叫んで、ぶつかりあって、そして……
大丈夫だから、と何度も繰り返す。それでも、不安は拭えない。だからといって、オルテリアの気持ちは変えられない。オルテリアの気持ちが変わらなければ、ユメの気持ちも変わらない。
もう、二人を止める手立てはない。ならば、せめて……
「レイ……二人についていてあげて」
リーシャは、傍らにいる精霊へと語りかける。精霊であるレイは、その聖なる力をもってすれば魔族に対して、単体の力でも今のオルテリアやユメだけはずっと強い。
それに、いざとなれば二人を転送させることもできる。逃げるのが困難な相手でも、レイの力があれば造作もないことだ。
転送、すなわちワープ……これほど有効な手段こそ、今の二人に必要だ。
「え、でも……」
しかしレイは元々、天使の血を引くリーシャと仮契約して一緒にいるのだと聞く。リーシャのためについてきてくれてる存在を、果たして自分達が連れていっていいものか。
そんな疑問が顔に出ていたのか……ユメに、リーシャは言葉を続ける。
「今の私じゃ、レイは認めてくれないみたいだから。ならせめて、レイには二人を見守ってほしい」
バランダの一件以降、レイはリーシャへの協力を拒んでいる。あのとき我を見失い、暴走してしまったことが原因だろうと、彼女は考えている。
精霊という聖なる存在にとって、あのときのような邪悪な気持ちは敵意すら抱くものだろう。むしろ、こうして一緒にいてくれることだけでも本来ありがたいのだ。
それにレイがいなければ、最悪のさらに最悪な状態になっていた。だからこそ、レイには何かあったたきのために二人の側にいてもらいたい。
「レイも、二人のお願いなら聞いてくれると思うから」
「私はお願いすることなんてないけど」
「そんなこと言わないの青髪の人!」
助けてもらった記憶もないため仕方ないが、レイに対してもツンとした要素のオルテリア。だがそんな彼女を叱るようにユメが注意するが……
「あお……何?」
「へ? だってオル姉って呼び方が嫌なんでしょ? ならとりあえず特徴で呼ぼうかなって」
唐突ないユメの発言に、オルテリアは再びため息。やっぱり、この子といると調子が狂うと。
「なら、ありがたく精霊ちゃんを連れていかせてもらうよ。精霊ちゃんもそれでいい?」
心強い存在に同行を確認すると、肯定の意味を示すようにレイの体が淡く輝く。
これで、ひとまずの不安は払拭されたわけだ。安心していいのか、それとも悲しめばいいのかはわからないが。
ユメと……アカリと瓜二つの妹と一緒にいることで、オルテリアの中で何かが刺激されるかもしれない。そんな不確かな希望に、期待してしまう部分があるのだ。
ユメも、もしかしたらそれに懸けて同行を申し出たのかもしれない。自分が、アカリの代用でしかないとしても。
「終わった? ならもう行くわよ」
「あれ? 待っててくれたんだ、やっさしー」
「……」
「わわ、待ってってば!」
一人先々行ってしまうオルテリアの背中を追いかけようとするユメだったが、立ち止まり振り返る。心配そうな表情を浮かべるリーシャに、心配いらないとでも言うように微笑みかけて。
「じゃ、行ってくるね! ゴンちゃんのことも、よろしくね。……オル姉の記憶を少しでも戻して、必ず戻ってくるから!」
にこりと笑い、手を振るユメ。それを、リーシャ達はただ見送ることしかできない。二人の姿が、完全に見えなくなるまで。それまで、誰も声を発することはなかった。
「……行ってしまったか」
二人の影も見えなくなったころ、ようやくエドワードが声を漏らす。まさかこうして、自分達が……リーシャとオルテリアが別れる日が来るなんて、彼さえも考えたことはなかった。
残されたのは、リーシャとエドワード、スカイに魔物のゴンゾウだ。ユメが可愛がっていたこの、子犬のような魔物を連れて行かなかったのは、おそらくスカイのためだろう。
彼は、どういう原理か魔物と合体することができる。スカイを戦わせるつもりなんてないだろうが、万が一のため、というやつだ。
「うん……行っちゃった」
リーシャの表情をここから見ることは出来ないし、覗き込むつもりもない。だが彼女がどんな表情をしているかは、察しがつく。それをわかってか、スカイはリーシャの手を握っていく。少しでも、励まそうとしているように。
「大丈夫……大丈夫だよ」
それは、スカイに言っているのか、それとも自分自身に言っているのか。「行こう」と告げる彼女の声が震えていたことには、気付かないふりをしよう。
そうして、リーシャは歩き出す。オルテリア達が歩いて行ったのとは、反対方向に向けて。




