リーダー
「いろいろあったよなぁ、ここにくるまで」
「どうしたいきなり」
さっきまで昔のことを思い出していたためか、自分でも気づかないうちにそんなことを口走っていた。ベルからしたら、唐突すぎる話だろう。
それでも、「そうだな」と言いながら思い出話を語る。
「まさか今頃こんなことしてるなんて、貧民街にいた頃は思いもしなかったなー」
「はは、そうだな。あの頃が懐かしいよ」
誰だって、こんなことになるなんて予想していなかっただろう。こんな、いつ死ぬともわからない世界になるとは。それでも、俺達は今こうして生きている。運が良かった……んだろうな。
施設から逃げ出せた時も、貧民街から逃げ出せた時も。どちらも絶望的な状況であったが、生き残ることが出来ている。生きているからこそ……俺はみんなを、ユウキを守ろうと思うことが出来るんだ。
あの時のオルテリアとの「また会おう」って約束は果たせなかったけど……せめて、ユウキのことは、俺が守る。物心ついた時からずっと一緒だった、あいつのことは。
「……で、あの時シズが……って、聞いてる?」
「あぁ、聞いてる聞いてる」
すまんベル、聞いてなかった。せっかく思い出話をしてくれてたのに、これっぽっちも聞いてなかった。けど平然と、聞いていたふりをすることにする。
「あれれー? どしたのお二人さんこんな時間に」
そこへふと、背後から声が掛かる。誰のものか、と考えるまでもない。このどことなく間の抜けた声は、一人しかいない。
「ちょっと目が覚めちゃって。リーダーこそどうしたんです?」
振り向き、その人物の姿を確認する。そこにいたのは、予想通りの人物。俺達を助けてくれ、組織を作り上げてそのリーダー的な存在。ネコミ・レイさんだ。
相変わらず本物と見間違えそうな猫耳に見える髪をぴょこぴょこと動かしており、手を振っている。
「何だか眠れなくてね。それより、男二人で怪しいにゃあ」
口元に手を当て、「あらあら」と言いそうな表情を浮かべている。だがこのやり取りも毎度のことなので、いちいち取り乱すこともない。
「何も怪しくなんかないですし。それよりリーダーがそんなだから、仲間内でも変な噂が立つんですよ」
「いや、あれはあの子たち元々くさっ……男の子同士のそういうのが好きなだけだから」
「マジかっ」
「マジにゃ」
取り乱すこともないと言ったが、前言撤回。むしろ知りたくなかった事実を知ってしまった。最近仲間の女性達から、俺とベルに対してのあれな噂が立っているのはてっきりリーダーが原因だと思っていたのに。
うちの組織腐ってんのかよ……!
「それよりそのリーダーっての、くすぐったいからやめてって何度も言ってるのに。敬語もいらにゃいし、気軽にネコミちゃんって呼んでくれていいのにっ」
「いや、それはちょっと……あくまでリーダーはリーダーっていうか」
「むー、頭硬いんにゃからっ」
リーダーは確かに強いのだが……フレンドリーすぎるというか、どこか掴めない雰囲気がある。本気なのか冗談なのかわからない、そんな感じだ。
それでもみんながついていくのは、みんなのことを大事に思っているからだ。ベルと似た、それでいて違ったリーダー性。
「眠れない……何かあったんですか?」
まあそれはそれとして、だ。リーダーが眠れないなんて、悩み事だろうか、珍しい。基本何考えてるかわからないというか、何も考えてないんじゃないかと思わせるのに。
「うん、まあ……昔のことを思い出しちゃって。学園での最後のこと」
そう語るリーダーに、俺は少しだけ驚いた。俺と同じく、昔のことを思い出したというその言葉に。それも、彼女が通っていた神力学園でのことだという。




