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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
大罪魔獣
269/314

たとえあなたが消えようとも



------



「はぁ、はぁ……!」



 私は、走っていた。ただひたすらに。



 それはなぜか? 突然に、レイからの反応があったのだ。今まで私の呼び掛けに応えてくれなかった、精霊であるレイの。それも、とても大きな。



 ただならぬものを感じた私は、こうしてレイが導く先へと走っているのだ。もちろん、オルちゃんを探すのは諦めたわけではないけど……



「……やだ、この感じ……!」



 どうしようもない不安が、もやもやが、胸の中にある。どうしてこんな気持ちになるのか、自分でもわからない。



 ……レイの側にオルちゃんもいて、且つレイがこんなにも大きな反応を示している……そんな、予感があった。そしてそれは大抵、悪い予感というやつになる。



 まるで、レイの側にいるオルちゃんが、緊急の危機的状況にあるかのような……



「大丈夫、彼女のことだ……そうやすやすとどうにかなるとは思えない」



「そうだよ! きっと、その精霊ちゃんがオル姉を見つけたから、大急ぎで伝えてるだけだって!」



 走る間にも、エドさんとユメちゃんは私を励ましてくれる。もしかしたら、それは自分に向けた言葉なのかもしれない。



「……だと、いいけど」



 私だって、そう思いたい……



「あ、あれじゃない?」



 そこへ、一ヶ所を指差すスカイくんの声が耳に届く。見るとそこには、確かに大きな輝きが……温かな精霊の輝きが、満ちていた。




「レイ! それに……」



 近づくにつれ、レイの側に誰かが倒れているのがはっきりと見えてくる。仰向けに倒れた誰かは、見慣れた青髪を無造作に散らし……いつも元気な姿は、今はどこにもなかった。



「オルちゃん!」



 そこに倒れていたのは、紛れもなくオルちゃんだった。悪い予感が当たってしまったという思いが湧くが、すぐに振り払う。そんな場合では、ないからだ。



 目を覆いたくなるほどに、彼女は見るも無惨な姿になっていた。伸び始めていた青髪はまるで乱暴に千切ったかのように乱雑になっており、服も所々破れている。



 だけどそれ以上に、痛々しいのは……その体自体だ。まるで動物にでも食いちぎられたように、あちこちの肌の中身が露出している。赤い肉が露になり、ひどいところでは骨まで見えている。



「うっ……」



 その光景に、ユメちゃんは口元を押さえて声を漏らす。死体に慣れる形になってしまった彼女でも、今のオルちゃんの姿は平静では見られないようだ。



 あるいは、一緒に旅をしてきた仲間だからこその反応かもしれない。受け入れがたい事実を受け入れられない……



 私だって……まさか、こんな……こんなことに、なるなんて……



「っ、そんな場合じゃない! まだ、まだオルちゃんは生きてる! だから……お願い!」



 こんなところで、泣いている場合ではない。オルちゃんの命の灯はまだ消えてない。でも、こうしている間にもどんどん危なくなってる……



 だから私は……持ちうる限りの天力を使って、オルちゃんを救う! 今度こそ、友達を救ってみせる!



 オルちゃんの側にしゃがみこみ、彼女の体に手をかざす。その両手に、今あるありったけの天力を集めて……



「レイ、お願い! あなたが私を認めてないのはわかる……でも今は、今だけは、お願い……力を貸して。私の友達を、助けて……!」



 正直な話、私の力だけで彼女の体を元に戻す……その確実性はない。可能性を上げるには、精霊たるレイの力が不可欠だ。



 レイは、バランダの一件以来私の呼び掛けに対して応えてくれない。だから、今回ももしかしたら……



「お願い……!」



 でも、オルちゃんまで失うことになったら私は……今回だけでいい。もう私のことを見限ってもいいから、せめて今回だけは力を貸して……!



「ぁ……」



 祈るように目を閉じていたが……体が、温かいものに包まれていく感覚に恐る恐る目を開ける。私の体は、金色の光に包まれていた。



 その中でも、手の先には光……大きな力が集中していた。それは私だけの力ではない、以前にも感じたことのあるもの……レイが、力を貸してくれたあのときと同じ。



 私の呼び掛けに応えてかは、わからない。それでもレイは、今このとき、私に力を貸してくれている。私個人で出しうる力以上の力……それが、私の中に流れてきているのがわかる。



 その凄まじい力をすべて……オルちゃんの治療に対してのみ、向ける。力のすべてを、彼女の回復にだけあてていく。



 精霊の力を上乗せした天力は予想以上の力で、傷ついていたオルちゃんの体を癒していく。傷だらけの体、無惨に千切られたような体すらも、元の姿に戻していく。



 例えば腕が千切れたり、そんな大きな欠陥がない限りはこの力で治すことができる。代わりに注ぎ込む力の大きさは半端ではないけど、そんなもの関係ない。



 オルちゃんを助けられるなら、私は……!



「っ、ふぅ……っ」



 しばらく、回復作業に没頭していた私は、どれほどの時間を過ごしていたのかわからない。エドさんやユメちゃんが辺りを警戒してくれていたためか、別のことに気を取られることもなく……作業は、終了した。



 額に流れる汗を拭い、一段落。 服や髪までは無理だけど、オルちゃんの体には一切の傷のない、元通りの姿に戻っていた。



 後は……目覚めるのを待つだけだ。まだ意識は戻ってないけど、傷は治っている。心臓も動いている。呼吸も正常。……きっと、目を覚ましてくれるはずだ。



 目覚めて、いつものように、うるさいくらいの賑やかさで。その笑顔で、私達のことも笑顔にしてくれる。そう、信じてる。だから、お願い……



「……んっ」



「!」



 オルちゃんの手を両手で握りしめ、願う。どれくらい願っていたのか、わからない……



 けどそこへ小さな、しかし確かな呻き声があった。それが誰のものか……そんなもの、問いかけるまでもない。



「オルちゃん!? オルちゃん!」



 目を、開けた。うっすらと、徐々に大きく。彼女の青い瞳が、ぼんやりと空をさ迷っている。目を開けてくれたことが嬉しくて、呼び掛ける。



 他のみんなも、それぞれに呼び掛ける。オルテリア、オル姉、オルねーちゃん、ワンワンと……呼び掛けは、彼女の意識をこちらに向けるには充分で。




「オルちゃん……よかった、無事で」



「あ……」



 起き上がるオルちゃんを、支える。痛むのか、頭を押さえている。無理もない。傷は治せても、何もかもが完治、というわけにはいかないだろう。



「っつつ……私、気を失って……」



「ううん、いいの。とにかくオルちゃんが無事でよかっ……」



「あの」



 倒れていた彼女を見たときは、最悪の想像をしたが……回復してくれたことに一安心だ。最悪、目を覚まさないなんてこともあり得たかもしれない。



 無事でよかったことを口に出そうとした時に、彼女と言葉が重なった。



 彼女らしく、またオーバーなリアクションで礼でも告げられるのだろうか。その光景を想像して、苦笑いを浮かべてしまう。そして……



「オル、ちゃんって……誰のこと、ですか?」



「……え?」



 そんな未来は来ないのだと、思い知らされた。



「……」



 聞き違い、だろうか。そう思って振り返るが、他のみんなの顔も様々だ。信じられないといった表情、何が起きたかわからないといった表情……それらが、今のは聞き違いでなかったことを教えてくれる。



 ……聞き違いじゃ、ないと。



「え……あ、はは。やだなぁ、オルちゃんってば。冗談にしては……」



 そうだ、これは……



「えっと……私が、オルちゃん、なのですか?」



 何かの冗談だ。そう思えないほどに……そもそもオルちゃんはそんな冗談は言わないだろうが……オルちゃんの瞳は、『知らない人』を見るものをしていた。



 信じられない。信じたくない。でも……私のことも、自分のことさえもわからなくなっているのは事実だ。



 いったい……私達と離れた後、何があったの。あなた一人で、いったい、何が……



「あの……」



 オルちゃんは……私のことを見つめて、言葉を続ける。聞きたくなかった、決定的なその一言を。



「あなたは……だれ、ですか?」



 これが、決定的だった。オルちゃんの……オルテリア・サシャターンの記憶は。人格は。失われてしまったのだと、突きつけられた。



「……っ」



 彼女の中から私は……私の中から私の知っている彼女は……消えてしまったのだと、思い知らされることになった。

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