不可解な現象
「……私が、あいつの動きを止める」
俺の考えが伝わった、わけではないだろう。だが、自分がその役目を引き受けるという声がその場に響く。こんな状況で、あの戦闘の間に割って入ろうというのだから大した度胸だ。
……なのだが。
「ユウ、キ?」
それは、予想だにしていない人物だった。
立ち上がるのは、さっきまで弱々しい表情をしていた女の子ではない。覚悟を決めた者の、表情をしていた。
「いや、何言って……俺が行くよ! お前は……お前に、そんなことできないだろっ」
しかし、それを受け入れてやるわけにはいかない。ユウキには神力があるわけでも、武術に秀でているわけでもない。何より、行かせたくないという気持ちが強い。
動きを止める……言葉では簡単でも、あの戦闘の中に割って入るのは無謀だ。無事で済むとは思えない。だから、そんなことさせたくない……そう言いたかったのだが、思っていたのとは違う意味に捉えられかねない言葉になっていまった。
「できるっ……私だって、いつまでも泣き虫のままじゃいられないもん」
俺の言葉は、ユウキの意思に火をつけてしまう結果となり……今のままでは嫌なのだと、首を振る。
「ちがっ、そういうんじゃなくて……そうだ、俺が行くから、お前は二人を見てて……」
「あはは、カリィってば……ホント鈍いなあ。ちゃんと、カリィが見ててあげなきゃダメだよ。……だって、ピルカちゃんは……」
俺が行く、という案も、却下されてしまう。最後の辺りは声が小さくて聞こえなかったが、俺が見ててあげなきゃってどういう……俺には、二人を治すこともできないのに。
「大丈夫、死ぬつもりで行くんじゃないから。それにみんな、たくさんの魔物や人造人間にやられて……こうしてピンピンしてるの、私だけじゃん?」
ユウキの言う通り、他のみんなはというと複数の魔物の相手をしていたせいで……そして人造人間を相手にしていたせいで、傷だらけだ。ここに倒れているベルやピルカだけでなく、向こうに倒れているシズだって。
俺も無傷ってわけじゃないし、一番体力が残っているのは確かにユウキだけだろう。だからって、そんな危険なことは……
「それに……あの子がくれた、この名前。それに胸を張れるように、私はなりたいの」
俺が何かを言う前に、胸の前に手を置いたユウキは呟く。元々名前のなかった彼女に、名前をくれたあの青髪の少女……彼女がくれた名前に、恥じないようになりたいのだと。
そして……ユウキは駆けだす。これ以上の問答は不要だと言わんばかりに。俺の喉から、言葉が出る前に。
「ぐぅ……!」
その先では、未だ戦いが続いている。しかし戦況は良いとは言えない。リーダーの攻撃は避けられ、カウンターを喰らう。その繰り返しだ。
そもそも、あの中に割って入れるのか? かえって、リーダーの邪魔になるんじゃ……
「てやぁああああ!」
その考えに至っているのかいないのか、何とユウキは叫び声を上げながら突撃する。それにより二人の意識は一瞬ユウキに向けられ……その一瞬を狙い、ユウキは悪魔の腕へと飛びつく。
リーダーを殴り、ある意味無防備になっている腕……そこに、絡みつく。何の力もない女の子の、僅かな邪魔……本来なら、その程度に終わるはずだった。
リーダーが何とかできるだけの、隙を一瞬だけでも作れれば……ユウキさえも、そう思っていたはずだ。
「ちィっ、小癪ナ……なぁッ!?」
悪魔にしてみれば訳のないはずのユウキの行為は……しかし悪魔の驚愕を生む結果となった。俺も、あの悪魔も、ユウキも……その光景に唖然となる。
ジュワッ……まるで何かが熱に溶かされていく。そんな音を立てながら、ユウキが抱き着くように絡みついた悪魔の腕が、溶け始めたのだ。




