私もついていく
「さよなら」
そしてついに、オルテリアは決定的な一言を口にした。リーシャは、足が動かない。そのまま、去っていく彼女を見つめることしか……
「まっ……」
「待った」
そんなリーシャの耳に届いた声がある。これまで黙って二人のやり取りを見ていたエド……彼と、彼の言葉を遮った赤毛の少女、ユメであった。
「……離して」
眉を寄せて吐き捨てるように言うオルテリアは、本当に鬱陶しそうにしている。それもそうだ、歩いていたところを、いきなり手首を掴まれたのだから。
離せと言えば、離すと思っていた。しかしユメはその手を話さない。むしろ、強めに握っていく。あぁ心がもやもやする、これがイライラなのだろうか。
「もう一度言うわ、離して」
「い、や!」
「離せ」
睨み付けるオルテリアに、ユメは屈しない。付き合いが短いからこそ、かもしれない。付き合いの長いリーシャやエドワードであれば、少なからず動揺していただろう。
「ゆ、ユメちゃん……?」
「決めた。私も、オル姉と一緒に行くよ!」
引き止めている……そう思っていたリーシャは、自分が聞き違いをしてしまったのかと感じた。それほどまでに、ユメが言った台詞は理解するのに時間がかかったのだから。
「いっしょ、に? ユメちゃんが……?」
「そ! リー姉はオル姉が一人だから不安なんでしょ? なら私がついていく!」
えっへん、となぜか胸を張るユメだが、それなら安心だと送り出すわけにはいかない。
「ダメだよ! そんな……なら、戦闘力のあるエドさんのほうが……」
直接的に言うのは気が引けるが、ユメの戦闘力では何もかも忘れたオルテリアを守れるかわからない。その点、エドワードであればその心配はぐんと減るが……
「ダメダメ。男と二人きりなんて、どんな間違いが起こるかわからないじゃん。リー姉も拒否られたんなら、もう私しかいないでしょ」
「キミは僕を何だと思ってるんだ!?」
「にっひひー」
さっきまで緊迫した空気だったというのに、ユメのおかげで穏やかな空気が流れる。誰かをからかって、いたずらっ子みたいに笑う。いつもの空気だ。
……しかし、一人を覗いては。
「いいから離して! さっきからなに、私の意見を無視してついてくるだのと! そんなの認めてない!」
「認めてもらわなくていいよ、私が勝手についていくだけだから」
「っ……」
先ほどまで、涙を流したり怒ったり、平常心を失っていた連中だというのに、なぜこうも自分を真っ直ぐと見つめてくる。
今のオルテリアには、わからない。
「私は、あなたのことなんか知らない。下手な期待をしてるなら無駄よ」
「実は、私もオル姉のことよく知らない」
どういうことだろう……オルテリアは首を傾げる。リーシャという少女は、ここにいるみんなで旅をしてきたと語った。けれどユメという少女は、自分のことをよく知らないという。
ここに至るまでの内容を大まかにしか聞いていないオルテリアには、わからない。この中で最後に仲間になったのがユメであっても、それがほんの数日前とまでは聞いてないのだから。
ユメにとってオルテリアは、姉であるアカリから聞いただけの人物でしかない。本人に出会い、そこから数日……オルテリアという人物を理解したと言えるほど、ユメは傲慢ではない。
「……その呼び方、私はきらい。変えられないのなら……」
「りょーかい。じゃあなんとお呼びすれば?」
「……」
売り言葉に買い言葉、というわけではないが、ことごとくオルテリアの言葉を跳ね返していく。これ以上の言い合いは無用と思ったのか、オルテリアは小さくため息を漏らす。
「……ついてくるだけなら、好きにすれば」
「ほーい!」
認めたというよりは諦めた。だというのに、この赤毛の少女は何でこんなにも嬉しそうなのだろうか。
それに……この少女を見ていると、なぜだか胸が温かくなる。リーシャを前にしたときとはまた違う、心のざわめき。何もわからない自分を導いてくれる、まるで灯りのような……
「ユメちゃん……」
「大丈夫。ただの悪魔魔物になら負けないし、ヤバそうな奴に会ったら全力で逃げる! だから……大丈夫。私、行ってくる」




