火の玉自体はレイ自身の力で防ぐ、もしくは攻撃力を弱めるなり自身の防御力を上げるなり出来ただろう。
「はっ、精霊とはいっても契約者がいなけりゃ恐れるに足らん」
しかしその代償として……転移させられるだけの力はなくなってしまった。休めば回復するだろうが、今この場では無理だろう。




