原因と追及
「……ねー、私も話に混ぜてもらっていい?」
なるべく警戒させないように、そして自然に二人と一匹の中に入り込む。瞬間、オルちゃんの目が私を射ぬくが、すぐにそらされてしまう。
……落ち込んでる場合じゃ、ないよね。
「何の話をしてたの?」
「みんなのことだよ! リー姉ちゃんに剣の兄ちゃんにユメ姉ちゃんに、それにオル姉ちゃんのこと!」
話の内容は、指示しているわけではない。つまり、スカイくんが自分で考えて話した内容ということだ。
現実をどこまで理解しているのかわからない。それでも、スカイくんなりに考えて話した話題というのが、オルちゃん含めた私達のことだというのは……何だか心が温かくなる。
「えっと……どう、かな。何か思い出した?」
それを受けて、話を聞いていたというオルちゃんに話しかける。彼女の中の、私達の思い出……それを揺れ動かしたことで、何か変化が訪れたのではないか。
そう、思ったのだが……
「……知らないわ。私があなたのことをどう呼んでたとか、そっちのエドさんとユメさんの話も聞いたけど……私の中にあなた達の記憶なんてない」
私を見てくれたかと思ったら、すぐに目をそらされてしまう。記憶がなくなったことで、スカイくんの語る『思い出』は彼女にとって『知らない話』でしかないということだ。
後ろの二人に振り向いてから、軽く横に首を振る。二人もどうやら同じ思いをしているのか、浮かない顔だった。
……中でも、エドさんの顔は複雑そうだ。
「どうしました?」
彼のそんな表情は、珍しい。そう感じて、理由を問いかけてみる。
「いや……いつも『ドッさん』なんて変なあだ名で呼ぶなあって思ってたんだけど、実際にそう呼ばれなくなると複雑な気持ちでね。
どうやら……その呼び方に、違和感があったらしい。オルちゃんは、親しみを込めて相手のことをあだ名で呼ぶことがある。
その際、エドさんを『ドッさん』というあだ名で呼び、その後も継続している。呼ばれている本人は、そのあだ名に複雑な思いを抱いていたようだが……逆に、あだ名で呼ばれないことに違和感を感じるのだという。
その気持ちはわからないでもない。私も、『リーさん』ではなく名前で呼ばれ、もやもやした気持ちがある。学園にいた頃は、むしろ名前呼びが普通で、言ってしまえばそれに戻っただけなのに……
「次々と、現実を思い知らされるよ」
記憶がないことがわかっていても、ショックを受け止めきれない。
「……私を、どうする気?」
思考に割り込んでくるのは、鋭い声。それが誰のものであるのか、わかっているはずなのに、あまりに声色が違いすぎて一瞬誰のものかと思ってしまう。
「あ、あぁ……そう、だよね。これからのことを決めないと」
警戒、というよりは不満感を露に、オルちゃんは鋭い睨みを効かせている。本人からすれば、誰ともわからない集団に囲まれ拘束されているも同然の状態、無理はないか。
とはいえ、何もわからない彼女を一人放り出すのは論外だ。そんなことできるはずもない。
なら、これからどうするか? このまま彼女を同行させ、危険な目に会わせるのか?
レイが出てきてくれている今、カーリャさん達のところにオルちゃんを転送させるのが一番安全な手かもしれない。
……本当にそれでいいの?
何もわからないままの彼女を、カーリャさん達大勢に預けて……そこで彼女は、うまくやっていけるだろうか? むしろ大勢の知らない人に囲まれ、何もわからなくなってしまった彼女を怖がらせるだけではないか?
それならば、私達の手で守って守って守り抜いてでも、側にいてくれた方が安心できるのでは?それに、旅を続けることで記憶が戻るきっかけが生まれるかも……
「ま、待ってオル姉! どこ行くの!?」
焦ったユメちゃんの声に、はっとして我に帰る。何事か、視線をさ迷わせる。すると、私達に背を向けどこかへ歩いていくオルちゃんの姿があるではないか。
「なっ、何してるのオルちゃん! どこか行くつもり!?」
こうして考えているうちに、勝手にどこかへ行かれてしまっては困る。慌てて、呼び止めるために声を荒げる。
すると、オルちゃんは立ち止まり、振り返って……
「どこでもいいでしょ。私があなた達と行動を共にする理由なんて……どこにもない」
冷たい瞳で、こう告げた。




