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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
大罪魔獣
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知らない



 行動を共にする理由なんて、どこにもない。確かに記憶のない少女は、そう言った。傍らにいる、見知らぬ人達が言うには彼女はオルテリア・サシャターンなる名前らしいが、少女はぴんとこない。



 記憶をなくし、彼女らのことはおろか自分の名前すら忘れてしまったのだから。



「な、何でそうなるの……? ほら、一人じゃ危ないし……」



 今、オルテリアの言葉を受けた少女……名をリーシャと言った……は、震える声で真意を問いかける。リーシャにとって今の一言は、想像以上に衝撃だったということだろう。



 なぜなのか、オルテリアにはわからないが。



「危ない? あぁ……悪魔とか魔物とか、そんなこと言ってたわね。でも、見ず知らずのあなた達に心配される理由もない」



「それは……!」



 見知らぬ人達に、いきなり悪魔や魔物の存在を話される。自身の存在さえ不安定なのに、何をどう受け止めろというのか。



 この荒れた地を見れば、ただ事ではないのはわかる。それでも、この得体の知れない連中に着いていく道理はない。



「本当に、危ないの。だから、私達と……私と、一緒にいて。……一人に、しないでよ」



 リーシャがなぜ泣きそうな顔をしているのか、オルテリアにはわからない。それはまるで、包み込みたくなるような弱々しい姿で。



 もしもオルテリアに、本のわずかでも記憶が残っていれば、ここでリーシャを包容したかもしれない。しかし……



「……そっちの勝手な理由、そんなものは知らない」



 ここに、彼女らの知るオルテリアはいない。



「オルちゃ……」



「うるさい! 私は、そんな名前知らない!!」



 リーシャの声は、それよりも大きな叫びによりかき消される。自分の知らない人達、自分の知らない名前、なのに心を揺らす名前……自分の中には、何もない。



 何の思い出も……それなのに、胸の奥に渦巻く激しい衝動は何なのか。



 たった一つ、ぽつんとあるもの……その黒い気持ちは、今にもオルテリアを呑み込んでしまいそうだ。これが『怒り』だという気持ちすら、今のオルテリアにはわからない。



 自身の記憶すら失ったオルテリアにはわかるはずもないが……幼少時より、彼女は自分の気持ちを押し殺してきた。



 親に捨てられ、施設に引き取られ……そこでは、自分の気持ちを露にする素直な子供であった。その後サシャターン家に引き取られ、それが結果として施設のみんなと離れることになった。



 遠いところ、という意味ではない。消息不明という、絶望的な意味で。



 結局消息をたどることは出来ず、それでもオルテリアは『いい子』として周りの期待に応えようとした。



 だが元々サシャターン家の子としてふさわしい振る舞いを強制されていた彼女は、施設の件を機にいっそうのストレスを抱え込むことになった。



 いつしか自分の気持ちは押し込められ、いい子を演じるようになっていた。全ては、自分を子供として迎えてくれたあの人のために。……それも結局は、叶わなかったけれど。



 屋敷も、そこにいた人達も、全てが消えたあの日。彼女は、家族だと言える子達に続いて家族になろうとした人達まで失った。それがどれほど、幼い彼女にストレスを与えていたのか想像に難くない。



 だが彼女は、その気持ちを胸の奥に抑え込んだ。涙は流しても、感情は爆発させなかった。



 それは皮肉にも、サシャターン家での教育により自分の気持ちを押し殺す術を覚えたから、と本人も知るよしもなく。



 その後、月日を経て神力学園に入学した彼女は、自身で決めたように……言いたいことを正直に言って、したいことを力いっぱいして、自分のやりたいように生きてやるをモットーに過ごしてきた。



 だが、そう思って過ごすことこそ、無意識に彼女のストレスとなっていた。



 つまり……うるさいくらいに明るくて、活発で、ムードメーカー的存在で……そんな『いい子』を演じていた。これが真実かもしれないし、そうじゃないかもしれない。



 自分でもわからないうちに、自分の心もわからなくなっていた。



 そしてそれは、リーシャと旅をするようになってからも動揺かもしれない。いつも、弱々しいリーシャをオルテリアが包み込む……それが演技でなかったと、ストレスでなかったと、本当にそうだと言えるだろうか?



 そんな、ストレスや色んな気持ちが彼女の中に渦巻いており……それが今、彼女を呑み込もうとしている。



 この記憶があるから、この感情は封じ込めなければいけない……意味もわからない感情の波は記憶という蓋を失い、やがて爆発する、複雑な数々の感情が混ざり合い、黒い衝撃となって。

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