激闘の行く末
「はぁ……はぁ……」
……突如として現れた悪魔四神、メルガディス。それに対抗する俺とアカリ、エルシャ。
とはいえ、俺とエルシャはメルガディスの作り出す不死の人形を相手取るので精一杯なので、実質相対しているのはアカリのみだ。
どこかへ消されてしまったリーシャを取り戻すためにもアカリは持てる力の全てを使い、戦いにのぞんでいた。
激しい戦いが続き、両者の力は互角かと思われたが……徐々に、力の差が表れ始めた。
「どうしました? 即効で倒すんじゃなかったんですか?」
余裕げなメルガディスに対し……服は破れ肌は傷つき、アカリは所々ボロボロであった。ぜぇぜぇ……と息も上がっている。
あれからレベルの高い戦いを続けていたが、アカリが必死の攻撃を繰り出しているのにメルガディスは平然とした表情でかわしていった。
経験の差というやつなのか、初めは互角に見えた戦いも、まるで詰め将棋のようにアカリが追い詰められていた。
「そんなのじゃお友達を助けることなんて出来ませんよ? 最も、もう手遅れでしょうが」
「なっ、めるなぁああああ!!」
尚も挑発を繰り返すメルガディスに対しアカリは咆哮する。力を集中しているようで、次の瞬間アカリを中心に、突風が巻き起こる。
周りの人形達は吹き飛ばされていき、俺達も気を抜いたら吹き飛ばされそうだ! まるで、アカリを中心に台風が起こっているよう。
……しかし、奴は……メルガディスは、ズボンのポケットに手を入れたまま、平然と立っている。涼しげな、憎たらしい顔で。
「人間にしては素晴らしい力だ。だが所詮……私に敵う力ではない」
「まだ、勝負はついてない!」
目を開けていられないほど激しく風が吹いていたが、ふと気がつくと空中には幾つもの氷の刃が浮いていた。この突風は単なる目くらましだったというのか。
無数の氷の刃が、一斉にメルガディス目掛けて放たれる。あれだけの数なら、奴もさばくことはできないはず……
「数で押せば勝てると思いましたか?」
すると奴は、一瞬にしてアカリの背後に移動していた。離れた所から見ていた俺も、移動したのが見えないほどの速度だった。
そのため、奴がいた場所に放たれた氷の刃は、無情にも何もないところを突き刺していった。
「いつの間に……がっ!」
気がついたアカリが振り向くより先に、奴はアカリの首根っこを掴み、宙に掲げるように持ち上げる。小柄な女の子とはいえ、人一人が宙に浮いている。
「アカリ!」
その光景を見た瞬間、俺の中で何かが弾けそうになる。ヤバい、このままじゃアカリが……そう思った時にはもう、足が動いていた。
だが、アカリの下に向かおうと足を進めたその先に……人形達が立ちはだかる。まるで俺の行く手を阻むかのように。……いや、まるでではない。俺を行かせないつもりか!
「邪魔だぁ!」
「そこでゆっくり見てなさい、友が逝くところを。そして知りなさい、こうなった原因は……そこの神にあることを。恨むなら、その女を恨むことですね」
「ぐ、ぁあああ……!」
人形を殴り倒していく間にも、アカリの呻き声がどんどん大きくなっていく。あいつ、このままアカリの首を絞め殺すつもりか!
目の前の人形を、確かに殴り倒して進んでいく……が、無限に出現する兵隊は俺の行き先の邪魔をするよう立ち塞がり続ける。いくら不死身じゃなくなっても、これじゃキリがない……!
「う、ぁあああっ……ぁあ……!」
「アカリぃ!!」
「ひ……ろ……」
叫び声はだんだん小さくなっていき、それが生命の危機をより鮮明に伝えてくる。俺も、エルシャも……目の前に立ち塞がる兵隊の波に、全く進めない。このままじゃアカリが……!
「アカリぃいいい!!」
「あっはははは! 喚きなさい苦しみなさい! どれだけ騒いでも、この結界の中では助けが来ることなど……」
パキンッ!
……何かが割れるような音が、辺りに響いた。それはまるで、空間全体に響くような。 俺達以外、誰もいないはずのこの空間から、何かが割れるような音が。……何だ、一体?
「なっ……? バカな……何者かが、結界を破ったというのですか?」
その音の正体にいち早く気づいたのは、メルガディスだ。先ほどまで涼しい顔を浮かべていたのが嘘のように驚いた表情を浮かべている。
その言葉の意味……はそのままだが、結界を破った……だって?
結界がどれほどの強度を持っていたかはわからないが、メルガディスの様子からすると並の強度ではなかったのだろう。
その時……結界が割れたと思われる音が聞こえた方から、コツコツと靴音が聞こえてきた。
「あー、やーっと見つけた」
聞こえてきたのは、女性の声だった。その声にまるで、時が止まったように感じた。目をこらし誰が来たのかを確認する。徐々にはっきりしていくシルエット、その正体は……
「せ、先生っ?」
影が徐々に鮮明になり、そこにいた人物がはっきり浮かび上がった。それは俺達の担任、ティファルダ・アラナシカ先生だった。あまりに衝撃的な人物に、驚きを隠せない。
先生が、結界を割った人物……?
「な、何者ですか貴女は!」
「私か? 私は……こいつらの学園の先生だ」
驚くメルガディスに対し、先生は至って冷静に見える。この異様な光景を目の前にして、ひどく冷静なのだ。驚くこともなく。
「学園? 先生? ふん、生徒のピンチに駆けつけたというわけですか。しかし残念ながら、死体が増えるだけ……ん?」
「大丈夫か? ヴィールズ」
そんな先生に対してバカにしたような笑みを浮かべるメルガディス。そのメルガディスに応える……のではなく、先生は自らの腕の中に抱いたアカリに声を掛ける。…………あれ?
「い、いつの間に……?」
今、何が起こったんだ?確かに今の今まで、アカリはメルガディスに首を絞められ持ち上げられてたはずだ。それが今は……離れた所にいる先生の腕の中にいるのだ。
いつの間に、メルガディスからアカリを取り戻したんだ?
「けほっ、せ、先生……?」
「無事……とは言い難いがひとまず良かった。……少し待ってろ」
先生は、アカリに手をかざす。すると……その手が淡く光り、アカリの傷がみるみる塞がっていくではないか。神力による、回復術か? それにしても、何て強力な……
「傷が……?」
「あまり動くな。応急措置にすぎん」
「貴女、何者ですか? それは……その力は……?」
「言ったろ、こいつらの先生だと。そして、先生として言わせてもらうと……」
その回復力に、メルガディスも驚きを隠せないようだ。
だがそんな驚愕など興味ないと言わんばかりに言葉を返す先生は、アカリを近くの岩場にもたれさせ、さらに結界のようなもので包み込む。
そこから一歩一歩、踏み締めるようにメルガディスへと向かっていく。対するメルガディスも戦闘体勢……だったはずだが、一瞬のまばたきのうちだった。
目を閉じて開いたほんの一瞬のうちに、先生はメルガディスの懐に潜り込んでいた。
「なっ……がはっ!?」
そして、反応する暇を与えず腹にパンチを打ち込む。その威力は凄まじく、離れた所にいる俺にパンチの衝撃がビリビリ伝わってくる。
「かはっ……が、ぁっ……!」
その拳を受けたメルガディス。奴はアカリのパンチでは平然としていたのに、先生のパンチでは悶絶している。それだけ、二人の間に明確な力の差があるっていうことか?
悶絶するメルガディスを冷たく見下ろし、先生はゆっくりと口を開き、先ほどの言葉の続きを口にした。
「私の生徒に手を出して……ただで済むと思うなよ?」




