役に立ちたいと思うこと
ドバァッ!
水の竜は狙いを外すことなく、獲物……大罪魔獣『色欲』アスモデウスへと直撃する。
水の槍に、そして自身の血液に刺された体では避けるどころか動くことさえできず、水の奔流に押し潰される。それは水でありながら……いや水だからこそ、勢いの乗ったそれは凄まじい威力となる。
例えば水面に、ある程度の高さから飛び込んだらどうだろうか。水に打ち付けられ、思いの外痛い。それを想像するとわかりやすいだろうか。
もっともこれは、その非ではないが。
竜の形を作るほどの大量の水は、アスモデウスを呑み込む。だが時間が経つにつれ、当然水の量は減っていき……時間にすればほんの十数秒、水の奔流はその勢いをなくしていく。
全ての水がその役目を終えた時、そこにいたのはその場に立ち尽くすアスモデウスだ。
だが……彼女は立っているというより、立たされていると言ったほうがいい。白目を向いた彼女に意識がないのは明らかだ。彼女を突き刺している水が解けると同時、彼女の体はゆっくりと倒れていく。
その体が、黒く染まって……いや、まるで炭にでもなっていくように、体が崩れていく。
体が地面に倒れきるその直前……体は全て炭と化し、風に乗って消え去っていく。残されたのは、水浸しになった地面だ。そしてそれを見つめる、水の竜を放った張本人、オルテリア・サシャターン。
肩で息をしながら、まだ気は抜かない。何せ相手は大罪魔獣。だが、確実に手応えがあった。そして、目の前で確かに消えた。その胸に、確信があった。
今……大罪魔獣『色欲』アスモデウスは、その命を散らせたのだと。
「や、やった……やったりましたわー! どんなもんです! 私だって役に立つって証明してやりましたわ!」
敵が消滅したことを確認して、両手を掲げる。このまま地面に寝転がってしまいたいくらいの勢いで叫び、実際に仰向けに大の字になって倒れた。
今回の件でようやく、自分も仲間のために役立てたキガスル。仲間が増える……それは喜ばしいことだが、同時に彼女へ力不足の意識も与えていた。
特に、対バランダ戦……あの時オルテリアは、待っててと言われたがリーシャを想って駆けつけた。結果として、オルテリアはバランダの毒にやられ、かえってリーシャの足を引っ張ってしまった。
その後も、リーシャに解毒の手間を取らせた挙げ句にその影響で気絶。その間の出来事は聞いた話だが、大罪魔獣の一角とエドが衝突。さらにはあのスカイも、魔物と合体という不可思議な現象があったとはいえ戦ったというではないか。
あの戦いで、自分は何の役にも立てなかった。みんなには気にすることないと言われたし、そう言ってくれるみんなを心配させないためにオルテリア自身後ろ向きな態度は見せなかったつもりだ。
だが本当は……ずっと、後悔していた。あの時自分も戦えなかったことを……役に立てなかったことを。
別に、仲間でいるためには役に立たないといけない、と思っているわけでもない。リーシャもみんなも、そんな風には言わないだろう。それでも……
「やりきれないですもの。でも、これで……」
嬉しさに、震える。大罪魔獣の一角を崩したと知れば、みんな喜んでくれるだろうか。
少し休憩して、みんなを探そう。もしもオルテリアとリーシャ達を分断させたのが『色欲』の仕業なら、時期にみんなとも合流できるだろう。
そのときに、自慢してやろう。私だってやればできるんだと。みんなは、誉めてくれるだろうか。すごいと言ってくれるだろうか。その光景を思い浮かべ、つい顔がにやけてしまう。
……だから、気がつかなかった。
近づく不穏な影……砂を踏み締める足音が聞こえる。その気配に気付いた時にはすでに、自身への接近を許していた。まさか新手か。冷や汗が流れる。
咄嗟に立ち上がる。疲労を感じさせない、機敏な動きだ。ただの悪魔や魔物ならばどうということはないが、もしも今倒した大罪魔獣のような敵だったら……
「ふぅ……」
一息つく。ここでその可能性を考えても仕方ない。その時はその時だ。今は足音の主を確かめる方が先だ。戦闘体勢を取り、振り向く。いざ……!
「! あ……何だ、リーさんじゃないですの」
振り向いた先にいたのは、オルテリアのよく知る顔だった。この半年以上を共に過ごしてきたパートナー、リーシャ・テルマニン。彼女の出現に、張り詰め直していた糸が切れる。
彼女が来てくれたなら、もう安心だ。それに、他のメンバーも近くにいることだろう。緊張が解け、その場に腰が落ちる。みっともない。
「あ、はは。だらしないですわ、腰が抜けてしまって」
苦笑いを浮かべる。こんなだらしのない姿を見せるつもりはなかったのだが。こちらを見たままのリーシャに、格好がつかないではないか。……こちらを見たままの、リーシャに。
ここで、一つおかしなことに気づく。リーシャならば、今のこんな状態の自分を放っておくわけがないのだ。自惚れではなく、彼女の性格から。駆け寄るなり何なり、何かモーションがあってもいいはずだ。
なのに……目の前のリーシャは、ただただオルテリアを見つめている。それが、どうしようもない違和感へと繋がる。
一つの確信が、オルテリアの胸の中に生まれる。それを確認するように、ゆっくりと口を開けて……
「リー…………いや、誰、ですの。あなたは」




